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未完の僕

食欲はないけど
食べなきゃいけない
そういう先入観で
人の骨肉はできている
だから台所に向かうのだけれど
カボチャを切ろうとすると
刃こぼれする

嫌になって
洗面台の前に走る
顔を見ると
目が多少充血している
頬に触れると
肌がこぼれ落ちる

嫌になって
玄関を開けて走り出す
すると
右足の外側靭帯が切れて
速度が落ちる
痛みはあるが
陽射しが強く
焼けたコンクリートで
靴の裏側が溶けていく
その方が気になって仕方がない

嫌になって
目の前のコンビニに駆け込む
いつも愛想のない大学生のバイト
レジ越しに頬をビンタする
驚いた彼は
88番のタバコを差し出し
自分のポケットから小銭を出し
いくらかを床に散らばして
残りのいくらかをレジに流し込む

僕はタバコを持って
雑誌コーナーへ向かう
ボーっと突っ立って
スピ◯ッツを読んでいる
サラリーマンよ働け
と言わんばかりに
タバコを投げつける
禿げ散らかした側頭部にヒット
よろめいて奧のATMでキャッシング

立ち位置を代わった僕は
女性誌から成人誌まで
幅広く積み上げて
天井の点検口を覗く

しばらくすると
暗闇に目が慣れる
埃が天空瞬き
スターダスト化する
ハウスダストな僕は我慢する
なぜならそこは
蒸気機関車が走る音が聞こえ
天動説が地動説を凌駕する
(ような感覚になる)
理想の場所だからだ
ここなら嫌になることもない

ちょっと待て
隣のコインランドリーに
洗濯物を入れたままだ

バランスを崩して
雑誌が跳ね上がる
滑って顎を打ち
前歯が欠ける

片付けておけよと
バイトに言い散らし
コンビニを出て左へ向かう
道路の向かいから
僕の足を心配する声が聞こえる
いつも雀荘で会う
車椅子の老婆だ
僕が中指を立てると
老婆は手を叩いて大笑い
きっと天気がいいからだろう

次回こそ七対子を防ぐと
心に誓い
コインランドリーに入ってビックリ
僕のところに行列ができている
他の洗濯機も空いているのに
たまたま今日は
いつもソコを使う人ばかりが
来たらしい

行列の後ろから
膝かっくんしてみる
wow wow
雪崩式にみんなの膝が曲がっても
乾燥時間がまだ10分残ってる
だから膝かっくんを繰り返す
4回目の時に
前から3番目のギャルが泣き叫ぶ
骨年齢高めなのにー
マジ酷すぎるんだけどー
晒してやる!
ス◯ッズと
グラビ◯ィで晒して
ポコ◯ャで
けちょんけちょんにしてやる!

嫌になったが
よく見ると姪っ子
とりま
3軒隣のラーメン屋で
半チャーハン2つと
素ラーメン一丁を奢る
話を聞いてると
最近彼ピと喧嘩して?
勢いで別れて?
部屋中の彼ピ臭がするものを?
全部ファブったら後悔して?
もう一度彼ピの臭いがするように?
コインランドリーで?
柔軟剤まぶしにきた?
ほおほお
そうですかと頷き
泣き濡れる姪っ子のツケマが
スープに落ちたところを
見逃さずにすくってやる

おじさんありがと!
ワキガ治せよ!
こちらこそありがとう姪っ子よ
100円足りずに
出してもらって
申し訳なかった
そして僕は
ワキガだったのか!

コインランドリーは
自動ドアが閉まらぬほど
長蛇の列
遠目に
僕の洗濯物が
床に捨てられているのが分かる

嫌になったが
そうする他人の気持ちも
少しは分かる

コンビニでは
バイト君が
大柄モヒカン男に
ビンタする風景

錆びれた僕の住むアパート
階段を上がると
右足の踝が
パンパンに腫れていることに気付く
靴底は無くなり
足裏は皮がめくれている

嫌になって
でも
使い所がわからなかった
ブロックアイス
水に浸して足を冷やせた
ドクターフィッシュが凍結された
何処かの国の
お土産ブロックアイス
くれた同級生は
彼の国で首長になったらしい

エアコンの壊れた僕の部屋
昔ながらの扇風機が
斜め上から首を振り
僕は
赤茶けて穴の空いた団扇で
軽妙にサポートする

たゆんで沈む西日とともに
老化と進化の狭間
時間経過の蜃気楼を想う

ドクターフィッシュが
壊死した足をついばむ頃
インターフォンは鳴らされる

開いた扉のむこう
車椅子の老婆が僕を見て
呵呵として笑う
その足じゃ今日は行けないね?
とっておきの七対子
見せてやろうと思ったのに

嫌になって
ムカついて
はらわたが煮えくり返って
膝に乗っけてけクソババアと
高い声で罵った

クソ坊や
無駄に歳は食ってねぇんだよと
僕を膝に抱え
車椅子ごと
アパートの2階から転げ落ちる
血だらけの僕を見て
アザだらけの老婆が唾を吐く
乗りな
と親指を立てて示す先には
サイドカー
車椅子の後ろに連結して
歩道を時速20kmで駆け抜ける
行きつけの雀荘
開店まであと10分

ババア
そもそもどうやって
アパートの2階に上がったんだ?
クソ坊や
ワタシがアガるの得意なの
嫌と言うほど見てきたんだろ?

逞しい老婆の背筋
車輪を回す上腕三頭筋
見れば見るほど
嫌になって
今日こそは
と四槓子を虚妄する僕
未だかつて見たことがないねと
呵呵とする老婆
僕も笑って首を反り
筋を違えて
嫌になった

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mASAO
今のところサポートは考えていませんが、もしあった場合は、次の出版等、創作資金といったところでしょうか、、、