『80歳の壁』【エッセイ】一六〇〇字(本文)
知り合いKの彼女が、ガンになった。彼は力になろうと励ましたが、みじめな姿を見せたくないと音信を絶つ。何度メールしても返信がないのだ。そして、最期のメールが、「ばんばった、ばんばった。でももう無理」だった。彼女は52歳、彼は65歳のとき。癌は、子宮ガン。手術をしたのだが、肺にも転移があり、さらに手術。学生時代はテニスもやっていて体力には自信を持っていたが、寝たきりのまま逝ってしまったらしい。手術をしなければどうなったかは、誰にも判らない。しかし、寝たきりになるほどに体力が落ちずに済んだかもしれない。彼と再会したかは別としても、社会人になった2人の息子と楽しい時間を過ごすことができたかもしれない(彼と彼女は、ダブル不倫関係だった)。
最近、和田秀樹さんの『80歳の壁』を読んだ。冒頭の話は、高齢者ではないので、手術によって生きのびることを選択したことが悪かったかどうかは、和田さんも、「判らない」と言うかもしれない。しかし、元気さが確実になくなることが多い、とは言うだろう。本書は、80歳までラッキーにも生きられたひと向けに、その後、楽しく、より長生きするためのアドバイスを書いている。
80歳を越えたら(和田さんは「幸齢者」という)、ガンの進行はかなり遅くなるので、体力を落とすような治療、例えば手術とかはしないほうがいい、(60代までは別としても)健康診断もしないほうがいい、と言う。検査の精度が高くなってきており、放置しても良いガンまでもが見つかり、手術で、体力どころか生きる気力までも失ってしまう。好きなことをして、好きなものを食べ、楽しく生きた方が免疫力も高まり、ガンの進行を遅くしたり、他の病気や、認知症までもがかかる可能性を低くしたりすることにつながる、と。
やはり、ウォーキングを奨励する。最近は、「奇跡の研究」の発表以来8000歩が理想としてきた。しかし、80代となると6000歩でも良いとしている。過度な運動になるなら、3回に分割してでも、継続することが大切としている。
「奇跡の研究」8000歩ウォーキング
ちょっと嬉しいことが書いてある。世界中で言われるようになったように、長生きするには、「小太り」のほうがいいので、食べたいものを我慢しないほうがいい、と。私の場合、171.5cmで66kg前後。BMIは、「22.4」前後。「小太り」と思っていたが、下記「長生き体重計算」(おまけ1)で測定すると、「やせ」型の範疇らしい。あと7kgまでは増やせる余裕があり、もっと食べて良いことになる。
さらに嬉しいのは、好きな酒やタバコも控えないでよい、とある。「幸齢者」は、本人が気づかなくても、すでにガンになっていることが多いので、ガンにならないための我慢は意味がない。ただし、80歳の壁がある。その壁を乗り越えることができたひとには、免疫力も生命力もあるから飲み続けても問題はない、むしろ、ストレスを少なくし、免疫力を高めるように好きなものを飲み、楽しく生きたほうがいい、と。裏返せば、免疫力や生命力が低いひとは、その前に亡くなっているとも言えるけども、好きなことをして、好きなものを食べ、楽しく生きた方が免疫力も高まり、壁まで到達できるとも言う。
知人の祖父が、(30年前)90歳で天寿を全うした。ある日、寝ている間に旅立ったようだが、その前日まで大好きなビッグマックを食べていたという。まさに楽しんで80歳の壁を乗り越えていったひとだったようだ。死因は、「老衰」。「小太り」よりも体重があり、血圧は高めだったが、ガンなどの表立った病気はなかった。しかし、解剖して調べていたら、和田さんが言うように多くの高齢者、いや「幸齢者」と同じように、ガンのひとつやふたつはあったかもしれない。『医者に殺されない47の心得』の近藤誠さんも言う。むかし老衰で亡くなったひとの多くは、知らないうちにガンを罹っていて、その苦痛もなく静かに息を引き取った。無意味な治療などをしていたら、自宅で大往生できていなかったかもしれない、と。
80歳の壁を越えられたら、かように楽しむことを心がけ、気ままに生きた方が良いという教えであった。そこで、この曲。
(おまけ1)
因みに、長生きすると言われる「小太り」(ちょい太)を知るサイトがある。試しにやってみてはいかがだろうか。
(おまけ2)
80歳の壁を超え、残っている機能を保つためのヒントをカルタ風に語っている。その一部を紹介。その残りや、『80歳の壁』の詳細は本書を手にされることをお薦めしたい。
「あ」:歩き続けよう。歩かないと歩けなくなる
「う」:運動は体がきつくない程度に
「き」:記憶力は年齢ではなく、使わないから落ちる
「く」:薬を見直そう。我慢して飲む必要はない
「け」:血圧、血糖値は下げなくていい
「こ」:孤独は寂しいことではない。気楽な時間を楽しもう
「さ」:自動車の運転免許は返納しなくていい
「す」:好きなことをする。嫌いなことはしない
「せ」:性的な欲もあって当然。恥ずかしがらなくていい
「そ」:外に出よう。引きこもると脳は暗くなる
「つ」:つき合いを見直す。嫌いな人とはつき合うな
「と」:闘病よりも共病。「在宅看取り」の選択もあり
「な」:「なんとかなるさ」は幸齢者の魔法の言葉
「に」:肉を食べよう。しかも安い赤身がいい
「ふ」:不良高年でいい。いい人を演じると健康不良になる
「ま」:学びをやめたら年老いる。行動は学びの先生だ
「み」:見栄を張らない。あるもので生きる
「わ」:笑う門には福来る
(おまけ3)
認知症は、過去のことを忘れて総合的な判断ができなくなる病だが、和田さんは、日本人のほぼ全員が、その判断ができていないのではないかと、指摘する。「なぜなら、政治家や役人が数々の悪事を働いても、簡単に忘れてしまうのですから。(中略)さらには、30年景気が悪くて実質賃金も減っているのに、それでも自民党に票を入れ続けている」と。
和田さんらしい、言葉である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?