<短歌 repost> 分離
午後が来てどこかで布団を叩く音それしかしない本当にない
何も無い時こそまさに贅沢でそれすら滅す無限の空で
五十年変わらぬ姿の鉄塔が一期一会の雲と今会う
一機消え一機現れ正確に棟の合間を飛び行く輸送機
戦争の終わらぬままに冬はいま去らんとぞす先霞む町
日は射さず雲も動かず風も無く宇宙と世界の分離始まる
雨匂う夕べを一息吸い込んでテレビ消さずに出てきた部屋へ
人の死の記事より上に政治家の思惑量る大き見出しよ
老いてまた老いて一日また老いて春三月にまた老いるなり
何もかもやる気がしない一日の始まりは何処? モニター白し
またミスをしており詫びて済めば良し背中を丸めうどんを啜る
立ち直れないけれどさりとて立ち直るつもりもなくて饂飩をすする
街灯が遮る夕空またたきもせずに留まる重たき金星
戻せない暮らしを思う人々に粛々戻る原発政策
黙祷の鐘に花散る龍山院に子らのじゃれ合う声のみ高し
乳色の空に叫びて消しがたき記憶の破片を散らしては踏む
(初出:「こばと12号」2023/5 )