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スタンリー・ドーネン監督、ケーリー・グラント&オードリー・ヘプバーン主演『シャレード』

 オスカーを獲得した『ローマの休日』で一気にスターダムに駆け上がり、日本を始め、世界で人気の高い女優オードリー・ヘプバーン。ジーン・ケリーとの共同監督作品『踊る大紐育(ニューヨーク)』『雨に唄えば』『いつも上天気』ほか、『略奪された七人の花嫁』などのミュージカルから『スペースサタン』といったSFまで、幅広いジャンルの作品を数多く手掛けた巨匠スタンリー・ドーネン監督。このふたりが組んだ作品といえば、フレッド・アステア共演の『パリの恋人』、アルバート・フィニー共演の『いつも二人で』などがあるが、その中でも人気の高い1本がケーリー・グラントと共演したロマンティックサスペンス『シャレード』だ。
 筆者が初めてこの作品を観たのは、おそらくだが、1985年6月に放送されたテレビ朝日『日曜洋画劇場』だったと記憶している。そのときの吹き替えキャストはヘプバーン=池田昌子さん(DVD版までは同じ)、グラント=黒沢良さん、ウォルター・マッソー=小松方正さん、ジェームズ・コバーン=小林清志さん(日本テレビ版までは同じ)、ジョージ・ケネディ=渡辺猛さんだった。ちなみにテレビ初放送の1972年1月のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』ではグラント=中村正さん、マッソー=富田耕生さん、ケネディ=島宇志夫さん、1994年2月の日本テレビ『金曜ロードショー』ではグラント=瑳川哲朗さん、マッソー=永井一郎さん、ケネディ=坂口芳貞さん、DVD版ではグラント=佐々木勝彦さん、マッソー=長島雄一さん、コバーン=廣田行生さん、ケネディ=福田信昭さん、PDDVD版ではヘプバーン=柊えりさん、グラント=村瀬克輝さん、マッソー=福里達典さん、コバーン=大塚智則さん、ケネディ=瀬水暁さんというキャスティングで日本語版が作られている。劇場のスクリーンで初めて観たのは、午前十時の映画祭のフィルム上映だったと思う。それまではビデオやテレビ放送、DVDでしか観られる機会がなかったので、午前十時でのスクリーン上映は本当に有難かった。
 物語はヘプバーン演じるレジーナの富豪の夫チャールズが何者かに列車から突き落とされ、殺されたことから始まる。レジーナは旅行先のスキー場で出会ったグラント演じるピーターと再会。さらに、マッソー演じる大使館職員バーソロミューに声を掛けられ相談に乗ってもらい、コバーン演じる謎の男ベンソロー、ケネディ演じる片腕の男スコビーなどに命をねらわれる。そこには、レジーナの知らないチャールズの過去が絡んでいた……。
 オープニングは『007』シリーズほか、数多くのタイトルデザインを手掛けたモーリス・ビンダーのシャレたタイトル、ヘンリー・マンシーニ作曲のテーマ曲が流れ、気持ちを一気に持っていく。起承転結と伏線を巧みに使い、観る者を惑わせながら、最後のオチまで楽しませるピーター・ストーンの巧みな脚本、ジバンシーの衣装に身を包んだヘプバーンとグラントの年の差コンビの丁々発止の掛け合い、マッソー、コバーン、ケネディといった名優たちががっちりと脇を固めた演技アンサンブル、全体を彩るマンシーニの音楽、ドーネン監督の手慣れかつ洒落た演出と、すべてが一級品で、今、観直しても飽きさせない魅力に満ちている。ヒッチコック作品に数多く出演するグラントをキャスティングしたこと、ヒッチコックが得意とする“巻き込まれ型サスペンス”ということからしても、ドーネン監督がヒッチコック作品をかなり意識して撮ったということは明らかで、監督やキャストたちがヒッチコック作品のパロディーとして楽しんでいるのが映画の雰囲気からも伝わってくる。この映画を何も知らずにこれから観るという人が本当にうらやましい。二転三転する展開に驚けるのは初めて観る人の特権なのだから……。
 今回はNHKのBSプレミアムで放送された『~デジタル・リマスター版』で観たのだが、それまでに午前十時の映画祭や過去のテレビ放送などで観た色あせた印象(状態がいいだけのニュープリント、もしくは、それを基にしたDCP)とはまったく違い、画質、色彩とも、これまでに観たことがないような鮮やかさで、こんな映画だったのかと驚かされた。現在発売中のブルーレイが同じものなのかどうかは未見なのでわからないが、デジタル・リマスター版の恩恵で、かなり綺麗な状態のこの映画を観られたのは嬉しくて、得した気分を満喫した。 

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