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大人になったら・・・【エッセイ】

 五歳の頃だから、六十年以上も前。駄菓子屋でくじ付きガムの包みを開けていた。次々と何個も。すると、母が「M坊、なに開けているの。ハズレじゃないの」と言った。私は泣きながら、「またどうぞ、って書いてあるよぉ」と答えた。そのとき、思った。早く大人になって、たくさんガムを買いたい、と。
 小四の頃、旭川近くの愛別にいた。旭川の銘菓「旭豆」が大好きだった。今でも北海道土産として人気。香ばしく炒った大豆を、砂糖で包んだ、シンプルな味。白の粒のなかに緑がいくつか混ざっている。みんなこの緑を狙って食べる。昔の冷や麦には、緑やピンクの色つき麺が混ざっていて、子たちは、その麺を競ってすくったようなもの。母に、「これ美味しいね。大人になったら、おなか一杯食べるんだ」と、よく言っていた、ようだ。
 正月。我が家では、父と母は、お屠蘇がわりに「赤玉ポートワイン」を飲むのが、恒例だった。切子のお猪口のようなワイングラスで。二つ違いの弟と私にも、飲ませてくれた。小学に入る前からだった、と思う。これが、美味しい。喉がカアーっとしてきて、少し酔う。私は、千鳥足で部屋中を回って愛嬌を振りまく。それが面白いと、父が、もう一杯ついでくれるのだった。思った。大人になったら、たらふく飲んでやるぞと。このことが、今の呑兵衛な私につながっているの、かも。


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