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変わりゆくもの、受け継がれるもの
プロスポーツは、時代を経るごとに経営体が代わることがままある。大きな企業の手を離れたり、逆にホワイトナイトから手を差し伸べられたり。物事には、なんだって栄枯盛衰があるのだから、それ自体は仕方がないことだ。
だが、その舵取りをする上で確実に言えることがある。変革がされることがあっても、チームの屋台骨を、決して崩してはならない。例えば、チームのイメージカラー。例えば、エンブレムロゴ。ともに、どのような歴史をたどって作られたものなのか、そこにどのような思いが介在していたのか、よくよく理解しなくてはならない。
それを変えようというのならば。今、その瞬間にクラブを応援してくれている人たちを、「おっ」と思わせる驚きが無くてはならない。また同時に、前向きな「変化」を、確かに説明できなくてはならない。
クラブは確かに変わりゆく。しかし、その中で受け継がれるべきもの、守るべきものも絶対に存在する。その前提に立って、今日の記事を書き進めていきたい。
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ブロンコスの「豹変」
B3リーグに所属する、埼玉ブロンコス。かつては自動車メーカー、マツダによる実業団チームだった。90年代、市民クラブにクラブチーム化し、本拠地を埼玉県に移転。その後、bjリーグの発足に大きく関わることとなる。そして、Bリーグが発足というところでB3リーグに戦いの舞台を移し、現在に至る。
運営スタイルが代わることこそあれど、脈々と血筋を受け継いできた、歴史あるクラブだ。
そのブロンコスは今、大きな変化の途中にある。かつてプロ野球・DeNAで球団社長を務めた池田純氏がオーナーに就任。このオフには、契約を継続した選手たちにアカデミーのコーチや「デザイナー(!?)」など、様々な役職を持たせた。
そんな中で、クラブの「豹変」は突然訪れた。
今日は練習おやすみ。
— 埼玉ブロンコス (@saitamabroncos) June 16, 2020
なんの気も無いツイート。だが、それまで練習の模様やクラブのリリース、メディア情報を訥々とつぶやいていたのとは、明らかに違うものだった。
このアカウントが「ゆるさ」を持ったのか、という観測もあった。だが…。
皆さんのご希望の色を教えていただきたいです。
— 埼玉ブロンコス (@saitamabroncos) June 18, 2020
「色」にまつわる会議を伝えるツイートに続いたのがこれだ。ブロンコスブースターは、「チームカラーが変わるのでは」と危機感を抱いた返信を一斉に飛ばし、他クラブのブースターも反応する事態となった。
邪推にはなるが、この3色、同じ埼玉県内のプロスポーツチームを表していると考えられる。浦和レッズの赤、埼玉西武ライオンズの青、そして大宮アルディージャのオレンジ。あらかじめ「どこかとのコラボ」を匂わせたり、全く別方向からぶつけるならともかく、聞き方がまずかった。
これで終わるのならば、というところで、追い打ちが起きる。
新経営体制のもとで、クラブのリブランディングを図りたいという思いがほとばしるツイートの数々が投稿されたが、熱意とは裏腹に辛口の反応が相次ぐ。「炎上覚悟でも注目を取りにいった」という明確な意図があるのならともかく、「毀誉褒貶に対して本当に腹をくくっているのか」も感じづらいものとなってしまった。
他山の石
クラブのカラーやユニフォームと言った「アイデンティティ」を巡る話は、何もバスケに限った話ではない。他競技、特にサッカーでもしばしば起こる議論だ。J1・サンフレッチェ広島の「アウェイユニフォーム」を巡る一悶着も、記憶に新しい所だろう。
サンフレッチェは伝統的に「紫」をチームカラーとしていたクラブ。だが、2020シーズンのユニフォームを供給するナイキは、ライバルクラブの鹿島アントラーズ、浦和レッズとの3クラブで、赤と白による「統一テーマ」が施されたユニフォームを採用したのである。
ナイキは、東京五輪をイメージした「日の丸」をイメージしたものという説明を添えていた。だが、ライバルクラブ、それも「赤」のイメージが強すぎる2クラブと同色ということにサポーターの反応は尖ったものとなった。
火に油を注いだのは、ナイキの説明だった。言うに事欠いて、「サンフレッチェの赤は、プロ野球・広島東洋カープにインスパイアされてのもの」とのたまったのだ。もはやサンフレッチェに一切関係なかった。
確実に言えるのは、サポーターの意向はそこに存在していなかったと言うことだ。何も、ユニフォームを決めるときには常に人気投票をしろ、とは言わない。だが、「この色を使ったら、どんな反応をされるだろうか…。」それぐらいの思慮深さは、あってもよかったのではないだろうか。
求められる「スマートさ」
結論から言うと、一連のブロンコスのツイートは「急すぎた」し、「スマートではなかった」。少なくとも、クラブの公式アカウントで発信されるべき内容ではなかった。担当者の思いは、担当者本人からの発信に留まるべきだし、どうしても発信したいならば「ブロンコスの○○さん」のアカウントを作って、そこから出すという「逃げ道」が必要と感じる。
例えば「色」にまつわるツイートも、先だって公式ではないところから、
「我が県にはこんなクラブもある、コラボできないかな」
という発信がなされていれば、受け取り方はかなり違ったものとなっただろう(むしろ相手方から「うちとやりませんか」的反応がもらえる可能性もあった)。
ユニフォームのロゴ話もしかり。ツイッターでゆるく発信する前に、スポンサーに「今年はこうしようと思う」と説明し、協力を仰ぐ方が先。もしくは、(時勢的に難しいかもしれないが)クラブからより大きな規模でリブランディング計画をまとめて出すまで「匂わせ」程度に留めておくべきだったはずだ。
スポーツは、シミュレーションゲームではない。関わる人たちにとって「最大多数の最大幸福」を目指し続けなければならない。その大原則を忘れた先にあるのは、クラブの破滅という、誰も幸せにならない未来である。
回避するためには、ひたすら根回しあるのみ。ファンは敏感に感じ取っている。
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