謀略(その後)【エッセイ】八〇〇字
給湯器はその後も、発狂状態。仕方なく、東京ガスに電話する。すると、全取っ替えを案内するチラシをポストインしていた、グループ会社から連絡があり、下見に来ることになった(やっぱり、つるんでいるんジャン)。
担当は、六〇代くらいのおっさんだった。給湯器の中をチェックすることなく、リモコンの前で、「やはり、寿命ですねえ」と宣う。
「リモコンだけがおかしいから、その交換でもいいんじゃ?」と言うと。「結局、高くつきますよ。給湯器が壊れたときに、あらためて、全部交換しないと」と言い張る。どうも合点がいかないので、リモコンだけにした。
工事の当日、あの、おっさんが来た。
作業が始まり、私はその様子を監視するようにジーっと、すぐ近くで見ていた。手際はいい。暑くもないのに、タオルで汗をフキフキ、無言で淡々と、作業しているのだった。
ふと目に入った。おっさんの尻の割れ目がズボンの上に見えるではないか。「おいおい、『腰パン』? そんな年じゃねぇだろう。パンツまで下げてはいているのか? おっさんの割れ目なんか見たかぁねえよ」と思った。
何度かズボンを上げるのだけど、また「腰パン」状態に。アンコ型力士のような腹をしていて、引き上げても、すぐに下がってくるのだった。汗をフキフキ。ズボンもアゲアゲ。その様を見ていると、あくどい会社の担当と思っていたが、なんか可愛らしく思えてきた。
それからは、世間話をしながら、小一時間ほどで工事は終わった。そこで、訊いてみた。
「この後、給湯器が壊れたら、またリモコンも含めて全取っ替えしなきゃいけないの?」
「いいや、いいですよ、リモコンにエラーがでるけど、給湯器だけで」と、白状したのだった(ん? 下見のときと違うジャン!)。
因みに「腰パン」は、フロリダの一部では、禁固や罰金刑に処されるなど、いくつかの州でも、条例で禁止されているらしい。そういえば最近見かけることが、少なくなったね。