黒と白とそれから(20201020)
ほんの少し前まで、渋谷や新宿あたりをうろついているチャラついた男たちの象徴だった。街で見かけたら目を引き、怖がられたり避けられたりしていた。バンドを組んでいた頃も楽屋でこれを付けている人が少なからず居て、話しかけづらかったことを思い出す。黒色のマスクの話だ。
マスクといえば白、みたいな風潮があった。給食当番用に配布されたものも病院の待合室の風景も花粉症の薬の広告も白いマスクだったように思う。実際、私の高校では白以外は禁止とされていた。
しかし、いまや街を歩けば、黒マスクを付けた老若男女を見つけることは実に容易い。真面目そうなサラリーマンも、仲良く話している女子高校生も特に気にすることなく黒いマスクを付けている。極端な例だと欧米や日本の一部のコミュニティでは、葬式でマスクをつけるなら黒色にすることがマナーになりつつあるという。
薬局でしか見ることのなかったマスクが服屋やスポーツ用品店に並び、ファッションとして楽しまれると同時に生活の一部になっていることを肌で感じる。消毒や換気、デリバリーやネット通販などもすっかり馴染んだ。新型コロナウイルスは社会に大きな打撃を与えたと同時に、このような文化の創出や価値観の倒錯を引き起こしている。「新しい生活様式」だとか「ニューノーマル」だとか表現は様々だが、このような変化が長い歴史の中で繰り返されてきたのだと思う。
見た目や慣習に縛られて物事を判断するのは損でしかない。だからといってドラスティックな変化をただ待つばかりではなく、自ら多様性の中に飛び込み、様々なものを見聞きする中で本質を見抜く力を養う必要がある。グローバルでオープンな世界とはそのようなものなのではないかと、黒いマスクに向けられてきた偏見が考えさせてくれた。
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白くてもいいし、黒くてもいいし、黄色くてもいいだろう。そこに優劣はない。見た目に捉われる必要なんて最初からないのだ。
・大学の課題
・「マスクについて」
・800字