専守【エッセイ】一六〇〇字(本文)+資料
「五回に一回は書かねば、筆が腐る」
ここに、ある比率の数値がある。何の数値だろうか?
スイス、イスラエル(100%)、ノルウェー(98%)、米国(82%)、ロシア(78%)、英国(67%)、シンガポール(54%)、韓国のソウル市(323.2%)、日本(0.02%)
※スウェーデン、フィンランドは、70%~80%(推定値)
核シェルター普及率(国民総人口に対する収容可能比率)である。
数値は、2014年にNPO法人「日本核シェルター協会」が発表したものしかなく、(ソウル市の数値のように)ただの地下施設、防空壕に近いものも含まれるようなので正確性に欠けるが、各国に比べ日本は、極めて低いことだけはわかる。
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直近(10月11日)のNHK世論調査で、防衛費の増額の賛否を聞いたところ、「賛成」が55%、「反対」が29%となった。最近のきな臭い国際情勢に影響された、結果なのだろう。しかし、防衛費を増額すれば、国の安全、国民の命は、はたして守られるのだろうか。
政府は、日本国憲法が謳う「専守防衛」を逸脱しかねないプランを提案する。“敵基地攻撃(反撃)能力”である。敵国がミサイルを打つ兆候を察知したらその基地・拠点を攻撃する、というものだ。そのために防衛費を、倍に増額する方向で、(前のめりに)検討している(“おまけ”参照)。もし実現されれば、世界第3位の軍事力をもつことになる。
「軍拡のジレンマ」。《永遠に競争し続けなければいけなくなり、単に他国よりも優位を保っているという相対的なものでしかない》という限界を示す言葉、そのもの。むしろ、「戦争の準備」をしていると、周辺国に「口実」を与えるだけだ。
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その兆候を察知する「Jアラート」の精度がどんなに高まろうが、全て防御できなければ、(周辺国からの攻撃の場合)短時間でミサイルが到着する。だが政府は、「直ちに全国瞬時警報システム(Jアラート)を使用し、注意が必要な地域の国民に幅広く情報を伝達し、避難の呼び掛け等を行うこととしている」(後述の政府回答)と、宣う。(「呼び掛け等」ですと)
国民は思うだろう。「たまたま地下鉄など地下にいた場合は、そのまま地上に出なければ良いが、地上にいたらどこに逃げろと言うのだ。そんな場所はない」と。その攻撃が核ミサイルだった場合は、地下にいても放射能から身を護ることはできない。非武装論者を揶揄するときに用いられる、「丸腰状態」と変わりない。
やはり、「避難施設の充実」が必要ではないか。核ミサイルにも防御できる「核シェルター」である。兆候があったら、すぐに避難する。『やれるものならやってみな。思うほどの効果は得られないからね』(後述する石破茂元防衛大臣の言葉)と言ってやれる。平時は、水害、地震・津波への防災・災害対策にもなる。人類の地球脱出後の居住空間の研究にもつながる。軍需産業も参画できれば大喜びだろう。最大の経済対策だ。巨額な投資と、時間を要してでも目指す価値はあるのではないか。野党よ、安保政策の骨格にしてはどうか。
日本は、武器の充実には金をかけるが、国民の命を直接守る避難施設については、無策に等しい。これまで、危機感を持って防衛力を増強する予算と時間を核シェルターのためにも使っていたら、(核シェルター)先進国のような数値になっていただろう。
日本で核シェルターが普及しない理由を、(自民党で数少ない“政治家”の)石破茂元防衛大臣は、こう語る(詳細は後述)。
「日本で『備えをしておけ』と言っても、票や金にならないから、政治家が動かない。おかしくないですか。票や金のためではなく、いかに国民を守るかを考えるために政治家をやっているんじゃないですか。戦中の空襲時に市民を守る発想がなかったこと、それは今も同じではないか。防衛費を2倍、3倍にしようが、市民が死んでしまっては、その国はもたないです。そういう議論をしていかなければ、この国は終わる…と私は思う」
石破氏の話を裏返せば、「武器は、票にも金にもなる」ということなのだろう。そりゃあそうだ。軍需産業を儲けさせれば、票につながる。国民の命を護ることなんか頭にないのではないか。もっと言えば、戦争に対する危機感を煽って武器を買うだけで、現実感なんかないのではないか。軍備拡張派が、非武装派、軍備抑制派によく使う、「平和ボケ」。キミたちこそ、そうなのではないのか、と言いたい。
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(資料)
「核シェルター」の必要性を主張している政党、政治家がいないわけではない。ここに、立憲民主党が政府に問うた質問とその回答がある。そして、(憲法第九条の考え方の相違はあっても)評価している“政治家”の一人、石破茂氏の講演会での意見(抜粋)を示したい。
●立憲民主党・熊谷裕人氏の、山東昭子参議院議長に宛てた質問主意書(2019年12月4日)からの抜粋
(質問内容)
政府は、日本の領域内において弾道ミサイルの落下又は通過の可能性がある場合に、Jアラートで「屋外にいる場合は近くの建物(できれば頑丈な建物)の中又は地下(地下街や地下駅舎などの地下施設)に避難してください」と国民に促すが、これは、これらの場所が核ミサイルの着弾に対しても十分に有効な核シェルターとして機能すると考えているためか。政府の見解如何。
(政府回答)
政府としては、弾道ミサイルが我が国に飛来する可能性がある場合、直ちに全国瞬時警報システムを使用し、注意が必要な地域の国民に幅広く情報を伝達し、避難の呼び掛け等を行うこととしているが、その際、弾道ミサイルの着弾の衝撃や爆風により発生する被害をできる限り軽減する観点から、直ちに建物の中又は地下に避難するよう呼び掛けることとしているところである。
●自民党衆議院議員 石破茂氏
「核シェルター普及協会」(代表:深月ユリア氏)が今年8月に主催したシンポジウムには同協会の顧問を務める自民党の石破茂元防衛大臣が参加し、普及しない理由や背景を述べ、必要性を説いた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/92992a50cdc80e474139c9667d9f681da19588fd
深月氏が「なぜ、日本の政治家はシェルター普及に積極的でないのか」と問題提起したことを受け、石破氏は歴史をさかのぼり、第二次世界大戦中に民間人の命が多数奪われた空襲を例に説明した。
「昭和20年3月10日、東京大空襲時、地下鉄銀座線に乗っていた人たちは地上に出された、当時の(退去を禁止して応急消火を義務付けた)『防空法』によって、市民はホウキとハタキ、バケツリレーなどで焼夷弾の火を消せと。『逃げるな、火を消せ』という法律を強制し、それで大勢の人が死んだ。ロンドンは(ナチス)ドイツから57日間も爆撃を受けて死者が4万3000人で、東京は数時間で10万人が亡くなった。それでも、『おかしいじゃないか!なんで政府は私たちを守らないんだ』という怒りが国民から出て来ない。言っても政治家に耳を傾けてもらえない。だが、そこで諦めたら終わり。今後も言い続けていかなければいけない。そう言うと、『お前は左翼か』と言われるのですけど、どんな政権であれ、国民の命を守ることが国家にとって本当に大切なことであり、そんなことを言う人に限ってシェルターには後ろ向きです。歴史を忘れている」
その上で、石破氏はシェルターの必要性を説いた。
「フィンランドやスウェーデンが核を持たず、NATOに入っていなくても(現在、加盟に向け調整中)、冷戦期に隣国のソ連から、なぜ生き延びられたかというと、シェルターがあったから。『やれるものならやってみな。思うほどの効果は得られないからね』という抑止力です。だが、日本で『備えをしておけ』と言っても、票や金にならないから、政治家が動かない。おかしくないですか。票や金のためではなく、いかに国民を守るかを考えるために政治家をやっているんじゃないですか。空襲時に市民を守る発想がなかったこと、それは今も同じではないか。防衛費を2倍、3倍にしようが、市民が死んでしまっては、その国はもたないです。そういう議論をしていかなければ、この国は終わる…と私は思う」
さらに、石破氏は
「スウェーデンでは一定基準以上の建物にはシェルター設置が義務づけられ、フィンランドもスイスも建築基準法で条文があるはず。日本において、例えば『地下鉄駅をシェルター化するのにいくらかかるか』を試算して、それが納税者の負担に耐えられるもので、次の時代にも持ちこたえられるならば、国債を出す価値はあると私は思っているが、それは反対される。駅に『ここは核シェルターの入口です』と示すと(平常時の利用者が)地下鉄に乗ってくれなくなるからと。政治家にとって票にも金にもならないかもしれないが、そこを言っていかなければ、政治家を辞めた方がいいと私は思います」と思いを吐露した。
※スイスでは、1962年の米ソ冷戦下でのキューバ危機を受けて、1963年に全戸に核シェルターの設置を義務付ける連邦法が成立している。
(おまけ)
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