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小学5年生の僕が心理カウンセラーになるべくしてなった物語



爪の浮くような、あの嫌な音を響かせて
黒板に正の字がキュルキュルと書かれていく。

〇〇君、班長に当選確定!
〇〇さん、班長に当選確定!
〇〇君、班長に当選確定!

小学5年生の2学期始まりに、
僕らのクラスでは班長選挙が行われていました。

6つの席に、立候補者が7人。
残りは3枠。

まさか、俺は楽勝だろうと高を括っていたけれど
残りの枠が徐々に減っていく。


須藤・・
高橋・・
須藤・・
大貫・・
大貫・・
高橋・・
・・・・


僕はその選挙でたった一人の落選者になりました。


そんなことでは凹まないけど。
ちぇっ!絶対に後悔させてやるからな。


そのクラスでは班長が決定すると直ぐジャンケンで班員を取り取りします。

取り取り・・
たった今、当選した6人の班長たちがジャンケンをして、
勝った順に好きな人を自分の班員にするシステム。

机を6つの島にグループ分けして、班長以外の全員が教室の後ろ側に立って、自分はどの班長に選ばれるのかを、じっと待つ。。

僕も選ばれる側。



「なんで、あいつらが取り取りしてんだ!
 なんで俺があそこでジャンケンをしてないんだ!」



クラスの人気者、ひょうきん者、綺麗な女の子、
かっこいい男の子、足が速い子・・

そんな子から順々に選ばれて、それぞれグループ分けされた席に着いて行きます。

ふと気づくと残されたのは、クラスでは目立たない子、ちょっと冴えない子、ちょっと綺麗ではないかもしれない子、

そして僕がいました。



もうそろそろ、俺が指名されるだろう。
俺はどの班になるんだろう?
どいつが俺を取るんだろう?

まぁいいさ、俺はどこへ行っても好き勝手やるからな。
班長じゃなくたって関係ないさ。



ジャンケンで勝った班長が、渋い顔をしながら、「三井君。。」

三井・・あの野郎、俺より先に選ばれやがった。



次に勝った班長が、またまた渋い顔して、「川端さん。。」

あの女っ!
なんであいつが俺より先に選ばれるんだよ!
あの班長も渋い顔して取るくらいなら、俺を選べばいいだろバカタレがっ!



僕はイライラしていました。
今、隣に立っているのは誰だ?
こんな奴、クラスにいたっけ?
・・なんて思えるような目立たない、冴えない男の子。

彼と僕の二人だけ。
外れくじを引かされる2人の班長が、最後のジャンケンです。



俺は、どっちの班になるのかな?
どっちが勝つのかな?
まさか、こいつと比べて、俺を選ばないわけがないよなぁ。



しかし、僕の期待はあっけなく裏切られ、僕は最後の一人になりました。

班長選挙で一人落選して、取り取りでは、一番最後まで選ばれないで、
1人教室の後ろに残されて。

惨めだった。。

でも大丈夫。
負け惜しみでもなんでもなくて。




俺はあいつの班かぁ。
外れくじ引かされたなんて思ってやしないだろうな?!




そんな僕の想像を遥かに超えた出来事がこの後起ころうとは、
その時の僕にはわからない。。


「根本くんはいらない!」
ジャンケンに負けた班長は、言い放ちました。


要らないって、俺しか残ってないんだから、
俺のこと取るしかないだろっ!


バトンを渡された、他の班長達もことごとく
「わたしも根本君はいりません!」
「根本くんはうちの班には来て欲しくありません!」

班長たちが「根本はいらない」と唱えると、
クラス中には歓声がわきます。

担任の先生が、
「みんながこう言ってるけど、根本ぉ~、どうする?」

僕には意味がわかりませんでした。


「みんな~、これから根本をどうすればいいか?みんなで決めましょう。」
「じゃあ、班長!こっちに集まって!」


6人の班長達が、先生のところに集まって、
ひそひそと班長会議の始まりでしょうか?

その間中も僕は1人教室の後ろに立たされて、クラス中のいい見せ物です。

普段、僕と喧嘩ばかりしている男子は、
この時とばかりに「ば~か!」と猿まねをしながら口パクする。


みんな楽しそうだ。。


いつも調子に乗り過ぎている悪ガキが、1人ぽつんと立たされて、

いつ泣き出すんだ?
早くごめんなさいを言え!
そしたら許してあげてもいいよ。

・・そんなふうに思われていたんでしょう。




これ、出来レースじゃないの?
はじめから仕組まれたシナリオなんじゃないの?

俺を懲らしめるために、誰かが仕組んだんだよな。

だって、おかしいでしょう?

小学5年生が、先生の決めたルールにのっとり班長選挙をして、
取り取りで班員を取り合って・・
普通なら、最後に残った外れくじ、引くでしょ。

「なんだ根本くん、私の班になっちゃったー、嫌だけどしょうがないやー」
・・ってなるでしょっ!

それがルールでしょ。


なのに・・
「私は根本君はいりません!」
「根本君には僕の班には入って欲しくないです!」
 

小学5年生が、それもみんながみんな口を揃えて。
そんなことありえない。




「みなさん!、これから根本君の追及会をしたいと思います!
 賛成の方は挙手をお願いします!」

班長会議が終わって、鬼退治の準備が整ったようです。

もうクラス中は拍手喝采。



「では根本君いいですか?」

「これから、みんなに根本くんにどうなってほしいのか?
 根本君が何をどう反省したら、許してもらえるのか?
 それらを、みんなと話し合います。」



「では、みなさん!何か意見がある人は挙手をお願いします。」


「はーい!根本君がいつもいつも広川君のことをタルタルソースって呼んで   
 ます!それはいけないことだと思います!」


「はいっ!、根本君はきのう公衆電話でデタラメな番号にかけて、
 クソ爺と言ってガチャって切っていましたー!」
 
「はい、はいっ!それならこの前、根本君は
 よそのお家のインターホンを鳴らしてバ~カと言って逃げてましたー!
 絶対にやってはいけないことだと思いますっ!」
 

・・・

これは、何の会議だ?

俺を追及するって、全部お前らもグルだろ。

ピンポンダッシュだって、イタ電だって、
一緒にやって、一緒に逃げてたのはお前らだろっ!



そんな風に思いながら、
教室の後ろに一人立たされて、みんなに追及されて。。



話は逸れますけど、、

ピンポンダッシュっ、訪問販売にも使えるんですよ。
都内の真昼間なんて、在宅率がすっごく悪くてね、

一軒一軒ピンポーンって鳴らしても、ぜんぜん出てこない。
だったら、10軒いっぺんにピンポン、ピンポン、ピンポ~ン・・って押しちまえばいいんですよ。

ピンポン押したら、その通りの端っこでどのお家の扉が開くかを見てればいい。

そしたら、1軒くらいは扉がきぃ~ってちょっと動きますから。
扉が開いたところに、こんちはぁ~って行けば、簡単でしょ。

どうせ出てこないんだから、
マンションの一フロアーなんて、一斉にピンポンダッシュです。



ごめんなさい。(笑)
話がそれました。
追及会でしたね。



普段、話したこともない奴までが手をあげて、
この時とばかりに俺のこと、なんやかんやと言ってくる。


「広川がいつもタルタル美味しい美味しいって、何にでもつけて食べてるから、おい、タルタル!って呼んであげただけじゃん!」


「うわぁ~、ひど~い!」
「それで広川君がどんだけ傷ついているか知っていますか?」


僕が一言しゃべると、40倍になって返ってくる。
当時は子供の数が多かったから、一クラス40人くらい。
ほぼほぼクラス全員が、僕を目掛けて一斉攻撃してきます。

普段は何も言えないくせに。
直接俺には言えないくせに。




今考えると、この担任教師どうかしてますよね?

僕は小学校のころから、こんなことばかりです。
もうクラス一番どころか、町一番の嫌われ者でした。

班長選挙落選からの追及会。
帰りの会の追及会。
朗読中に、聞こえませ~んから始まった追及会。
給食袋投げ捨て事件の追及会。


中学生になっても、高校生になっても、大人になっても、
どこに行ってもそんなことばかり。


耐えられますか?
一回や二回、自殺したっておかしくないでしょ。



でもね。

もし僕が、今までの人生のどこかで自殺したとしますよ。

きっとみんなはこう思ったはずです。
「そんなことで自殺なんかされたら、たまったもんじゃない!」

もし僕が自殺する際、遺書でその理由を書いて、
俺のこと誰誰が虐めやがった。
先生も一緒になって、俺のことを虐めやがった。
・・なんて書き残したら。

そいつら大変ですよね。

『小学5年生を追い詰めたクラスメートとその担任教師!』


週刊誌の表紙を飾っちゃいますよ。
彼ら彼女らは、一生負い目を感じながら生きていくんです。

実際、たまったもんじゃないですよね。
そんなことくらいで僕が死んだら、いい迷惑ですよ。



僕はもう判っています。
人間は誹謗中傷する、そういう生き物だって。

ちょっと突飛なことを言うやつ、やる奴のことを叩こうとするんです。
出る杭は打たれるってね。

きっと人間の本能です。
人類が他の生物、天敵から逃れて生き残るためには
みんなで力を合わせなきゃダメなんだぞって。



原始時代、


集団でなら大きなマンモスを狩ることもできました。
でも、単独行動を取っていると、他の肉食動物の餌食になってしまいます。

人は一人では何もできない、生きていけない。
人は誰もがそれを知っていました。

一人でも自分勝手な行動をとる、輪を乱す者がいると、
生命の危険、人類の存続に関わってきます。


だから、絶対に許されない。
まわりと違う人、突き抜ける人を叩くのは人間の本能です。

逆に言うと、
そんな人の行動が許されていたならば、今の人類は無かったのかもしれない。


いじめ問題はなくなりません。


今まで多くの人たちがこの問題解決のために尽力してきましたが、
もちろん、そんな人たちを否定はしませんよ。

今目の前にいる、追い詰められている子供に手を差し伸べてあげるのは当然です。

でも、本能ですよ、いじめは。


いじめは絶対に許さない・・なんて言ってるあなたにも、
「人を叩く血」が流れている。

自分勝手な行動を取る人、周りと違うことをする人、飛びぬけてる人・・
そういう人が現れると、あなたの本能がざわつくんです。


でも、それでいい。
人類が生き残ってきた証ですから。

もしも、いじめがゼロになったとしたら人類は滅びます。

そうですよね。

人類は集団で力を合わせて生き延びてきた生物ですから。
自分勝手な人間を野放しにはできないんです。



いじめは許さない。
誹謗中傷は許さない。


そんな風に言ってる人は、いったい何を守ろうとしているんですか?
あなたが叩こうとしているその人は、あなたにとっての悪人ではありません。

誹謗中傷をしてしまう彼らは私たち人類を守っているのかもしれないですよ。


僕を袋叩きにしたあのクラスの全員は、僕にとっての悪人です。
でも彼らは、協調性がないはみ出した僕を、人類から守ったのかもしれません。

本能的に。



それとね、、


いじめは許さない。
誹謗中傷は許さない・・

そんな風に正義の味方でいられるのは、
今あなたがとっても恵まれているからですよ。

誰でも、誹謗中傷する側の人間になる可能性がある。



もし、あなたがね、嫁さんに捨てられて、旦那さんに捨てられて、
彼氏、彼女に捨てられて、
一文無しになって、、、公園に野宿するようになって、
最低の暮らしになって、、、不幸のどん底になった時にね、

あなたの目の前に、、、僕みたいな、、いい気になった奴が現れたら、、
虐めたくなっちゃうでしょ、、
ぶん殴りたくなっちゃうでしょ、、この野郎って。。



不幸のどん底に落ちた時あなたの周りに、寄り添ってくれる誰かがいれば、
あなたはそうならないかもしれない。

少しでも幸せな気持ちになれたら、心が安定していれば、
誰も誹謗中傷する側にはなりませんよ。


誹謗中傷してしまう人たちの心をケアしてあげてください。
彼ら彼女らは、今そういう悪い状況にあるだけです。


旅人の服を無理やりはぎ取ろうとする北風じゃなくて、
春先のお日様のようにあたたかく守ってあげてください。


あなたも、いつ同じ立場になるかわからない。
今、あなたのすぐ目の前にいる人だって、いつ変貌するかわからない。


その人がそうなった時に、そうならないように、
あなたが寄り添ってあげてください。


もしも、

あなたが、そうなってしまった時に、
寄り添ってくれる人は近くにいるのでしょうか?

そんな人をどうか大切にしてください。
どうか、あなたがそうなる前に。。


当時の先生は、僕が叩かれているところを、、
見て見ぬふりするどころか、小学生の僕にこう言ったんです。


『人は誰かを虐めて、毒を吐き出しているんだ。
 世の中の人たちを幸せにするために、根本がいるんだろ。
 それがお前の生きる意味だ。』


凄いですよね、この先生。

もしかしたら、気づいていたのかもしれない。
僕が毒を受け止めることが出来るんだって、知っていたのかもしれない。。


だから、僕もこう答えてやった。


  「うん、知ってる!」


#創作大賞2024   #エッセイ部門

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