ハッカ油
闘病生活って言うけど、実際に戦っている人はいるのか?
ただ耐えているだけじゃないのか?
これから、僕の人生で決して外せない出来事についてお話します。
僕は20歳の頃、ある病魔に蝕まれていました。
誰もが知っている不治の病です。
長い闘病生活でしたが、その日は突然やってきました。
「覚悟しておいた方がいい。親御さんとも相談して、
君なら大丈夫だと思ったから伝えるよ。」
担当医からさじを投げられました。
その後に続く言葉は僕の耳に入らなかったのか、それとも記憶にないだけなのか?
ただ、目を真っ赤に腫らした母親の様子を見れば、
おおよその見当がつきました。
実際に、僕と同じ病気の人たち・・
両隣や、向かい側のベッドにいたおじさんたちが
順々に亡くなっていく。
おなかがバンバンに腫れて、顔は黄土色。
子供の頃、テレビで見ていた人形劇、
そう、サンダーバードみたいな顔色になって、
「この子はもう長く生きられないだろうな、まだ若いのに。」・・
いつしか僕もそんな姿になっていました。
「あ~俺は死ぬのかぁ~。悲しんでくれる人はいるのかなぁ?葬式には何人が来るだろう?」
小学生の頃から友達の多い妹と違い、毎年届く年賀状の数は2枚だけ。
担任の先生と全員に出すような律儀な女の子から。
実際に、1回目の入院では数人がお見舞いに来てくれましたが、
3度目4度目となると誰も来てくれません。
「みんな俺のことなんか忘れちゃうだろうな。」
ベッドの白いシーツ、白のカーテン、看護師さんの白衣、シューズ、
白い床に白い壁、白い天井・・
非現実的な空間の中で、僕は4年もの間ずっと何かを考えていました。
白を眺めながら。
闘病生活って言うけど、俺は本当に戦っているのだろうか?
ただ歯を食いしばって耐えているだけじゃないのか?
病魔に攻撃されっぱなしで、ただ我慢しているだけ。
それじゃ病気は治らないだろう。
いつか殺られる。
それじゃ駄目だよな、こっちも攻撃しなきゃいけない。
そして・・
僕の人生で最大の気づきがありました。
僕の中に何かいる!
僕を守ってくれる何かが確かにいる!
精神を集中させて号令をかけると、
彼らが病巣目掛けて一斉に攻撃を仕掛ける・・
僕には判りました。
それからが、本当の闘病生活の始まりです。
「頑張れ、頑張れ!」
毎日24時間ひたすら司令を出し続けました。
一日中ベッドで寝たきりです。
時間は充分にある。
僕には絶対に治るという確信がありました。
なんの根拠もないし、誰にも説明できません。
でも、彼らは間違いなく僕の中に存在し、共に戦ってくれました。
・・あれから何十年
僕は今ここにいます。
再発もまったくありません。
病気は完治しました。
当時、治療費は免除されていて、
それ以外に国からもお金をもらっていました。
それほどの病気だった。
僕は奇跡だなんて思っていません。
現在の医療でも説明できるものじゃない。
普通なら死ぬ。でも僕は死ななかった。
この世には未だ解明されていないこと、
世界一の専門家にも解らないことがたくさんある。
だから・・
だから諦めなかった。
ただ奇跡だけを信じて祈り続けるなんてこと、なかなか出来ないと思います。
自分の中にいる何かを、味方だと信じて応援する・・
365日起きている間中ずっとですよ。
普通なら諦めるというか、最後まで信じきれない。
僕がそれをできたのは、自分の中の何か、何かの細胞でしょう、きっと。
それが動いているのを感じられたから。
当時、気休めでハッカ油に浸したガーゼをお腹にシップしていたのですが、
それが気持ち良かった。
お腹がスースーして血液とか、お腹の中のいろんな細胞が動きますよね。
それは誰でも感じられると思います。
僕の体の中で、何かが間違いなく動いている。
血液が流れているだけなのかもしれないし、
実際は何だかよく判らない。
でも、それが僕の味方なんだと勝手にそう思えたんです。
病巣目掛けて突撃せよ!と指令を出して、
頑張れ頑張れ!って応援できました。
医学的にどう作用したのかしなかったのか?
そんなこと僕には解りません。
ただ、信じることができた。
そのきっかけになったのが、ハッカ油のシップ。
ハッカ油自体に、病気を治す効力なんてありません。
血行が良くなるくらいでしょう。
僕は科学者じゃないから、なんの証明もできないし説明もできませんが、
自分の中でふつふつと湧き出る何かを感じて、
それを信じて・・それが何かしらの結果に繋がっていくんです。
もしも今・・
あなたのお子さんが不治の病を患っているとすれば、あくまでも戦うのは本人です。
だけど、僕の病が完治したきっかけがハッカ油だったように、
お母さんの優しい手の平が、奇跡のきっかけになるかもしれない。
あなたの手のぬくもりにも、そんな力があるんだと信じてください。