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クリント・イーストウッド監督、主演『アウトロー』

 ハリウッドを代表する俳優であり、映画監督としても巨匠となったクリント・イーストウッド。セルジオ・レオーネと組んだ『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』という“ドル三部作”で世界的な人気を獲得し、アメリカに凱旋してからも『奴らを高く吊るせ!』から『ダーティハリー』まで、数々の映画に出演。1971年に『恐怖のメロディ』で主演を兼ねて念願の監督デビューしたのを皮切りに、1972年に『荒野のストレンジャー』、1973年に日本では劇場未公開になった監督専念作『愛のそよ風』、1975年に『アイガー・サンクション』と監督作を重ね、1976年に監督したのが『アウトロー(原題The Outlow Josey Wales)』だ。当初は脚色として参加し、その才能に一目置いていたフィリップ・カウフマンに監督させたが、さまざまな事情からイーストウッド自身が監督も兼任することになった(後にカウフマンは『SF/ボディスナッチャー』『ワンダラーズ』『ライトスタッフ』『存在の耐えられない軽さ』『ライジング・サン』などを手掛けるようになる)。
 筆者が『アウトロー』を初めて観たのはテレビ放送。ビデオに録画していたのだが、なかなか観る機会がなく、ようやく観たのは2020年5月に放送されたテレビ東京の『午後のロードショー』のカット編集版だった。テレビ初放送は1981年のTBS『月曜ロードショー』で、イーストウッド=山田康雄さん、チーフ・ダン・ジョージ=千葉順二さん、ジョン・ヴァーノン=大宮悌二さん、ソンドラ・ロック=佐藤雅子さん、2回目は1986年のテレビ朝日『日曜洋画劇場』で、イーストウッド=山田さん、ダン・ジョージ=千葉耕一さん、ヴァーノン=坂口芳貞さん、ロック=勝生真沙子さんというボイスキャスト。ちなみに、どちらも112分枠のカット編集版(約97分)で、オリジナル136分に比べて40分近くカットされていたことになる。
 イーストウッド演じる農夫のジョージーがならず者集団レッド・レッグスに妻子を惨殺され、彼らへの報復のために集まったヴァーノン演じるフレッチャー率いるゲリラ部隊に加わる。だが、ゲリラ部隊が北軍に投降し、ジョージーだけがそれを拒否したことから、フレッチャーたちに追われることになる。彼らに追われながらの旅の中で、ジョージーはダン・ジョージ演じる北米先住民のローン・ワティほか、さまざまな人々を出会っていくというのが物語の大筋の流れだ。冒頭はジョージーの復讐劇からスタートするが、一転、追われる身になり、ローン・ワティやロック演じる開拓者の娘ローラ・リーたちと出会っていくロードムービー、出会った人々と家族のような絆を築いていく家族ドラマ、壮絶なガンファイトが繰り広げられるアクション、そして、映画のところどころに漂うユーモアと、いろいろな要素が交じりあっていく展開が飽きさせないし、根底に流れる戦争の空しさ、国民の分断などは現在の世界の状況にも通じるところがあり、作品の先見性というか不変性にも気付かされる。ジョージーとバディ(相棒)となるダン・ジョージのいぶし銀の演技、後にイーストウッドの映画に数多く登場するようになるロックの可憐さ、イーストウッドの師匠格にあたるレオーネ監督へのオマージュとも思えるクライマックスのアップの多様、彼に影響を与えた監督へのリスペクトを感じさせるなど、イーストウッド映画の魅力がたくさん詰まっていて、136分という長尺を感じさせない面白さにも満ちている。
 この『アウトロー』も最近、劇場ではほとんど上映される機会がない。今回、筆者が観たのはモニターだったが、やはり、この映画も映画館の大きなスクリーンといい音響で観てみたいイーストウッド作品の1本だと言っても過言ではない。昨今、流行りの“4Kデジタルリマスター(もしくは4K修復版でもいい)”や『午前十時の映画祭』でもいいので上映してくれないだろうか。イーストウッドファンの中でも『アウトロー』は人気が高いのだから。

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