ブライアン・G・ハットン監督、クリント・イーストウッド主演『戦略大作戦』
2023年5月31日で御年93歳となり、最新監督作(もしかして最後になるかも……)に取り組んでいると言われているクリント・イーストウッド。今や巨匠監督となった彼は数々のB級映画に出演した後、テレビシリーズ『ローハイド』のロディ・イエーツ役で人気となる。その後、イタリアでセルジオ・レオーネ監督の“ドル三部作”に出演して世界的な人気を得、アメリカに凱旋する。そして、イーストウッドはブライアン・G・ハットン監督と組んだ2本の映画に出演する。1本目は『ナバロンの要塞』などで知られる作家アリステア・マクリーンが自ら映画脚本を担当し、リチャード・バートンと共演した戦争アクション『荒鷲の要塞』。2本目がテリー・サバラスやドナルド・サザーランドといった俳優たちと共演した戦争コメディ『戦略大作戦』だ。
この映画がテレビ初放送されたのは1977年10月14日のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』で、イーストウッド=山田康雄さん、サバラス=大平透さん、サザーランド=宍戸錠さん、ドン・リックルズ=永井一郎さん、スチュアート・マーゴリン=大塚周夫さんという豪華なキャスティングだが、それでもカット版だった。その後、テレビ東京の『木曜洋画劇場』でリピート放送されたときに本編約93分のカット版を観たのが初めてだった。何度となくノーカット版を観ようと試みるのだが、なかなか機会に恵まれず、今年の9月にムービープラスで放送された『吹替完全版』でようやく全編を観ることができた。現在残っている地上波放送部分以外を別キャストで収録したというバージョンで、イーストウッド=多田野曜平さん、サバラス=楠大典さん、サザーランド=咲野俊介さん、リックルズ=茶風林さん、マーゴリン=大塚明夫さんという、これまた理想的な豪華キャスト陣で、オリジナルの声優さんの声に近づけようとしているのがよくわかり、さほどの違和感もなく観られた。昨今、ムービープラスでは『荒鷲の要塞』の吹替完全版も作られ、これまた素晴らしいキャスティングで、吹き替えファンのツボを心得ているなぁ、と感心している。こういう吹替版なら作られてもいいし、何度でも観てみたくなる出来栄えだ。
舞台は第二次世界大戦最中のフランス。イーストウッド演じる元中尉のケリーはデヴィッド・ハースト演じるドイツ国防軍の情報将校ダンコーフ大佐の身柄を拘束し、鞄の中から金塊を発見する。ケリーは大佐をブランデーを飲ませて酔わせ、前線の向こうにある小さな街クレアモントの銀行に大量の金塊が保管されていることを聞き出す。ケリーはサバラス演じる軍曹ビッグジョーや小隊のメンバーを引き連れ、中隊長から与えられた3日間の休暇を利用し、金塊をいただきに向かう。だが、さまざまな方面に手を回すうち、リックルズ演じる物資補給係の軍曹クラップ(吹替ではサイコロと言われていた)や、サザーランド演じる戦車部隊の軍曹オッドボールなど、仲間が次々に増えていく。そして、ケリーたちが街に進む間にはドイツ軍が待ち構えていた……、というのが大筋の流れだ。第二次世界大戦を舞台にしているとはいえ、休暇中に銀行に金塊をいただきに行くという発想がまず面白いし、戦争に勝とうと躍起になっている上官や、ヨットに現を抜かす中隊長を尻目に、仲間たちと共に戦線を突破していくというのが楽しい(映画中盤の地雷原では3人の犠牲者が出てしまうので、不謹慎かもしれないが……)。いかに戦争というものが不毛なもので、そんな戦争に嫌気が差しているという心理描写があることで、金塊を奪うというユーモアで包みながら上官たちを茶化していることからも、十分に反戦のメッセージとしては伝わってくる。さらに楽しいのは街に到着するものの、オッドボールの戦車が故障し、さらなる攻撃ができなくなったときに取るケリーたちの行動だ。銀行を守るタイガー戦車に乗るカール=オットー・アルベルティ(そういえばこの人、『大脱走』でもドイツ軍将校役だったことを思い出した)演じる戦車長にビジネスを持ち掛ける。この後の展開は未見の方もいると思うので内緒にするが、その痛快さに胸がスカッとすること間違いない。
爽快なラストシーンやオープニング、中盤で流れるのがマイク・カーブ・コングリゲーションが歌う「燃える架け橋(Burning Bridges)」だ。そういえば、実家にいたころ、このバージョンのほかにも本命版と表記されたカバーバージョンのレコードもあって、ロック調なその曲もよく聞いていた。作曲は音楽を担当するラロ・シフリン。映画全体の音楽もシフリン節が炸裂し、聴いただけでシフリンの曲だとわかるのも楽しみのひとつだと思う。
筆者は実はこの『戦略大作戦』を未だに映画館の大きなスクリーンで観たことがない。同じハットン監督の『荒鷲の要塞』と併せて、午前十時の映画祭で特集するとか、4Kデジタルリマスター版で再上映されないものかと密かに期待している。そんなことを考えている映画ファンも筆者だけではないはずだ。