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指輪【エッセイ(ショートショート風)】六〇〇字(本文)
朝カル「エッセイ講座」の5月のお題は、「指輪」。指輪となると、またまた、おふくろの想い出になりそうですが、ぐっと抑えて別の話を。小学四年のころの想い出です。よく考えたら、ちょっと怖い話なのです。(笑
※
私が婚約指輪を贈った女の子がいた、ようだ。
父の仕事の関係で、小学校を一、二年で転校していた。旭川の北に位置する、“愛の別れ”と書く町(愛別)に越した年。その子は、二つ下。小一のMちゃん。弟と同い年で、お隣さん。母親同士が、仲が良かった。公営住宅が十軒ほど並んでいたのだが、長嶋ファンの父が野球観たさに無理して買ったのだろう、わが家に最初にテレビが入った。栃若時代。大相撲の時間になると、Mちゃんの家族三人が家に来ていた。
その年の初夏。Mちゃんとママゴト遊びが始まった。タンポポの綿帽子が飛び、シロツメクサが近くの野原一面に広がる。その草花を摘んできて、玩具の包丁で切り、鍋に入れ、茶碗や皿に盛ってくれる。なぜか私が“あなた”で、弟が息子。完全に、夫婦気取り。
ある日。Mちゃんが、シロツメクサで作った指輪を私に渡し、「私の指に着けて。お嫁さんにしてほしいの」と宣う。正確に言うと、贈ったのではなく、一方的に婚約を迫られたのだ。
二年後。私は、別の町に。親同士は連絡を取り合っていて、母娘で遊びにくることも。
Mちゃんとは中学・高校と交流はなかった。しかし、札幌で浪人中。その家族も藻岩山に家を建て住んでいて、おばさんの依頼で、一年間、家庭教師をやることになった。もちろん、私は、指輪のことは完全に忘れていた。
が、東京の大学に入学後。母の急死で、葬式に来てくれたおばさんが宣った。
「卒業したら、札幌に戻って、Mと結婚して欲しいの」
(シロツメクサの花言葉に、「私を想ってください」「約束」、そして「復讐」とある)
(ふろく)
シロツメクサ(白詰草)
シロツメクサはもっとも親しまれている野の草のひとつです。5月の頃、いっせいに群れ咲き、ミツバチたちが蜜を求めて忙しく飛び交います。もしかすると、クローバーという英語名の方がなじみ深いかもしれませんね。
柔らかく敷きつめられた葉の上でお弁当を広げ、花を摘んで冠を編んだり、四つ葉のクローバーを探したりした思い出。初夏の光の中で家族や友人、恋人などと共有した懐かしい「あの日」。シロツメクサが愛されるのは、そんなそれぞれの幸福な記憶と結びついているからでしょう。
シロツメクサは文明開化の象徴 <菊地追記:そもそも緩衝材だった!>
シロツメクサはヨーロッパ原産のマメ科の帰化植物です。
和名の由来は1846年(江戸時代末期)、オランダから将軍家にガラス製の花瓶が献上された際、箱の中に乾燥したこの草が詰められていたことによります。器が割れないための詰め物に使われたので「詰草」、さらに花が白いので「白詰草」となりました。
文明開化の明治時代には、牧草として優れているため、近縁種のムラサキツメクサ(アカツメクサ)とともに「ウマゴヤシ」と呼ばれ、盛んに種子が輸入されました。
牛乳を飲むのが流行した明治中期には、東京の中心部だけで100カ所もの牧場が生まれたといいます。シロツメクサが牧場から逃げ出し、全国に広がるのにそう時間はかかりませんでした。
さらに、マメ科の植物の特徴として根にバクテリアが共生し、タンパク質をつくりだすので、レンゲ(ゲンゲ)と同様に良質な緑肥=田畑の肥料ともなりました。そのためオランダゲンゲとも呼ばれます。養蜂家にとっても大事な花で、世界のハチミツの大半はクローバーから作られているそうです。
宮沢賢治とシロツメクサ
そんなシロツメクサに深い思い入れを抱いていたのが、農学者でもあった岩手県の詩人・童話作家の宮沢賢治です。童話「ポラーノの広場」では「つめくさの花」が、伝説の祝祭の広場を探すための道しるべとして描かれています。
「おや、つめくさのあかりがついたよ」ファゼーロが叫びました。
なるほど向うの黒い草むらのなかに小さな円いぼんぼりのような白いつめくさの花があっちにもこっちにもならび、そこらはむっとした蜂蜜のかおりでいっぱいでした。
シロツメクサの花は、10~80個の小さな花=小花(しょうか)の集まりです。小花を取り出して観察すると、5枚の花びらがマメ科特有の蝶の形をしています。童話の中で、賢治はそうした花の特徴も丁寧に記しています。
幸運の四つ葉のクローバー
花以上に親しまれているのは、3つの小葉(しょうよう)からなる葉の形です。英名の「クローバー」は「こん棒」という意味で、ヘラクレスが手にしていた3つのコブがあるこん棒の形に由来します。キリスト教では、三つ葉は神・キリスト・聖霊の、三位一体の象徴とされます。学名の「トリフォリウム(Trifolium)」も3つの葉という意味です。
葉が踏まれて傷つけられると、そこから新しい小葉が出て、四つ葉ができることがあります。ヨーロッパでは四つ葉のクローバーは幸運の象徴。身につけると魔除けになり、夢に見れば幸せな結婚を暗示するといわれます。けれど五つ葉のクローバーは逆に不幸をもたらすのだとも。
シロツメクサの花言葉は「私を想ってください」「約束」、そして「復讐」です。強い願いや約束はそれが破られると怖いことになるのかもしれませんね。
四つ葉のクローバーにも花言葉があり、「幸運」「私のものになって」です。
学名Trifolium repens 英語名 White clover
マメ科シャジクソウ属の多年草。葉はハート形の3枚の小葉からなる。花茎を10~30㎝ほど伸ばし、先端に2㎝ほどの白い花を咲かせる。花期は春から夏。