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「弱み」 『マダム・イン・ニューヨーク』を観て【エッセイ】一〇〇〇字

 コロナ禍の前年、三月末。ニューヨークに行った。初のマンハッタンだった。その想い出が鮮明に残る今年の「巣ごもり」中、NYの街なかが舞台になっている映画を、探した。
 何本か観たなかで、記憶に残るスポットが映っている、マンハッタンガイドのような作品が、『マダム・イン・ニューヨーク』だった。
 五番街、ワシントンスクエアパーク、NY大学、コロンバスサークルの地球儀のオブジェ、セントラルパークなどが、映っている。
 主人公はインド人の良妻賢母、古風なシャシ。ニューヨークに住む姉の、長女の結婚式に招待され、家族に先立って単身で訪米することになる。しかし彼女は、夫や二人の子供が英語を話せるなか、ひとり苦手でヒンディー語しか話せない。飛行機の中でも、隣席の紳士に助けられての旅だった。マンハッタンでも、下の姪がNY大学の授業中ひとりになり、カフェの店員の英語が理解できず動揺し、逃げ出してしまうほど。直後、英会話教室の広告を見かけ、通学を決意するのだった。
 健気に英語を覚えようとする美しいシャシに、クラスメートのフランス人コックの男とともに、惚れた。あるとき、その彼がくれたペットボトルの水を、口をつけずに飲む姿に、奥ゆかしい、昭和の日本女性を見たように思った(いまの女性が奥ゆかしくないと、言っているわけじゃないですよ、決して・・・)。
 英語は学生時代から相性が悪く、「弱み」のひとつ。劣等感になっていた。何年か前までの私の姿を見ているようだ。仕事の合間の個人レッスンや、会社の整理後、教室にも通ったりした。しかし、自信をもてなかった。
 NYに行くことになったときも、友人が一緒だったことと、NYに知人がいたから決断したものの、一人なら無理だった。トム・ハンクスが演じる『ターミナル』の主人公のように、空港から出られなくなるのではないかと、思っていたほどだった(大げさでなく)。
 マンハッタンのカフェでサンドイッチを買うとき、店員に「フォー・ヒア オワ ツー・ゴー」と聞かれ、最初聞き取れなかった。旅行英会話の基本中の基本のフレーズにも関わらず。まるで、シャシのように・・・。
 教材としても、この映画はお勧めだ。何回か見返してであるけど、誰もが泣いただろう、最後のスピーチを、書き留めることができた。
そのシャシ役のシュリデヴィが、二年前、甥の結婚式で滞在中のドバイのホテルで、五四歳で亡くなるとは。なんという運命だろう。
 (「ラドゥ」が、無性に食べたくなった)

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