根岸吉太郎監督、永島敏行主演『遠雷』
1978年に日活ロマンポルノ『オリオンの殺意より 情事の方程式』で映画監督デビューし、1979年『女生徒』『濡れた週末』、1980年『暴行儀式』『朝はダメよ!』、1981年『女教師 汚れた放課後』『狂った果実』、1982年『キャバレー日記』といったロマンポルノ作品を経て、1983年『俺っちのウエディング』『探偵物語』、1985年『ひとひらの雪』、1986年『ウホッホ探検隊』、1987年『永遠の1/2』、1992年『課長 島耕作』、1993年『乳房』、1998年『絆-きずなー』、2004年『透光の樹』、2005年『雪に願うこと』、2007年『サイドカーに犬』、2009年『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』などの一般映画を手掛けた根岸吉太郎監督。最近は監督作もごぶさたな根岸監督だが、1981年に立松和平の原作を荒井晴彦の脚本を得て映画化した一般映画初監督作が『遠雷』で、出演は永島敏行、ジョニー大倉、石田えりほか。都会化の波が押し寄せる栃木県宇都宮市の農村地帯を舞台にした青春映画だ。
筆者がこの映画を初めて観たのは劇場公開ではなく、水野晴郎さんが解説をしていた日本テレビ『水曜ロードショー』の1982年12月1日放送の2時間22分枠のテレビ初放送だった。このころの”水曜ロード”は現在のようなスタジオジブリ、ハリー・ポッター、ディズニー作品ばかりのラインアップ(たまにリクエスト企画や新作がらみの旧作放送はあるが……)ではなく、『ヒポクラテスたち』『家族ゲーム』などのATG作品や、『翼は心につけて』『泥の河』など、独立系の作品なども積極的に放送していた。そして、名画座で黒木和雄監督の『祭りの準備』との2本立て、テレビ東京の土曜日の深夜で放送されていた『日本映画名作劇場』でも観た。そして今回、仕事絡みでかなり久しぶりにUーNEXTの無料配信で再見した。
舞台は栃木県宇都宮市にある農村地帯。永島演じる満夫はビニールハウスでトマト栽培をする青年。大倉演じる広次は満夫の親友で、何かとつるんでは遊び回る日々を送っていた。ある日、満夫にお見合いの話が持ち上がる。その相手は石田えり演じるあや子。お見合いの後、ドライブに出かけたふたりはラブホテルでひとときを過ごす。そのことがあや子の母親にばれ、ふたりは結婚を前提に交際を始める。そして、横山演じる人妻のカエデと付き合い始めた広次がカエデを連れて失踪してしまう……というのが流れだ。都会では考えられない地方独特の近所付き合いとか、結婚を親に急かされたりとか、地方出身者にとってあるあるな、身につまされるような話が展開していく。このころの青春映画には欠かせない永島は地方の青年を好演し、清純派のイメージが強かった石田が思い切った演技を披露したことには、当時、驚かされたものだった。そして、満夫とあや子のエピソードと並行して描かれるのが、満夫と広次の友情エピソードだ。カエデを取り合ったふたりだが、結局、カエデは広次と付き合うことになる。クライマックスではある事件を引き起こして逃げていた広次が、満夫の結婚式の夜に満夫の家にやってくる。満夫はビニールハウスに広次を連れてきて告白を聞く。大倉は長廻し、長ゼリフで事件の顛末を語り、永島が受けの芝居で応える。このシーンは映画の最大の見せ場で、満夫が広次を自首させるべく警察署に行くシーンは青春の終えんとほろ苦さがにじみ出る。その後、明け方に満夫とあや子が友人たちのリクエストで歌をうたう。当時のあるアイドルのヒット曲(未見の方もいると思うので、曲名は映画を観てのお楽しみ)が歌われるのだが、その曲と場面が本当によくマッチしていて、思わず感動させられる。大倉の独白シーンとこのシーンはこの映画の白眉だと言っても過言ではない。
永島、大倉、石田のほかにも、横山リエ、ケーシー高峰、七尾怜子、原泉、蟹江敬三など、幅広い俳優たちが出演している。原作者の立松も農協職員A役で、永島とは藤田敏八監督の日活映画『帰らざる日々』で共演した江藤潤が農協職員B役で特別出演し、永島との共演も見られる。どのシーンで登場するかは、ぜひ本編でお確かめいただきたい。