三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ脚本、中原俊監督『12人の優しい日本人』
『王様のレストラン』や『古畑任三郎』シリーズ、NHK大河ドラマ『新選組!』『真田丸』『鎌倉殿の13人』といったテレビドラマ、自ら監督した『ラヂオの時間』『みんなのいえ』『THE 有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』『清洲会議』『記憶にございません』などの映画、現在は充電期間中の劇団・東京サンシャインボーイズ時代を始めとする舞台作品と、今や日本を代表する脚本家で劇作家の三谷幸喜。彼が東京サンシャインボーイズ時代に手掛けた舞台を、1989年に6人の映画プロデューサーが中心となって設立されたアルゴプロジェクト(1993年にアルゴ・ピクチャーズに改名)が1991年に映画化したのが『12人の優しい日本人』だ。ベースとなっているのは1957年のアメリカ映画でシドニー・ルメット監督の劇場用映画デビュー作となり、ヘンリー・フォンダがプロデュースと主演を兼ねた『十二人の怒れる男』。当時、まだ裁判員制度(陪審員制度)のなかった日本に、もし陪審員制度があったらという発想から生まれた作品だ。監督はにっかつロマンポルノを出発点に、1986年『ボクの女に手を出すな』、1987年『メイクアップ』、1992年『シーズン・オフ』、1999年『コキーユ~貝殻』ほか、数々のテレビドラマやオリジナルビデオ作品を手掛け、前年の1990年に監督した同じアルゴプロジェクト作品『櫻の園』が高く評価された中原俊。メインとなるのは陪審員1号の塩見三省、2号の相島一之、3号の上田耕一、4号の二瓶鮫一、5号の中村まり子、6号の大河内浩、7号の梶原善、8号の山下容莉枝、9号の村松克己、10号の林美智子、11号の豊川悦司、12号の加藤善博。ほかは守衛役で久保晶、ピザ店の配達員で近藤芳正のみというキャスティングだ。
筆者がこの映画を始めて観たのは劇場ではなくレンタルビデオだったと記憶している。そのころは三谷幸喜という名前をほとんど知らずに観て、あまりの面白さに驚かされた。この映画をきっかけに舞台やテレビドラマ、映画の三谷作品を追い始めることになる。
夫を殺した罪で裁判になっている若い女性の評決をめぐって選ばれた12人の陪審員たちが話し合いを繰り広げていくというのがあらすじだ。舞台版ではステージ中央にテーブルが置かれ、そこに出演者たちが登場し、話し合いが繰り広げられていく。一方、映画版では舞台となるのが陪審員たちが集まる部屋で、部屋の外の廊下、トイレ、中庭、隣の部屋と、映画らしい奥行きを随所に入れ込んで立体的に見せていく。ほとんどは部屋の中だけで、12人の陪審員役の役者たちが繰り広げる芝居をカメラがすくい取っていく。舞台劇らしい丁々発止の掛け合い、三谷作品らしいユーモア、飲み物や食べ物という小道具の使い方、話し合いを引っかき回す役割の2号役の相島一之の際立つ存在感、当時はまだ無名だった11号役の豊川悦司(ラストのオチもニクい)が本格的に参加してくるラスト30分の一気呵成な展開など、密室劇という特性を生かした演出も素晴らしい。
この作品、久しぶりに観直してみたが、本当によく出来ていると改めて思った。『櫻の園』、そして『12人~』と、中原監督がノリにノッていた時期の作品で、2本とも高い評価を受けるというのは本当にスゴいことだ。大手の映画会社ではないからこその挑戦的な企画を次々に実現したアルゴプロジェクトの存在も大きかった。映画化されてからもう30年以上経過しているが、この映画の面白さは今観ても変わらない。