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ジェームズ・ディーンに関する個人的な話

 1955年9月30日、ひとりの俳優が自動車事故によって24歳という若さで亡くなった。その名はジェームズ・ディーン。『エデンの東』で初主演(それまでは端役が多かった)し、『理由なき反抗』に主演、『ジャイアンツ』(製作は1955年)に準主役で出演したが、あっという間にこの世を去ってしまった。日本で『エデンの東』が公開(1955年10月4日)されたときには、すでに故人で、彼のことはもう作品でしか知る由はない。今回の“午前十時の映画祭12”で『エデンの東』と『理由なき反抗』が4Kマスター版で上映され、2本とも観る機会があったので、かなり前に観ていた『ジャイアンツ』も含めて、“個人的な話”シリーズの新バージョンとして語ってみたい。
 まずは初主演作『エデンの東』。ジョン・スタインベックの同名小説を、『波止場』などで知られるエリア・カザン監督が映画化。1917年、アメリカ・カリフォルニア州にあるサリナスという町を舞台に、レイモンド・マッセイ演じる父親アダムに愛されないことに悩むディーン演じるキャルの葛藤を、リチャード・タヴァロス演じる双子のアーロンとジュリー・ハリス演じる恋人のアブラ、家族を捨てたジョー・ヴァン・フリート(オスカー助演女優賞を受賞)演じる実の母ケイトとの関係を絡めながら描く。レナード・ローゼンマンが担当したテーマ曲(ヴィクター・ヤング楽団の演奏するバージョンで知っている方のほうが多いかも)が流れるオープニングの後に登場するディーンは、心に屈折した感情を抱える青年キャルとしての印象を残す。そして、内面からキャルの心情を表現し、他の出演者たちを寄せ付けないような存在感を放つ。キャルの気持ちを表すかのようなシネマスコープによる斜めのカメラアングルが効果絶大で、クライマックスでのディーンとマッセイの演技合戦は見る者の心を揺り動かすほどの迫力に満ちている。この作品はまさにディーンのための映画だったと言っても過言ではない。
 そして2本目の『理由なき反抗』は、『大砂塵』などのニコラス・レイ監督が自身の原案を映画化し、ナタリー・ウッドやサル・ミネオが共演した青春映画。ディーンが演じるのは17歳の少年ジムで、警察に補導された夜、翌日、転校した新たな高校で起こるほぼ1日の物語で、不良たちとのケンカ、車を使ったチキンラン、ウッド演じる少女ジュディとの初恋、ミネオ演じる少年プレイトウとの友情、そして悲劇が起こるという展開だ。ディーンは『エデンの東』に続いて繊細な芝居を見せ、赤いジャンパーにジーンズという姿は今見てもカッコいい。だが、最終的にはミネオがディーンを食ってしまうほどの存在感を見せた。舞台に使われたプラネタリウムはデイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』でも出てきたので、『理由なき~』を観ている映画ファンは思わずニヤリとしてしまう。この映画には無名時代のデニス・ホッパーやニック・アダムスが出演しているので、彼らを探すのもお楽しみのひとつだろう。
 最後の作品『ジャイアンツ』はエドナ・ファーバーの原作を、『陽のあたる場所』や『シェーン』のジョージ・スティーブンス監督が映画化した3時間21分の大河ドラマ。この映画の主役はロック・ハドソン演じる牧場主のジョーダン・ベネディクト二世と、エリザベス・テイラー演じる名門の娘レズリー。ディーンは牧場の若い牧童で、後に石油を掘り当て、大富豪として成功するジェットを演じている。今作のディーンはどちらかというと敵役なのだが、若い役から老け役までを見事に演じ切り、その圧倒的な存在感は主役のハドソンとテイラーを食うほどの素晴らしさだった。
 もし、ディーンが自動車事故に遭わず、俳優を続けていたらどんな作品に出て、どんな年齢の重ね方をしただろうか。それは想像するしかないが、若くして逝去したからこそ、今や伝説の俳優となっている。香港で言えばブルース・リー、日本で言えば赤木圭一郎といったところだろうか。ディーンはいなくても3作品はいつまでも残っていく。スクリーンで上映されるたび、テレビで放送されるたび、何度も観ることになるだろう。

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