花火【エッセイ】六〇〇字
朝日カルチャーセンター通信教育講座の後期。最初の課題は、「花火」。『空白』に続いて、北海道・滝川での夏の体験を想い出しました。因みに、早大オープンカレッジの先週のお題は、「胸さわぎ」。過日書いた『裏窓』をリライトしました。
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「ボク、それはなんという虫なの?」と訊いてきた。あ、三橋美智也だ。去年の紅白歌合戦で観た。「ケラっていうんだよ。僕のおばあちゃんも、計良(けいら)というんだ」と、答えた。
半世紀前。小学5年の夏。北海道・滝川の母の実家で、2度目の長期滞在となる。前の年は、旭川近くの愛別からで、祖母が往復一緒だった。しかし今回は、父の異動で札沼線の碧水にいて、バス1本なので、1人で来た。
実家は、三浦華園という老舗旅館の、真ん前にある。三橋は、公演で宿泊していた。森のような庭園があり、そこで、出会った。
実家と旅館の家族とは仲が良く、近所に住む3人のいとことも、庭園で遊ばせてくれた。
ある日、札幌の5つ違いの従兄、T兄ちゃんが来た。私は、その庭園で宿題の写生をしていたのだが、後ろで見ていた兄ちゃんが、「クレヨンを指で擦ってみな」と言った。確かに、見栄え良くなり、何枚でも描ける気がして、休みの後半は絵ばかり、描いていた。
北海道の夏休みは、内地と比べると半分位3週間余しかない。休みが終わりに近づき、最後に楽しみがある。空知川の空知大橋近くで開催される、花火大会だ。祖母と、一緒に住む叔父夫婦、いとこたちと、過ぎ行く夏を惜しむかのよう開く、大輪の華を、見上げた。
滝川での2週間の夏が終わり、碧水に戻る。絵日記には、庭園で出会った『古城』の小父ちゃんのことも書き、絵の宿題は、花火にした。指で擦って。
花火が終わると、秋がスタスタと、近づく。
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