エレベーター小景【エッセイ】一八〇〇字
孫ってえのは、「孫のかわいいと向こう脛の痛いは堪えられぬ」とか、「孫は目の中へ入れても痛くない」とか言われるように、「猫可愛がり」するほどに可愛いもの、らしい。
学生時代、長髪でベースギターを弾いていたヤツでさえ、この歳になると孫が無条件で可愛くてしようがないようだ。昨年亡くなった弟もご多分に漏れず、であった。帰省する予定を電話しても、「いま孫が来ていているんだよ。忙しいんだよ。わかった、わかった。じゃあな」という、あしらい。幸か不幸か不幸か幸か、子どもに恵まれなかったので、孫と遊ぶジジ・ババの心模様なんぞ理解できるはずがない。が、郷里・北海道の弟家族の元を訪ねると、おじいちゃんを亡くした姪の子どもが懐いてくれるので、ちょっぴりだけわかるようになった。なんせ、ワタクシのことを「お兄ちゃん」と呼んでくれるのだ。「おじいちゃんの」なしの「お兄ちゃん」である(ま、こう言わせるまでには、相応の失費はしてはいるのだがね)。そりゃ、「めんこい」(=可愛い)。
ちなみに、姪なり甥の子どもを何と言うか。姪孫、又甥、又姪、らしい。
わが集合住宅にも、多くの子どもたちがいる。なので、主にエレベーターで、であるが、出会いがあり、そこにはいろんな小景がある。
ドアが開くと、奥の鏡の前に低学年と思しき女の子が立っていた。いつもやっているように礼をして(礼をすると、9割は挨拶を返してくれる)、「おはよう!」と元気よく挨拶をする。
が、無反応。どころか、鏡に向かって後ろ向きになってしまった。固まってしまったようだ。
<親に、「挨拶されても、知らない人だったら黙っていなさいよ」と言われているのかな>
なんて、思いつつ、普段なら「何年生?」なんて訊くのだけど、
<後ろを向かれちゃなあ>
なんて、思っているうちに1階に、着く。
このワタクシ、短パンをはき、リュックを背負った「ピカピカのジジイの夏休み」って井出達。怪しいと思われたかな・・・と思いつつスーパーに買い出しに行った。
その日は何回か外出することがあり、エレベーターを3回利用したのだが、その無言の子の後、また出会いがあった。今度も、先に男の子が乗っていた。で、さっそく例によって礼をして、
「何年生?」と訊くと、
「3年です」と元気に答えてくれた。
<こいつとは、話ができる>
「身長、何センチ?」
「138センチです」
「大きい方だろう」
「はい。体重40キロです」と、体重まで答えてくれた。
<なかなか、面白い子だ>と思っていたら、
「家のお兄ちゃんデブっています。お母さんは、ガタイがいいって言います」
とまで話してくれる。ここまで話が進むのは珍しい。
<きょう最初に出会った子と、えらい違いだ>
と思っていると、1階に。「さよなら」と走って行ってしまった。
ジムに行こうと、エレベーターに。すると、今度は女の子が乗っていた。
礼をして、入り、
「こんにちは!」と、声かけるが、無言。
<どうもきょうは、愛想の悪い女の子に出会う日だな>と思っていると、
「ああ、時間がもったいない」と、スマホの時計を見ながら口走るではないか。
「そうなの・・・これから勉強に行くの?」と一応、訊いてみる。
「ううん、違うよ。遊びに行くの」
「そかそか。勉強、何が好き?」
「体育。ああ、時間がもったいない」と、また繰り返す。
<体育? 勉強? だっけ?>と思い訊きなおそうと思ったが、こんなケース初体験なのでオロオロしていると、1階に着く。
「あ、気をつけてな」と言うやいなや、走って行ってしまった。
ジムに向かっていると、横を自転車が「猛」スピードで飛ばして行く。その子だった。一生懸命、漕いでいる。
「ああ、時間がもったいない」と呟きながら。
<おいおい、残り時間が幾ばくもないこのワタクシなら、わかるよ。キミは、まだ若いんだからさ>
と思いながら、ジムに。
そして、30分くらいたったとき、ジムから窓の外を見ると、先ほどの子が緑地を走り回っているではないか! 網を持って。そうか、友達とトンボを取りに来たんだ。時間がもったいないって、このことか。やっぱり、かわゆいもんだ。
10月初めに、弟の墓参りに行きます(ヒグマに遭遇することがないことを祈りながら)。そのあとは、姪孫たちも一緒に、札幌にカニを食べに行きます。
おっと、てえへんだ。弟から電話がきやがった
(おまけ)
本日から、「毎日新聞」を追加しました。
ワケは、過日書いたこの記事がヒントです(下部のほうに注目)。
で、もうひとつは、この広告。
この件で、『心外』というエッセイを、後日書きます。乞うご期待!(◎_◎;)