柴田恭兵&ジョニー大倉共演、川島透監督『チ・ン・ピ・ラ』
1983年に公開された川島透監督の『竜二』。鈴木明夫名義で脚本を担当し、主演した金子正次が注目を浴びたが、劇場公開中に病気で亡くなってしまう。享年33歳。金子は『竜二』の前に劇団東京ザットマンでアングラ演劇の舞台に立ち、1981年のテレビドラマ『プロハンター』第16話「悪い女」、1982年に村川透監督、石原良純主演の『凶弾』にも出演していることは後に知ることになる。もし、金子が急逝せず、『竜二』以降、映画界で活躍していたら、映画の歴史は少しでも変わっていた気がする。何とももったいない限りだ。そんな金子が残した遺稿を基に、川島監督が映画化したのが1984年の『チ・ン・ピ・ラ』だ。劇場公開時は中田新一監督、和由布子と田中隆三が共演した『海に降る雪』と2本立てで、筆者は今はなき新宿コマ東宝で観た。ちなみに、『竜二』は劇場公開時ではなく、今はなき高田馬場東映パラスでの再上映時に、松方弘樹主演の『修羅の群れ』と2本立てで観て、『竜二』にいたく感動したものだった。『チ・ン・ピ・ラ』はその1年後、フジテレビの『ゴールデン洋画劇場』で放送され、VHSビデオが発売されたが、その後は再見する機会にも恵まれず、2010年7月にようやくHDリマスター版のDVDが発売され、チャンネルNECOやWOWOWでも放送された(姉妹編の『ハワイアンドリーム』は放送されているが、未だにDVD化されていない)。過日、チャンネルNECOで録画していたものを久しぶりに再見した。
舞台は渋谷。柴田恭兵演じる洋一とジョニー大倉演じる道夫は競馬のノミ屋をやりながら生活するチンピラだった。ある日、洋一は川地民夫演じる親分格の大谷から盃をもらって正式なヤクザになることを勧められる。だが、兄貴分である道夫を差し置いて声がかかったことから、道夫は年齢がネックになり、ヤクザにはなれないと葛藤し、ふたりは別々の道を歩み始める。そして、道夫が大谷から預かっていたシャブを横流しして逃亡したことから、洋一がある行動に出るというのが大筋だ。洋一と道夫はヤクザというプロではなく、チンピラというアマチュアだというのがミソで、ふたりがプロではなくアマチュアとして自由に生きたいという心情は、彼らの軽快な会話と丁々発止のやり取りから伝わってくる。フジテレビという大メジャーが製作に絡んでいる(劇場公開時、このふたりで『マッドマックス2』の吹き替え版が作られ、ゴールデン洋画劇場で放送されたこともあった)ことで、映画全体は明るいタッチになっているが、ところどころでは金子の色が活かされたと思われる繊細さを感じさせる描写も見受けられる。柴田は後の『あぶない刑事』シリーズの大下勇次に通じるようなキャラクターで、大倉は『遠雷』の広次に通じるようなキャラクターだが、今作でも大倉の方が役的に美味しいところを持っていってるような気がした。洋一の彼女になる裕子役の高樹沙耶(現・益戸育江)、道夫の愛人・美也役の石田えり(大倉とは『遠雷』で共演していたことを思い出した)といったヒロインや、久保田篤、我王銀次、利重剛など、脇を固める顔ぶれもどこか懐かしい。さらに、今の渋谷の姿とはまったく違う、オールロケされた1984年の渋谷の風景(東急文化会館、東横線ホームなど)もリアルタイム世代には懐かしいし、終盤の東急本店前で洋一と道夫が撃たれるシーンはおそらくゲリラでロケがされていて、周辺の人々のリアルなリアクションも見られる。こんなロケ、今ではできないだろうな。
もし、金子が生きていて、『チ・ン・ピ・ラ』が金子絡みで映画化されていたら、どんな映画になったんだろうか。今作のような明るい映画になったんだろうか。もしかしたら、もっと暗い映画になったんじゃないかなんて想像もした。それほど、金子が当時の映画界に残したインパクトは大きかった。この後、1987年に陣内孝則主演、梶間俊一監督で『ちょうちん』、1991年に哀川翔&的場浩司共演、高橋伴明監督で『獅子王たちの夏』が映画化され、2002年には『竜二』を素材にした高橋克典主演、細野辰興監督の『竜二FOREVER』も作られた。2023年に製作40周年を迎え、10月27日(金)からはテアトル新宿でDCP版も上映される『竜二』は時代を超えて映画ファンから熱い支持を受けているが、この『チ・ン・ピ・ラ』も今だからこそ再評価されて然るべき作品だと思う。久々に観直して、そんなことを思った。