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ラブレター【エッセイ】六〇〇字 (ふろく)三島由紀夫『恋文』

 総選挙の結果、与党、とくに自民党が大幅に議席を減らすこととなりました。独裁政治とも言えるような異常な政治構造が少しは健全化し、兼ねがね申し上げてきたような「緊張感ある与野党構造」に近づいたように見えます。自民党が野党との政策協議の場を設置することを検討しているようです。当然のこと。「何の政策もない野党」と、与党やその取り巻きの評論家がレッテルを貼っていたにすぎない。しかし、これで、ようやくスタートラインに立ったというだけ。これからが肝心です。さらに、モノ申していかなければならないと考えています。
 それは、のちほどに。で、今週はいつもの暮らしのエッセイを、ば。

 早大エクステンション「エッセイ教室」秋講座(全八課題)、第三回目のお題は、「恋文」「ラブレター」。こんなワタクシでも、何度かいただいた。が、ほとんどが「下駄箱」とか、机の中に入っていたパターン。ところが、一度だけ、まさに見た目ラブレターという封筒の手紙をもらったことがある。———そのときの話。
                ※
 その月は『平凡パンチ』を購入。いつも通り袖引出しの奥に。手紙も入れて、棚口横にテープを貼った。札幌で観た映画を、真似て。
 滝川の高校の二年三学期から、肺結核で半年、入院。退院後の自宅療養中のことである。
 外来の日、月一だけ、バスで四十分の滝川の町に出られた。帰りには書店に寄り、入院中借りて読んだ、創刊間もない「プレイボーイ」か「パンチ」を入手する。しかし、二冊では予算を超える。会計どきに雑誌の表紙を隠す小説も買うためだ。その日は、『憂国』収録の『花ざかりの森』に。そして、一冊を選ぶ決め手は、むろん、グラビアアイドル。
 自宅に戻って、『憂国』のその頁・・・を捲りながら部屋に向かうと、母に呼び止められた。
 「女の子から。誰? コノ人」と、封書を渡される。「ああ看護婦さん。貸した本のことかなあ」。二つ年上のNさんだった。慌てて手紙をバッグに入れ、後ろ手に戸を閉めた。
 これまで「下駄箱」経由は、何度か経験したが、郵便では、初めて。貸した『飼育』の感想が長々と書かれてあり、最後の最後だが、次の外来の日に逢いたい、と書いてあった。
 一か月、デートの研究を重ね、当日、勇んで出かけた。が、東京の病院に採用が決まったので受験頑張って、と、話のみで終了…。
 失意のジェームズ・ボンドが部屋に戻ると、「髪の毛」代わりのテープは、剥がれていた。

TOP画像:「新潮」(2021年5月号)に掲載された『恋文』
左頁に注目。「朝日新聞」西部版(1949年10月30日)に掲載された当時、三島由紀夫の名前の「紀」が「起」の旧字になっている。朝日新聞社の誤植らしい。

「新潮」2021年5月号表紙

(ふろく)三島由紀夫『恋文』
 三島が新進作家として歩み出していた20代半ば、『恋文』という掌篇(374字)を書いていた。それは、朝日新聞大阪本社版と西部本社版(1949年10月30日付)に「400字小説」と題した特集の一編として掲載されていた(偶然ながら、75年前の今日)。しかし、しばらく埋もれたままになっていたのだが、最近になって発見され、「新潮」(2021年5月号)に掲載された。

『恋文』
 
酒がこぼれたのでハンカチを出そうとして知らない間に入っていた封筒にさわった。
 堅人一方の藝なしザルの支店長は、この怪文書を一座にひろうして、宴会の座興に代えた。
 匿名の恋文である。拍手がおこる。
「明日五時PX前でお待ちします。X子」
 艶福家扱いをされて支店長はにやにやしている。家に帰って最愛の夫人にみせた。
 夫人は冷艶な美人である。そんなはずはないという微笑が会心の微笑に変った。
「御覧あそばせ。安子の字ですわ」——十三の長女がうなだれた。怒ることも出来ずに、「あきれた悪戯だ。おやじをからかうにも程がある。何故したんだね」」——長女はぼんやり宙を見ながら答える。「お父さまが可哀そうだから」
 夫人のまゆが一寸険しくなった。良人は気がつかない。長女は家の中のことを何もかも知っていて、父を憐れんでいたのである。父にも恋人が一人ぐらいあってもよいと思われるのだった。(374字) 

「新潮」(2021年5月号)

その経緯を説明した、朝日新聞社デジタル版の記事

(おまけ)
「最高裁判所裁判官国民審査」結果

「朝日新聞」朝刊(2024年10月29日)

私が「×」を投じた裁判官が、トップだったようだ。^^ この結果を見ると、全員に「×」をしている方もいらっしゃるような感じだね。ま、かく言うワタクシも前回までは、全員に「×」をつけていた。^^

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