トルデジアン 2022 ② レース編 (クールマイユール〜ヴァルグリザンシュ)
レース当日。9月11日 日曜日。
2022年のトルデジアンは、2つのグループに分けられたウェーブスタートとなった。スタート時間は10時と12時。グループ分けはITRA performance indexに基づいて行われたとのこと。わたしはゼッケン番号538、ファーストグループでのスタート。つまり、あくまでひとつの指標ベースでしかないが、参加者およそ 1,100 人のうち、真ん中よりほんの少し上なだけの走力ということになる。
トルデジアンの完走率は毎年60%前後。
周りのイタリア人ランナーがみな屈強にみえる。しかし、自分もこの舞台に立ち、完走できるだけの実力はあるはず、と気持ちを奮い立たせながらスタート地点に向かう。
スタートに並ぶが、周りに他の日本人ランナーの姿は見かけない。気がはやり、前に行き過ぎてしまったかもしれない。
レースのゴール設定を改めて思い返してみる。2022年のトルデジアンでは、以下の3つのゴールを設定した。
Aゴール
126時間30分。 130時間切りでTor des Glaciersの参加権獲得。順位的には300位以内を想定。
Bゴール
134時間48分。時間に余裕を持った安定のゴール。順位的には400位以内を想定。
Cゴール
143時間24分。順位は関係なく、とにかく完走 (150時間制限まで残り6時間)。
レース開始時はAゴールペースでスタートし、無理そうであれば、2、3日経ったところでBゴールに切り替えようと考えていた。
このクールマイユールからヴァルグリザンシュのライフベースまでの区間は、距離54km、獲得標高4,568m。これを12時間30分で終える予定だ。
絶好の快晴の中「必ずまた、クールマイユールに戻ってくるぞ」と誓いながら、レースはスタートした。きっとすべてのランナーが同じ思いだったと思う。
街の人、サポーター、参加者の家族への顔見せのように、クールマイユールの街並みを縫いながら、トレイルの入り口へと向かう。ゆっくりとしたジョグペースなのに、心拍数がいきなり140を超える。興奮しているのだろうか。
トレイルの入り口で少し渋滞するが、先は長いので急ぐ人は誰もいない。
最初の目的地は、標高2,571mのCol Arp。クールマイユールの街から、いきなり1,500mの上りだ。
「Col Arpへの登りは、ただのウォーミングアップだよ。ゆっくり行こうぜ」みたいな会話が周りから聞こえる。そして「2019年に比べたら天国みたいなスタートだな」と思い返した。
Col Arpへの登りでは身体は軽かった。しかし、心拍数は160を超えていた。100マイル、いや100キロ レースでも、自分にはオーバーペースとスピードを落とす局面だ。迷いつつも、心拍数が高いのは、レース開始時の興奮と判断。身体が軽いこともあり、そのままのペースで進むことにした。
Col Arpを超え、最初のエイドに入る。日本人参加者2人と一緒になり「暑いですね」と談笑する。実際、既に汗だくだった。
標高2,860mのCol Haut Pasへは、6人位のパックで進んだ。良いペースだったが、付いていくのが少し苦しい。
このあたりでセカンドウェーブの先頭ランナーに抜かれる。レース開始から7時間しか経っていないのに、2時間差を埋められたことになる。驚異的なスピードだった。
Col Haut Pasから、800m下りてまた800m上がり、Col Crosatieへ。これを登りきれば最初のセクションの上りはすべて終わりだ。しかし、ここでパックに付いて行けなくなり離脱。少しペースを落とした。
なんとかCol Crosatieまで登り切る。周りには、立ち止まって小休止するランナーが増え始めていた。
Col Crosatieからは1,400mダウンし、最初のライフ ベース、ヴァルグリザンシュに到着した。22:23。スタートから12時間23分12秒。数字だけみれば、設定タイムより7分早いだけの完璧とも言える展開だった。しかし、既に強い疲労を感じていた。このままAプランで進めるのだろうか、と不安を感じてのライフベース到着だった。
2019年は最初のライフベースで全然眠れなかったので、今回は寝ずに次にセクションに進むことに決めていた。計画では1時間の滞在。実際には、イン22:23、アウト23:25の1時間2分の滞在となった。
日本の100マイル レースでは、いかにエイドの時間を削減するかをチームで叩き込まれている。しかし、トルデジアンでは、たとえ寝なくても、GPSウォッチとスマホの充電、足を拭き取りJ1クリームの塗布、補給食入れ替え、食事などを行えば、1時間はあっという間だった。
(序盤の山場、セクション2へ続く)