『ビッグ・ウェンズデー』に関する個人的な話
日本では数多くの洋画が公開されるが、アメリカではあまりヒットせず、日本でヒットした映画がある。その中の1本が『コナン・ザ・グレート』や『若き勇者たち』などのジョン・ミリアス脚本・監督、ジャン・マイケル・ヴィンセント、ウィリアム・カット、ゲイリー・ビジー共演の『ビッグ・ウェンズデー』だ。なぜ、アメリカではヒットしなかったのだろうか。サーフィンを通した3人の若者の12年に渡る物語で、友情、戦争、友人の死、挫折など、アメリカ人よりも日本人が好みそうなテーマが詰まった映画だとは思う。筆者が最初に観たのは劇場公開時で、秋田市にあった映画館・松竹有楽座で、スチュアート・ラフィル監督、ロバート・ローガン主演の『サバイバルファミリー』(未だに日本ではDVD化されていない)と2本立てで、正直、2本目に観た『ビッグ~』の方に感動した。だが当時、エンドロールが川崎龍介が歌う「こころに海を」に差し替えられていたことでガッカリしたことを記憶している。その後、シネマライズ渋谷でリバイバル上映されたときはオリジナルになっていたので、ようやくちゃんとした本編を観られたことになる。そして、新文芸坐で“ワーナー・ブラザース シネマフェスティバルPART4”でジョージ・ロイ・ヒル監督の『ガープの世界』と2本立て&35ミリフィルムで上映されたときに久々に大画面で観て、改めて感動した。テレビ初放送は1983年8月の日本テレビ『水曜ロードショー』の2時間枠で、ヴィンセント=酒井宗親、カット=神谷明、ビジー=土師孝也というキャスティングで、それ以降、あまりテレビ放送されなかった(かなり後にザ・シネマで放送)のは寂しい限りだが、レーザーディスクもDVDも持っている。
物語は4つのパートに分かれていて、最初は“南のうねり 1962年夏”で、ヴィンセント演じるマット、カット演じるジャック、ビジー演じるリロイがサーフィンやパーティーに明け暮れる楽しい日々が描かれる。ふたつ目が“西のうねり 1965年秋”で、ベトナム戦争の影がちらつき始め、3人と仲間たちが召集令状を受け取って徴兵検査を受け、マットとリロイは何とか徴兵を免れるが、ジャックは入隊して戦地に向かう。3つ目は“北のうねり 1968年冬”で、仲間のひとりが戦死し、ジャックが3年ぶりに戦場から戻ってきて、その仲間を思い出す。最後は“大きなうねり 1974年春”で、“ビッグ・ウェンズデー”と呼ばれる大波が押し寄せ、マット、ジャック、リロイが久しぶりに再会し、大波に挑んでいく。最初はサーフィンやパーティーに明け暮れてバカばかりやっていた3人も、時代を重ねるごとに変化し、大人になっていく姿が哀感を込めて描かれ、過ぎし日の青春を懐かしむというノスタルジックな味わいは、年齢を重ねてから観るとジワジワと心に染みてくるようになる。ベイジル・ポールドゥリスの音楽が素晴らしく、テーマ曲を聴くたびに気持ちが熱くなる。さらなる見所はサーフィンシーン。特に、クライマックスの大波のシーンは大迫力で、さまざまなアングルから撮影された本当に映像が見事で、撮影監督のブルース・サーティスの完璧な仕事ぶりにも唸らされる。そのほか、『エルム街の悪夢』シリーズでフレディを演じたロバート・イングランドや、テレビシリーズ『マイアミ・バイス』のスワイテク刑事役マイケル・タルボットが脇役で出演していたりと、無名時代の若き俳優たちの姿を見られるのも楽しみのひとつと言える。
サーフィンを題材にした映画は日本でも世界でも数あれど、やはり『ビッグ~』がナンバーワンと言っても過言ではないと思う。4Kデジタルリマスター版で過去の映画が数多く上映されている昨今、この映画も上映されないかと密かに期待している。迫力のある数々のサーフィンシーン、ポールドゥリスの音楽など、いい映像といい音で観てみたいを思っているのは筆者だけではないだろう。こういう映画こそ、大画面で味わいたい1本だと思う。