波瑠さん
朝から原稿を書き「やることは一通りやった」という充足感を携えて、ジムに行きました。
充足感に後押しされ、いつもより深く、ゆっくりと、負荷のかかるフォームでしっかりとチェストプレスをやっていました。
久々にしっかりとジムに来たので、体がなまっていて同じ重量でも重たく感じます。
ただ、それでも充足感という後押しは強いものです。ここを頑張って「質の高い筋トレをしたから、より一層、好きなものを好きなだけ食べよう」。そんな次なる充足感を求めた方が良いというポジティブシンキングを生み出してくれ、コンディション的には決して良くないですが、メンタルの力で何とか大胸筋を鍛え終わりました。
勢いが勢いを生み、次はスクワットで下半身の大きな筋肉を鍛えよう。そう思ってスクワットの器具に向かい、錘をつけました。
さあ、やるぞ!
胸以上に足はなまっているのか。いつもと同じウエートがさらに重たい。それでも、ここを頑張れば好きなものを好きなだけ食べるランチが待っている。そこまで走るんだ。自分とネゴシエートしながら、膝の曲げ伸ばしを続けました。
スクワットの器具の位置からはジム内のテレビが目に入り、見るともなく視線に入れていると、ドラマの再放送が流れています。
最近、にわかに好きになってきた波瑠さんが出ています。
無論、ここからの思考は全て何の意味もなさない「the無駄」な領域です。最初に綴っておきます。
どうもドラマ内の波瑠さんはトラブルに巻き込まれて困っているようです。ピンチだが頼る人間もいない。自力でどうにかするしかない。
もし、そこに僕がいたらどうするか。誰か敵が襲ってきたら、そら、身を挺して守るだろう。守るにしても力なき正義は無力である。打ち負かすには力が必要である。ただ、何か武器を持っているかもしれない。拳銃を持っていたら仕方ないが、このドラマの文脈的にそんなことはないだろう。せいぜい刃物であろう。ただ、刃物であってもいきなり近づいて、どこかを切られたら、それだけで戦闘力は著しく落ちてしまう。
そうなると、まずは前蹴りで距離を取りながら、願わくばつま先がみぞおち、もしくは膝に入って相手に大ダメージを与えられれば。そのためには、これくらいの重さで音を上げている場合ではない。
ジム内のテレビなので、音声は消してありますが、困ったように眉毛を下げている波瑠さんも心なしか「お願いします」と言っているようです。
より一層、力がこもるところですが、そこでふと、画面に映る字幕を見ました。音を出す代わりに字幕仕様になっているのですが、映る画面のシリアスさと字幕のアンバランスさに錘を落としかけました。
「ひと口、食べさせていただきます」
はっ?
何を?
なんで?
いろいろ切羽詰まった状況じゃないの?
そのまま字幕を凝視していると、ずっとその字幕のままです。どうやら、テレビの不具合でその字幕のまま固定されてしまっているようです。
どれだけ緊迫しようが、波瑠さんが精魂込めた芝居をしようが、字幕は「ひと口、食べさせていただきます」。そこでスッと現世に戻りました。
スクワットのセット数はまだかなり残っていましたが、妄想で気力の前借りをしていたのか、そこで気力もスッと尽き、妄想とテレビ画面とリアル重量と脳内麻薬を組み合わせたハイブリッドVRロールプレイングゲームは「たけしの挑戦状」以上にエキセントリックなエンディングを迎え、体を引きずるようにジムを出ました。
それでも、ひと口と言わず、しこたま食べさせていただいた47歳。