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チェン・カイコー監督『北京ヴァイオリン』

 1984年に監督デビュー作『黄色い大地』を発表。その後は1985年『大閲兵』、1987年『子供たちの王様』、1991年『人生は琴の弦のように』、1993年『さらば、わが愛/覇王別姫』、1996年『花の影』、1998年『始皇帝暗殺』、2001年にはハリウッドに渡って『キリング・ミー・ソフトリー』、2005年『PROMISE』、2008年『花の生涯~梅蘭芳~』、2010年『運命の子』、2018年『空海-KU KAI- 美しき王妃の謎』、2021年『1950 鋼の第7中隊』などを手掛けたチェン・カイコー監督。彼が『キリング~』の興行的失敗の後、中国に戻って2002年に監督したのが『北京ヴァイオリン』(原題『和你在一起』)だ。主人公のチュンを演じるのは当時、音楽学校に通う学生で映画初出演のタン・ユン、父親のリウをベテラン俳優リウ・ペイチー、近くに住む女性リリをカイコー監督夫人のチェン・ホン、チュンの最初の音楽教師チアンをワン・ウーチェン、チアンの後の音楽教師ユン教授役をカイコー監督自身が演じ、妻のチェン・ホンとの夫婦共演が実現した。そして、2004年にはカイコー監督が芸術総監督として参加したテレビドラマ『北京バイオリン』全24話が製作され、日本では2007年にNHK衛星第2と総合で放送された。
 筆者がこの映画を最初に観たのは渋谷にあった今はなき配給会社シネカノンの試写室。マスコミ試写ながら何か心にグッとくるものがあって号泣してしまい、試写が終わった後、ぐしゃぐしゃの顔を隠すかのように試写室を出た記憶がある。その後、DVDが発売され、日本語吹き替え版はソフト版のみで、タン・ユン=小野賢章さん、リウ・ペイチー=佐々木梅治さん、ワン・ウーチェン=入江崇史さん、チェン・ホン=魏涼子さん、チェン・カイコー=土師孝也さんというボイスキャスト。DVDを買っていたもののなかなか観る機会がなく、久しぶりに引っ張り出して観てみた。
 中国北部の田舎町、タン・ユン演じる13歳のチュンはリウ・ペイチー演じる父リウとふたり暮らしで、母親の残したヴァイオリンを上手に弾くことから近所でも評判になっていた。ある日、リウはチュンをコンクールに出場させるため、北京にやってくる。コンクールでは5位に終わったチュンだったが、ワン・ウーチェン演じる音楽教師チアンの元で修業させる。リウはチュンのため、さまざまな仕事をしながら金を稼ぐ。チュンはチェン・ホン演じる駅で出会い、家の近くに住んでいる女性リリと再会する。チュンをメインに前半はリリ、チアンとのエピソード、後半はカイコー演じるユン教授とのエピソードが展開していく。映画全体に聴いたことのあるクラシック音楽が流れ、後半で少しだけ、クライマックスに流れるのがチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 第3楽章」。チュンとリウの秘密(ユン教授がチュンに話してしまう場面もあるが……)が明かされるクライマックスに流され、曲に合わせた現在と過去のカットバックが感動を盛り上げる。
 この『北京ヴァイオリン』と同様にチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」が使われるのが、2009年のフランス映画でラデュ・ミヘイレアニュ監督の『オーケストラ!』。同じくクライマックスのコンサート場面で演奏されるのだが、『北京~』よりも尺が長めになっている。で、ここでもメラニー・ロラン演じる世界的ヴァイオリニスト・アンヌの過去がカットバックで(演奏内に未来の姿も)描かれる。尺は違うものの、やっていることはほぼ同じで、製作時期が後の『オーケストラ!』が参考にしたのかどうかは定かではないが、音楽が映画の感動を盛り上げる効果を上げるということでは大成功していて、観ている方はまんまと術中にハマってしまう。

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