ジョージ・ルーカス監督『スター・ウォーズ』(劇場初公開版)
ジョージ・ルーカス率いるルーカス・フィルムがディズニーに買収されて以降、第7作『スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒』から第9作『~エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』までの映画三部作、スピンオフほか、テレビドラマ、新たな映画版など、まだまだ広がり続ける『スター・ウォーズ』ワールド。そもそもはジョージ・ルーカスが監督した『スター・ウォーズ』(後に『~エピソード4/新たなる希望』と改題)が始まりだった。1977年5月にアメリカで公開されて大ヒットを記録。日本で公開されたのは、アメリカでの大ヒットの1年後の1978年7月(6月24日からは先行上映もされた)だった。映画ファンはアメリカでの噂を聞いていて、上映まで1年以上も待たされたことになる。筆者が実際にこの映画を観られたのは半年後の12月。実家近くの秋田県大曲市(現在の大仙市)にあった月岡映画劇場の洋画専門の上映スクリーン・大曲日劇で、同時上映はウォルター・ヒル監督、ライアン・オニール主演の『ザ・ドライバー』だった。当時は作品のダイジェスト的な吹き替え版のレコード(マーク・ハミル=神谷明さん、キャリー・フィッシャー=潘恵子さん、ハリソン・フォード=羽佐間道夫さん)が発売されたり、リバイバル時に日本語吹き替え版(ハミル=奥田瑛二さん、フィッシャー=森田理恵さん、フォード=森本レオさん)が制作されて上映されたこともあった。
初めてテレビで放送されたのは1983年10月5日の『水曜ロードショー』で、愛川欽也さんの解説、番組の冒頭にはタモリさんとC-3PO、R2-D2が登場するというバラエティー番組のノリのオープニングがあったと記憶している。そのときの吹き替えキャストはハミル=渡辺徹さん、フィッシャー=大場久美子さん、フォード=松崎しげるさんという異色メンバーだった。この吹き替えが不評だったこともあり、2回目の放送となった1985年10月11日の日本テレビ『金曜ロードショー』では、ハミル=水島裕さん、フィッシャー=島本須美さん、フォード=村井國夫さんという、ファンも納得のキャストに変更になった(その後の2作も同じキャストで収録)。そして、3回目の放送となった2002年5月3日の日本テレビ『金曜ロードショー』では、ハミル=島田敏さん、フィッシャー=高島雅羅さん、フォード=磯部勉さん(DVD版以降はこのキャストで)だった。現在は特別編しか観られないが、筆者はあえてDVDのリミテッド・エディションに収録された1977年の劇場初公開版に絞ってこの後の話を展開してみたい。
旧三部作の『~エピソード4/新たなる希望』とサブタイが付く前の『スター・ウォーズ』は、タイトルが出てからすぐに説明のテロップが流れるというもので、「エピソード~」は付いていない。そのテロップの後、巨大なスター・デストロイヤーが登場するシーンはインパクトが大きく、驚かされたものだった。映画全体を見ると、後に作られる続編につながるキーワードが出てくるものの、当時は続編が作られるなんて考えなかったから、純粋なヒーロー誕生物語かつ勧善懲悪の冒険活劇という感じで捉えていた。冒頭に登場するのがC-3POとR2-D2、悪役のダース・ベイダーとフィッシャー演じるレイア姫、ハミル演じるルーク・スカイウォーカーは20分過ぎ、フォード演じるハン・ソロは40分過ぎぐらいに登場し、3人が合流するのがデス・スターの内部が描かれるところからだ。C-3POとR2-D2が文句を言いつつ話すところや、ルークとソロがレイアを連れて逃げるあたりは黒澤明の『隠し砦の三悪人』、アレック・ギネス演じるオビ=ワン・ケノービが酒場で荒くれ者の腕をライトセーバーで切り落とすのは同じく黒澤の『用心棒』など、黒澤映画好きなルーカスらしいオマージュが多々あり、その当時、ルーカスはSFという枠組みを使って冒険活劇映画が作りたかったんだろうなと改めて思った。当時としては最先端のSFXが駆使(ルーカスが設立したILMが担当)されていて、今、観ると古く感じるのだろうが、当時はそのSFXの数々に度肝を抜かれたものだった。後に『スター・ウォーズ』シリーズの音楽を手掛けるジョン・ウィリアムズのオーケストレーションを駆使した壮大なテーマ曲ほか、音楽の素晴らしさも特筆ものだ。
映画がヒットしたことから続編を作るため、この1977年製作の第1作の意味合いが変わってしまったのは仕方のないことで、当初からルーカスは6部作(一説には9部作)と考えていたのを実現させたわけだが、そんなことを考えずに一心不乱に第1作を作っていた心意気を感じられるのが、この劇場初公開版だと思う。後にルーカスは特別篇ということで、製作当時にできなかったことを実現させるために数々の手を加えていくが、映画ファンはやはり完全とはいえない劇場初公開版が劇場の大きなスクリーンで観てみたいと思っているはずだ。できれば封印したままにせず、スクリーンでの上映、新たなソフトでの発売など、劇場初公開版が手軽に観られる機会が今後できないだろうか……(今のところ無理かもしれないが、遠い将来、実現の可能性もあるかも……)。