「期限の利益喪失条項」ってご存じですか?
ご無沙汰しております。弁護士・中小企業診断士の正岡です。
突然ですが,皆さんは,「期限の利益」という言葉をお聞きになったことはありますか。
今回は,債権回収の場面で,債権者(権利を持っている人)が知っておきたい「期限の利益」について書きたいと思います。
1 そもそも「期限の利益」って何?
期限の利益とは,契約などで決められた期限がくるまで,債務(義務)を履行しなくてよいことをいいます。債務(義務)を負っている人からすれば,期限が来るまで履行しなくてよいため,期限の利益と呼ばれています。
例えば,商品を仕入れた場合に,代金の支払期限が令和3年10月末と約束されていれば,10月末までは代金を支払わなくてもよいわけです。
また,お金を300万円借りた時に,毎月末に5万円ずつを60か月かけて返す約束をしたとします。この場合,借主は,毎月末日までに5万円ずつを支払いさえすれば,契約違反にはなりません。
このように,期限が決められていることで,その期限まで債務(義務)の履行が猶予されているわけです。
2 知っておきたい「期限利益の喪失条項」
「期限の利益」との関係で,皆さんに知っておいていただきたいのは,「期限の利益喪失条項」というものです。
難しそうな法律用語を書いてしまいましたが,意味を知ってしまえば難しくありません。
期限の利益喪失条項は,債務の不履行や債務者の信用状態の悪化などの一定の事由が発生した場合に,期限の利益を失わせてしまう約束のことをいいます。期限の利益を失うと,債務者はすぐに債務を履行しなければならなくなります。
例えば,皆さんが知人に300万円を貸し,毎月末に5万円ずつを60か月かけて返してもらう約束をしたとします。この時,皆さんは知人と,契約書で,不払があったときは当然に期限の利益を喪失させる約束をしていました。
しかし,お金を貸してから半年ほど経つと,知人が支払を怠り始るようになり,現在は数か月分が不払になっています。
この時,皆さんは期限の利益喪失条項を根拠に,知人に対して,「今すぐに残額を全て払って。」と言うことができます。期限が来ていなかったはずの分についても請求できるわけです。
3 期限の利益喪失条項がないとどうなる?
それでは,先ほどの知人への貸金の例で,期限の利益喪失条項を定めていない場合はどうなるのでしょうか。
期限の利益喪失条項を定めていない場合,民法などが適用されます。
民法では,債務者が期限の利益を喪失するのは,債務者が①破産手続開始の決定を受けた場合,②担保を滅失させ,損傷させ,又は減少させたとき,③担保提供義務があるのに提供しなかった場合に限定されています。
つまり,先ほどの例で,知人が支払を怠っただけでは,期限の利益は喪失しないことになります。皆さんが知人に請求できるのは,期限が来ている数か月分だけで,「今すぐに残額を全て払って。」と言うことはできないのです。
このような問題は,貸金だけでなく,取引先の売掛金の回収といった場面でも生じることがあります。
債務者の資産状況が悪化したような場合に,まだ期限がきていないからといって,債務者に支払を請求できなければ,期限がくる頃にはお金を回収できないことになりかねません。また,先ほどの例のように,債務者が決められた期限に支払いをしない場合には,「もう信用できないから,全て払って。」と言いたくなります。
そのような場合に備えて,期限の利益喪失条項を定めておくとよいのです。
4 さいごに
「期限の利益」の意味や,「期限の利益喪失条項」の必要性をお伝えできたでしょうか。
この記事が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。