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『プロジェクトA』に関する個人的な話

  1970年代、ブルース・リーの出現で起こった一大香港アクション映画ブーム。リーの急逝後、サモ・ハン・キンポーなど、若手俳優たちがアクション映画を牽引し、それは現在のドニー・イェンたちまで引き継がれている。そんな中でも、『ドランクモンキー/酔拳』といったコミカルなアクションで人気が火が付き、現在もなお多くのアクション映画に出演し、送り出しているのがジャッキー・チェンだ。主演だけでなく、監督、脚本、武術指導など、俳優以外でも才能を発揮するジャッキーの作品の中でも、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』と並んで人気の高いのが、1983年に製作された『プロジェクトA』だ。筆者は劇場公開時、時間つぶしというか、上手くタイミングが合って、新宿・歌舞伎町にあった新宿オスカーで観たのだが、あまりの面白さに大興奮しながら劇場を後にした覚えがある。その後、テレビ初放送されたのは、1987年1月のテレビ朝日系『日曜洋画劇場』で、ジャッキー=石丸博也、ユン・ピョウ=野島昭生、サモ・ハン=水島裕、ディック・ウェイ=石田太郎というボイスキャストだった。そして、2011年にはWOWOWの“WOWOW大開局祭”で新たに吹替版が作られ、ジャッキーとサモ・ハンはそのままで、ユン・ピョウ=古谷徹、ディック・ウェイ=大塚明夫というキャストに変更された。1981年にフジテレビの『ゴールデン洋画劇場』で『~酔拳』がテレビ初放送されて以来、ジャッキーの声は石丸さんというのが定着していて、彼以外がジャッキーの声を演じるのは考えられないほどのハマりぶりで、長くフィックス声優を続ける石丸さんの姿勢には本当に頭が下がる。ジャッキーが映画に出演している限りは石丸さんに続けてほしいというのが吹替ファンの正直な気持ちだろう。
 当初、タイトルは撮影時の仮のタイトルだったが、音の響きが良かったことからそのままタイトルになったという『A計劃』。ジャッキー演じるドラゴンが所属する海上警察と、ユン・ピョウ演じるジャガーが所属する陸上警察の対立から始まる。折しも、香港では海賊が横行し、海上警察でも船が爆破されるなど、被害を被っていた。ドラゴンとジャガーはサモ・ハン演じる泥棒のフェイを巻き込んで、捕われたイギリス艦隊の提督一行の救出と、ディック・ウェイ演じるサンが頭目の海賊を退治するために“プロジェクトA(A計画)”と呼ばれる作戦を実行するというのが物語の大まかな流れだ。冒頭の酒場での海上警察と陸上警察のケンカシーンを始め、中盤のVIPクラブのシーン、道路から斜面を一気に駆け上がるシーン、自転車を使ったチェイス、終盤の海賊のアジトである島での戦いなど、アイデア満載のアクションが次々に展開していく。ジャッキー、ユン・ピョウともキレのある動きでアクションを披露し、観ている方がハラハラさせられるような危険なアクションもこなして見せる。特に、殺し屋たちに追われたドラゴンが時計台から落下するシーンは危険度もハンパなく、ここまでやるのかと、ジャッキーのアクションに懸ける情熱が伝わってくる。そして、サモ・ハンも加わった3人のアクションは、今観ても素晴らしいし、完成度もかなり高い。さらに、ジャッキーは今で言う“パルクール”をこの当時(1980年代)からやっていたことに、観直して改めて驚かされた。ジャッキーが後のアクション映画に与えた影響は計り知れない。
 1987年には続編である『プロジェクトA2/史上最大の標的』も作られた。ユン・ピョウとサモ・ハンのいない続編は前作のお祭り気分とは一転、パワーダウンは否めななかったが、その分、ジャッキーはマギー・チャン、ブリジット・リン、カリーナ・ラウといった女優たちを積極的に起用し、前作以上にアイデアを駆使したアクションやシチュエーションコメディー風なシーンを構築し、ふたりの不在をカバーしてみせた。ブルース・リーとはまったく違うアクション映画で一時代を築いたジャッキーの作品は後世にも語り継がれるだろう。CGの無い時代に数々のアイデアで体を張ったアクションを作り上げたジャッキーの功績は大きい。

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