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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-136

恐れていたミィからのメール。心の奥ではこれから始まる更なる地獄に震えていました。大きなうねりがもう目の前に迫っています。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。

意識の向こうから、黒く光る予感めいた鋭い光が一気に頭の中を支配しました。

私の体はその光を拒絶しますが、どうすることもできず飲み込まれていくだけです。

ミィからの短い一行のメール。

私は全てを察知しました。

「どうしよう・・・。ミィにわかってしまった・・・」

もうどうすることもできません。

しかし、心のどこかでミィは許してくれるような気もしていました。

”きっと彼女なら、全てを受け入れて許してくれる”

そんな、単なる自分に都合の良い希望が私のメンタルを落ち着かせます。

ミィは私のことが大好きなはずです。

今までもこれからもどんなことがあっても私のことを受け入れてくれるだろうという、甘えがありました。

たとえケンカになっても最終的には私を許してくれるだろうという、根拠のない自信を持っていたのです。

だけど、気持ちが晴れることはありません。

今回のことは言い訳が出来ないのです。

ミィには、何を言われても謝るしか術はないでしょう。

私は、プライドが音をたてて崩れるのを感じます。

だけどこの期に及んでまだ私は、カッコつけている”デキる男”である自分が好きでした。

不思議なことに、体を支配する恐怖や苦しみが消えて調子よくすら感じています。

「わかったよ。残業しないで帰る。迎えに行く?」

ミィに返信を打ちます。

1分後、すぐに返信が来ました。

「いや、いい。一人で帰るから。まさくんも仕事、終わったらすぐに帰ってきて」

明らかに怒っていることが想像できます。

それは、当然です。

彼女は、一番信じていた私にまた裏切られました。

それなのにその文面を見て私は逆に機嫌が悪くなります。

「何だよ、この態度っ!!」

もうワケがわかりません。

その日の営業が終わり会社にもどります。

そして、終了業務にタイムカードの打刻。

その後、コートの衿を立て駐車場に向かい、車に乗り込んでまだ少し暖かさの残る車内に乗り込みエンジンキーを回す。

いつもとなにも変わりありません。

家路に戻る風景もいつも通りでした。

駐車場に車を停め、部屋に戻るとひんやりとした空気が部屋全体を覆っていました。

ミィはまだ戻っていないようです。

一瞬背筋に冷たいものを感じます。

すぐ先の未来が真っ黒に塗りつぶされているイメージが湧き、怖くなりました。

とりあえず着替えをしようとスーツを脱ごうとした時、玄関のカギが回る音がします。

「あ、ミィおかえり・・・」

「・・・」

彼女は何も言わずに荷物を置き、私をじっと見つめます。

「な、なんだよ、話って・・・」

「・・・」

何も言わずに私を見つめる5秒くらいの時間が10分にも1時間にも感じました。

「まさくん・・・。なんで言ってくれなかったの・・・?」

「あ、うん・・・なに・・・?」

冷たい空気が重くなって、不快な雰囲気が部屋全体を覆いました。

「私のやつ・・・払ってなかったんだね・・・」

「あ、うん・・・」

「どうして・・・何があったの?私に言えないことなの?」

「い、いや・・・」

全身を覆う脱力感がとても不快です。

もう観念して、全てを話すべきだという気持ちと彼女の前ではデキる男でいなければいけないという気持がせめぎあいました。

そして、そのズルイ気持ちこそが不快の元凶ということにも気付いてます。

だけどやっぱり私は今の自分を認めることができません。

彼女のカードから勝手にお金を引き出し、パチンコ・パチスロに行き、負けて全財産を失うという事実から逃げていました。

そんなのは人間のクズがすることです。

自分がクズだという現実を受け止めることができません。

「まさくん、給料入ってるでしょ?支払いどうしてしてくれなかったの?約束したじゃない!?」

「あ、うん・・・」

「それに勝手に10万円も引き出したでしょ?どうして?」

「い、いや・・・あの・・・」

「その、お金はどうしたのっ!」

私は追い込まれて行き、右も左も後ろにも逃げ場はありません。

少しずつヒートアップしていく彼女を見て、不快な気持ちがさらに増幅されました。

「・・・」

私は、こともあろうにギッと彼女を睨んでしまいます。

不快に耐えられなくなった私の単なる逆ギレでした。

本当のことが言えず、だけどこの空気をどうにかしたい。

だけどどうにも出来ない。

こんな時にできるのは、理不尽な怒りを静かに彼女へぶつけるだけでした。

「まさくん!ちゃんと言って!」

「い、いや・・・」

結局私は、なにも言うことができません。

どんなに思考をフル回転させても、いつものようにウソをならべ言い訳することも、この場の空気を収めることもできませんでした。

少しの間、沈黙が続き冷たい空気がさらに張り詰めていきます。

そっと彼女を見ると、怒りと悲しみが入り混じり、どうしていいかわからない表情をしていました。

その目には、大粒の涙が溜まっていますが必死にこらえているミィを見ていると切なくなります。

全ては自分のせいです。

「い、いや、ミィ・・・」

耐え切れなくなった涙が彼女の頬をつたうと同時に彼女は叫びました。

「まさくんっ!!いいかげんにしてよっ!!」

私が見た、ミィの最初で最後の涙です。


136話終了です。


あと、もう少しで終わります。

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