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【BB放談・OFF THE COURT⑥】「縦の糸」の次は「横の糸」

メンバーシップ限定コラム(記事としては単体売りしていません)の「OFF THE COURT」、B.革新を巡るあれこれが一気に動いた2月末の動きを経て、書いていくことにしたい。

とはいえ、B.革新も島田慎二チェアマンのその場の物言いだけでは見えづらいところもあり、追って出てきた問答等が摺り合わさるのを待っていたものの…なんとも芯を食った話が見えず。それもそのはず、まだまだ交渉主体との話に具体性がないことも理由だろう(特に選手契約ルールについては選手会の労組化に伴う「交渉団体化」が一刻も早く求められる)。ということで、まとめ・受け止めを書こうにも…という話でもあり…。

消化不良感も否めなかった受け止めの理由を探るとすれば、「まだ決まっていないことがあまりにも多い中で発表があった」ことに尽きるとは思う。ならば取りあえずオンザコートやドラフトの話は「決まっていないゆえに触れない」こともそれなりの前提に置いて記事を書いていく。選手の年俸面からのサラリーキャップの論点も、今回はパスだ。

ただ、あくまで「方向性」は見えていそうなだけに、「じゃあ、その方向性ならば、この辺どうする?」という話もまた重要。「やりたいこと」に対する「やれること」は間違いなくあるわけで…。

そこで、これまであったワードなども引き合いに出しつつ、「結局どこへ向かいたいのか」を少しでも洗い出せるような記事にしたい。これをどう受け取るかは自由だし、読んだ人が議論を望むのなら是非に。今回のキーワードは、「縦の糸」たるクラブの成長に対して、「横の糸」たりえるリーグが伸びなければ、連綿としたものにはならないという観点だ。

で、本来ならばこれも基本はペイウォールの中で話していくことも多かったのだが、この数週間、なかなか沸き立っている内容でもあるため、ある程度は公開していきたいわけで、無料部分だけでもそれなりに読めるものを書いていきたいと思います。


なんのためのキャップなのかをおさらい

引用元:「B.革新 サラリーキャップについて」

サラリーキャップの方向性については、リーグにおいては「戦力均衡とクラブ経営の健全性」というのがキーワード。戦力均衡については、何を以て均衡とするかは正直語られていないので今回はその話を飛ばす(これはこれで今後コラム化しておきたい)。

その一方で「夢が無い」という受け止めも多くあった。クラブ経営の健全性についての部分で言えば、今回のサラリーキャップがあくまで「選手人件費」にかかるであろうところがポイント。つまり、コーチ陣やマネージャー、フロントスタッフといった人たちへの分配をまずは進める…というのが意図として考えられる。それは仕方ないし、この意図をもっと擦り込むまで言えば良いとすら思える。

その一方で、何もキャップを使いきらなければいけないわけではないのもまた事実であり、ポイントとなる(大前提として、まずフロア額を超えれば良いため)。だとすれば「キャップ10億!」って言って、夢と現実のバランスを取っておく…という落とし所を設けることも良かったのではないか、とは感じた。多分、正直に10億以上を投じるクラブは、裏で何かしらの無理が生じるわけで、後述するようにチームの経済規模とある程度合わせながらの策を講じるのも一手かと思われる。

一方で、「フロア5億」はかなりクラブによっては頑張りどころ…とは言え、「クラブ予算の約35~40%くらいが選手人件費になっていれば健全経営が出来る(上記OUTNUMBER引用より、Bリーグ・増田匡彦氏の発言)」という経験則自体は理解する。2022-23シーズンのB1を例に取ると、トップチーム人件費が5億円に達していないクラブが実はそれなりにあるし、コーチ陣まで入れると5億に行かないであろうとされるクラブもいくつか見られる(下記参照)。また、これは「選手人件費」ではないため、実際にはさらにお金をかけねばならないと思われる。そういったクラブにとってはまず「選手合計で5億に乗せる」というチャレンジも必要となる。

≪2022-23・トップチーム人件費が5億円に達していないB1クラブ≫
【東地区】仙台(3.79億)秋田(4.59億)茨城(4.54億)
【中地区】横浜BC(4.27億)富山(4.1億)新潟(3.1億)信州(3.66億)
【西地区】FE名古屋(4.03億)滋賀(4.09億)京都(4.52億)

※同年度でトップチーム人件費が6億円に達していないB1クラブ
【東地区】北海道(5.34億)
【中地区】SR渋谷(5.75億)
【西地区】大阪(5.81億)

出典:https://www.bleague.jp/files/user/about/pdf/financial_settlement_2022.pdf

とは言え、年俸3億や5億の選手を1人獲ってきたからと言ってチームが大化けするわけではない…というのはBのこれまでの歴史で証明されてきた部分。「元NBA」だからと言って無双するわけじゃない…ということを身につまされるとして感じる人もいるだろう。一方で、市場価値的な「適正年俸」やスタッツなどが、実年俸と結びつかないとされる選手に関する話も、耳にすることはある。

サラリーキャップ導入に当たっては、年俸額の公開、もしくは最低でも年俸のクラスを公開することで、「健全・透明な経営である」ことを外に示す努力も必要なのではないか。ここで起きうる反対を押し切ることこそ「革新」とも感じる。増田氏も「(公開は)あると思う」としているわけで、ここからに注目だろうし、やらないとサラリーキャップそのものがブラックボックス化してしまう。

同時に「多寡だけではないお金のかけ方も競争の一面である」「昇降格が大きく動かないからこそ、賢く勝てるチームの存在もフィーチャーされていくべき」「同時にMoney is Powerをやりたいクラブも否定しない」という部分。その方が、より大きな資本の流入を狙う中で「このぐらいでも入っていけるし、戦ってそれなりのリターンっぽいものも見込める」というコスト感覚を提示する方が、流入を狙う企業の琴線をくすぐれるのでは…とも思える。

キャップの変遷について大事なもの

一方で、サラリーキャップにおいて鍵になるのは、「向こう数年間の市場の担保」でもある。「今季はこれぐらいお金を掛けたけど、来季にかけられる予算が分からない」というレベルでしか機能しないサラリーキャップだったら、まだクラブライセンスのファイナンシャル・フェアプレー(FFP)事項だけで縛った方がマシだろう。少なくとも向こう3年先が上昇するのか、キープされるのか、その辺りが分かってこそ、ユースも含めた育成も長期化しやすくなるし、「Win-now」だけを目的とした資金の投入も抑えられるはずだ。

アメリカ・NBAにおけるCBA(ざっくり言えば労使協定)のように、クラブの経営云々もさることながら「リーグが稼げる規模がどれぐらい維持or拡大されていくのか」という部分を、リーグ自身が示して交渉の俎上に挙げて論じなければならない。一方で、島田チェアマンがかつて千葉Jの社長として戦った際に当時のNBLのサラリーキャップを指して「あと1億でトヨタを倒せる」というパワーワードを掲げたそうだが(↓)、これは今後のリーグに対しても大事になるはずだし、この考えは基本線として残るべき。

FFP事項についてはライセンスなどで基準を定めつつも、「いくら掛けたら、MIXIやトヨタ自動車などを倒せるかもしれない、その片棒を担いでくれないか」という、「現実的なハッタリ」をかけられる余地を作ることも大事。相手がいて定量化できないのがスポーツの世界なんだから、KPIとかは敢えて無視するぐらいで良い気もする。筆者は経営学専攻だったけど、これを言って良いのかは知らない。ハッタリだけど現実的だから、その現実的さ加減に乗る人が現れうる。

一方で、その現実的なハッタリを可能にするために、まずは「リーグや今あるクラブがこれぐらいの市場を作ってくれている」という「担保された現実」があることも重要なのだ。だから、リーグも稼がねばならない。クラブの真水だけで何かをしようとしたって、オーナーシップ・スポンサーシップの変更で起こせるのは単なる予算の付け替えだ。クラブだけの努力の屍の上に立って成り立つのでは、サステナブルなリーグは遠い幻想の話となっていくだろう。

恐らく、このために必要なのはテレビ中継の拡大・もしくはそれに相当するメディア接触の機会があると嬉しい。ただ、現状のテレビ中継を増やそうとすれば大きなハードルがあり、特に民放ゴールデン帯・プライム帯の枠の通常番組を飛ばしてスポーツ中継を編成しようものなら、今のテレビ界が重んじる「視聴習慣」を崩すことになるし、本来その放送枠に投じてくれているスポンサーなどに対しての十分な補填も必要となる(恐らく視聴者層などが変わってしまうことも容易に推測されるわけで、各テレビ局が近年重視する「個人視聴率」「コア視聴率」に伴う広告効果までよく議論せねばならない)。

この辺りは、例えばabema、DAZN、SPOTVなどのOTTサービスによって、連携や流入を今以上に作りつつ(こうすることで市場の絞り込みも開拓もできる)、一方ではリーグがスポンサー拡大を積極的に行うことで、テレビ中継のための「枠の買い切り」を可能にするだけの資金を持たねばならない。また、投資としての無料視聴のチャンスは今以上に出していくことも重要。それを実現するためにも、リーグが今以上にやらねばならないことがある。

なぜ「リーグが稼げ」と言うのか

リーグ全体の事業収益は、B初年度(2016-17)の42.4億円から、2022-23シーズンには68.7億円まで伸びた。これは当然評価されるべきポイントではある。ただその中で、クラブに対しての還元が進んでいるかと言われれば「×寄りの△」。クラブ決算概要で示される賞金を除いた配分金の額は、B1を基準に取ると平均額で1000万円程度のアップに過ぎないし(2016-17:2897万円、2022-23:3819万円)、クラブ単位で見た最高額についてはむしろダウンしている現状もある(2016-17:琉球・7441万円、2022-23:大阪・7108万円)。

コロナ禍を経ている、もしくはクラブ数がこの間に18から24に増えているとは言え、配分金の規模とリーグの拡大の規模が見合わなくなっている…という部分も出ていることには出ている。別に配分金によってクラブがそこに依存するからあえて絞る…と言うのも一理あるのかもしれないが、サラリーキャップによって、出ていくお金の最高額は自ずと固まってくる。それに対して依存だなんだというのはナンセンスだろう。一方で、「リーグも含めてこれぐらいお金が回っている場所」という事実として言い切れるだけで、見える景色はかなり変わるのではないだろうか。

逆に、依存こそさせないものの、決まった額がこれだけありそう、それが市場として増えそうということを取っかかりとした市場の拡大・成熟もまた成り立つ。クラブ側に対して、常に存在する最低限のセーフティーネットとして機能できるかは、今後のリーグのあり方としても大事なところだろう。

各クラブは12億を始めとしたボーダーラインの達成に向けて文字通り不断の努力を続けている。だがそれを統括する側が万全に回せているか?という疑問が付いて回る。そしてB.革新以降のシーズンではクラブに主管権を与えてのBリーグファイナルが予定されているようなので、つまるところリーグにCSファイナルの入場収入も入ってこなくなる。だからこそ、利害関係が集合したトップに立つリーグが、まずクラブを黙らせるレベルに稼げていなくてはならない。リーグが強くないと、先行した物事を打ち出したいクラブがどこかでまた反目し出すし、それがどういう結末になったかは、他ならぬバスケ界が一番知っていることだろう。

先だって、Jリーグではクラブ成績に基づく「理念強化配分金」DAZN視聴数などに基づく「ファン指標配分金」の中身が発表されたところ。驚くべきはファン指標配分金で2番手に付けた横浜F・マリノスの割り当て額(7123万円)が、先述したB1での配分金の最大額と大体一緒なところ。リーグからの配分金だけを挙げるのならば、J2クラス(1億円程度)にも満たないという現状があることも現実として立ち塞がる。だからこそ、リーグも稼いでクラブに還元できることを示し続けなくてはならない。

クラブに対して「市場はまだまだ掘れる、そこは協力するし、クラブと同じ目線である」という前提が成り立つからこそ、足元のクラブたちの余裕や打ち込み方も変わってくる。日本経済にとって避けられないシュリンクを、どこまで現実的に回避しながら戦い、持続可能性を打ち出すか。そこに対して「稼いだクラブだけを褒める」のでは、(主語が大きすぎるのは重々承知だが)悪い意味で営業マン的すぎる。違う、そうじゃない。リーグは現時点でさえB1・B2だけで38の企業が集う利害関係の集合体なのだ。

同時に、今後はB3が同一法人化(すると今季で活動を止める豊田合成以外の17クラブが合流する)、選手会が労組化していくことも目指されているわけで、意見を戦わせる相手はもっと増える。だからこそ、リーグはトップとして時にハッタリを一緒に掛け合い、行政や地域さえも巻き込める存在でなくてはならないのだ。「やると言ったらやる!」なんてことで固まる前に、「じゃあどうやる?どうすれば現実になる?」という視点が、B.革新の初弾の会見(昨年7月)から現在に至るまで、半年以上明るみになっていないことは、の

もちろん、クラブがその最後の一押しをさせるために普段から十分以上の関係を地域と作っておくことが大事なのは言うまでもない。

引用元:明治安田生命「明治安田 Jリーグサポーター宣言」

あるいは、サッカー・Jリーグにおける明治安田生命の存在のように、リーグが受け持って一定程度の全クラブ共通パートナーを取りに行くことで、「都市も地方も」という部分を実現しうる。「地方創生」とお題目を掲げるならば、地方に根ざしたものを、全国隅々にまで浸透している存在を掘り起こしに行くこともリーグの努力。つまり、隗より始めよなのだ。クラブもやる、リーグもやる。それが通じ合ってこそ「革新」に向けたエネルギーが生まれるのではないだろうか。

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