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野原の端っこにある柵も飛び越えて
遠い昔のお話。
近所の犬を飼っているおうちに、よくお願いしてました。
「お散歩させてくださ~い。」・・って
種類は何だろう?
白い普通の犬。
秋田犬かなぁ?
近くの野原にワンちゃん連れて行って、みんなで遊んでましたね。
もちろん、みんなにも僕にも懐いていましたよ。
だから、毎日のようにその白いワンちゃん、「お散歩させてくださ~い。」・・って。
そして、その白いワンちゃんのおうちとは別の、新しく引っ越してきたおうちの人が、
それは可愛い可愛い子犬ちゃんを飼っていて。
これは今でも覚えています。
ポメラニアン、茶色の。
だいたい茶色だけどね。
そのおうちの前を通ると、愛おしい声でキャンキャンしてるんですよ。
吠えてるって感じじゃなくて、僕と遊んでよぉ~って話かけてるような。
それが判りましたね。
だって可愛いんだもん、その鳴き声が。
キャンキャンって。
そのおうちにも、みんなでお願いしに行ったんですよ。
「お散歩させてくださ~い。」
口をちゃんと揃えて礼儀正しく、笑顔でね。
おばさんも優しい笑顔で、
「じゃあ、お願いしようかしら。」
それでいつものように、いつもの野原でみんなでいっしょにポメちゃんとも楽しい時間を過すようになりました。
ポメちゃんのまわりにみんなが集まって、「可愛い可愛い」って頭なでなでしたり、抱きかかえたり。
もう小っちゃくて、本当に可愛かったです。
ぴょんぴょん跳ねて、キャンキャン鳴いて。
・・っで、ある日のこと。
いつもの野原でいつものように、みんなでワンちゃんたちと遊んでたんですよ。
そう、、ワンちゃん・・たち。
白い秋田犬なのか雑種だったのか、今も判りませんが、
中途半端な大きさで、何となくモサ~としていて、
飛び跳ねないし、キャンキャン鳴かないし。
それに比べて、ポメちゃんはやっぱりその日も大人気。
みんなに順番に抱きかかえられて、ぎゅーっとされて、
ポメちゃんもそれに応えるかのように、更にキュンキュンきゃんきゃんしてましたね。
その野原ってすごく広いんですよ。
子供の頃だからそう感じたのかもしれないんですが。
ある女の子が言いました。
やめとけば良かったのに。
「競争しよう!」・・って。
提案者であるその女の子が、ポメちゃんの綱を持って。
その当時は「リード」なんて言い方してませんでしたからね。
綱でいいんです、首輪に繋がってるヒモです。
それで、僕が白いモサ~としてるワンちゃんのヒモを握って、
よーいドン!・・
競争って、ワンちゃんたちを競争させようってこと。
ワンちゃんたちはそんな意識はないでしょうけど。
ポメちゃんがまた速いんですよ。
小走りだけど回転が良くてぴょんぴょん跳ねるようにすっ飛んで行きました。
その後ろを白いワンちゃんが、モサ~って感じで追いかけていく。
その後ろを僕らが大声張り上げて応援しました。
頑張れーとか、速い速い~とか。
やっぱり見てても可愛いんです、ポメちゃんが。
もう笑顔でキャンキャン鳴きながら楽しんでるのが判ります。
ポメちゃんもみんなからの大声援を受けて、
ぴょんぴょん飛んで先頭を走りながら、時々後ろの僕らを振り返ったりして。
本当にポメちゃんは楽しそうでしたね。
ポメちゃんは。。
僕はもう一匹の白いワンちゃん、モサ~っとしたワンちゃんのヒモを握って後ろを走っていました。
僕一人だけ、その白いワンちゃんに「頑張れー」って、
声には出せなかったけど心の中でちょっと応援してました。
なんか可哀そうになったというか、悔しくなったというか。
みんなの黄色い大声援のほとんど、いや、全てがポメちゃんに向けられたものでしたけど、
僕はただ一人応援してました。
白くて中途半端に大きな秋田犬みたいな雑種なのかよく判らないワンちゃんを。
先頭を走るポメちゃんに遅れを取ってはいましたが、
それはヒモを掴んでいる僕が遅かったからで、白いワンちゃんが遅いわけじゃなくて。
本当はこのワンちゃんの方が速いんだ。
絶対に負けないんだ。
手綱を取る僕の手がグイグイと力強く引っ張られるのを感じたその瞬間、
僕はそのヒモを投げるように解き放ち、
行け~!
ポメちゃんとの差が一完歩一完歩縮まって行くのが、
なんだか凄く嬉しくて、僕はいつの間にか大声で、
行け~!
スピードが増すごとにその一完歩が更に大きくなって、
ポメちゃんを一気に抜き去り、突き放し。
その走りには何だか悲壮感みたいなものが漂って見えました。
白いワンちゃんは、グングンスピードを上げてどこまでも、
野原の端っこにある柵をも飛び越えて、ずっと向こうの方に、
消えていきました。
一匹寂しく、家族の元へと帰って行きました。
そのワンちゃんと遊んだのはその日が最後です。
白くて中途半端に大くて雑種なのかよく判らない、
モサーっとしたワンちゃんのことを想うと
なんだかちょっと寂しい思い出です。