トルデジアン 2022 ④ レース編 (コーニュ〜ドンナス)
セクション3は、トルデジアンの全セクションで最も短い。距離45.8km、獲得標高2,626mだ。高尾トラサルと大差ない。峠も一つだけだ。峠を下れば、コース中で最も標高の低いドンナスのライフベース。ドンナスの標高は、わずか330mだ。
もはやAゴールは放棄しつつあったが、計画では11時間30分を見込んでいた。
コーニュ出立は0:28。レース3日目となっていた。
ライフベースを出るや、常田さんとのマシンガン トークが始まった。
他の日本人参加者はどのあたりだろうね、2019年に比べると暑くてキツイよね、そういえば2019年レースで会いませんでしたね、ぶっちゃけトルデジアンとPTLどっちが楽しかったですか、、、etc. etc.
会話に夢中になりすぎたのか、トレイルへの取り付きを見逃す。TORのフラグがない。大慌てでフラグのあるポイントまで戻る。30分くらいのロスだっただろうか。
しかし焦りはない。会話が楽しかった。暑くもなく寒くもなく、無風。月は煌々と明るく、背後から迫ったランナーのヘッドランプの灯りと間違えるほどだった。最高の月夜のハイキング。
常田さんは真の強者だった。トルデジアンは今年で3回目。2019年には、PTLから中1週間でトルデジアンを完走している。
トレイルでは、常田さんが先頭になりペースを作ってくれた。軽やかな足取りなのに速い。油断すると、あっという間に遅れてしまいそうだ。
チーム100マイルで勝手に師匠と仰いでいる黒田さんも異次元に歩くのが速いが、またタイプの違う速さだ。
少しでもその歩きを吸収するべく、後ろからステップを観察し、真似してみる。しかし、なかなかリズムを合わせられない。体格が違うのだから当たり前ではある。
その間も会話は途切れることはない。
疲労を溜めないで歩くにはどうすればいいか、トルデジアンに向けてどんな練習をしてきたか、トルデジアンで130時間切りを狙うことの難しさ、そもそもなぜ130時間切りを狙うか。
そして、あっという間にSogno小屋を越え、このセクション唯一の峠、Champorcherへの上りに着いた。
峠ではあっという間に引き離される。登坂力が違うので無理に追うことはしない。常田さんはあっという間に峠を越え、下りに入る。全く待たないのが清々しく、こちらも気が楽だ。
自分も峠に着く。標高2,827mあるが、全く寒くなかった。峠を越え、下りでペースを上げた。今年はもう営業を終了しているMiserin小屋を過ぎ、エイドとなっているDondena小屋で追いついた。
もう夜は明けていた。そして、ここからまた行動を共にした。ドンナスまではコース上でエイドは2箇所。どちらのエイドでもしっかりと食べる。常田さんは小分けのタルタルソースを持参し、エイドのパンでサンドイッチを作っていた。天才だと思った。
標高はぐんぐんと低くなり、太陽の日差しはキツくなっていった。気温がどんどん上がっている。身体が火照っているのが分かった。
そして、ドンナスの手前で登り返し。常田さんとの間隔がみるみる開いていく。今度は上りでも追いかけてみる。10人以上のランナーを抜いた。しかし、常田さんの姿は全く視界に入らない。結局、常田さんにまた会ったのは、ドンナスのライフベースだった。
熱中症になりそうだ、と思いながらドンナスの街に入る。ドンナスはローマ街道沿いの街。観光地として人気があり、ワインも美味いらしい。レースとは別にのんびり観光もしたい。しかし、今はライフベースへ急ぐ。ドンナスのライフベースは街を抜けた遥か先にある。あまりに街から遠いので、2019年はライフベースをスキップしてしまったかと、不安に思った程だった。
やっとライフベースに入ると、常田さんはサポートの方からマッサージを受けているところだった。羨ましいぞ。
ドンナス到着は13:01。12時間33分の行程。Aゴールの計画からは、1時間の遅れとなった。しかし、満足のセクション3だった。レースがリセットされ、立て直しができた気がした。
ドンナスのライフベースでは、滞在4時間、2時間睡眠を計画した。筋肉はそれほど疲労していなかったが、マッサージも早めにここで受けてみようと考えた。まずは受付表に名前を記載する。食事をしながら順番を待つ。しかし、受付システムが崩壊している。名前は色々なところに書き連ねられ、どんな順番でマッサージを受けているのか全く分からない。周りの順番を待つランナーに、「どんなシステムになっているんだろうね、これ」と話しても、「さぁ。。スタッフのみぞ知るだね」とイライラした様子。
「これ以上待っても睡眠時間が削られるだけだ」と見切りをつけ、2階にある睡眠スペースに向かった。2時間のアラームをセットする。しかし、全く眠れない。身体は火照ったままで、汗だくだ。
1時間ほどベッドに横になった後、「これは無理だ。山小屋で寝よう」と起き上がった。そして、ご飯をまた食べ、出発した。常田さんは、まだ休んでいるようだった。ドンナスを出たのは16:28。3時間27分の滞在となった。
(セクション4 ドンナス〜グレソニーに続く)