[雑記]ひとりぼっちで目立たない君だったはずなのに。
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クラスでも、どうせうちハブられてるし、もう学校なんかつまんない。グループワークの日なんてマジで気まずくてたえらんないし!
ずっとクラスの隅っこじゃなくてさ、アンナとかミホみたいに明るくてさ、男子からもちやほやされてさ、スポーツもできてさ、クラスの中心でさ、、、。そんな陽キャになれるならなりたいよ。ウチ、ガチ陰キャだからさ、男子なんか相手にしてくれんないし、、、まあそれはそれで楽なんだけどさ。
「もしもボックス」ってあるじゃん。「もしも魔法の世界になったら」っていったら、魔法を使う世界になっちゃう、みたいな。まあ、ウチ、魔法は興味ないけどさ、でもさ、一日でいいからさ、もっと自分がクラスの中心にいてさ、男子にもちやほやされてさ、せっかくなら勉強もトップで、なんて姿妄想しちゃうな・・・。ウチだってたまにはもっとキラキラしてみたいんだよね。
「ねえ、ドラえもん。もしも、私がクラスの中心のパラレルワールドがあったら。」
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大学の授業の雑談で、私は、時にドイツ語愛が溢れすぎるときがあるらしい。先日、学生から「先生は英語の先生なのに、なんでドイツ語が好きなんですか?ドイツ語を学ぶ意義ってなんですか?(→要約:英語力を高めたいのにドイツ語を学んでも無意味じゃないですか?)」と聞かれた。
好き、好き、好きなもんは好き。
ドイツ語は純粋に好きだから自分自身は学んでいるし、それらを学ぶ意味なんてこうした質問がでるまでは真剣に考えていなかった。「好き」に理由付けをするのは、時に難しいなと感じる。私は英語が好きだが、なんで好きと言われても、「好き」だとしか言えないかも・・・。
ただ、今回、学生がこうしたきっかけを与えてくれたので、私(まさにゃん)にとっての「ドイツ語を学ぶ意義」とは何かを、自分自身と向かい合いながら整理していきたい。
では、(まさにゃんが思う)「英語学習者がドイツ語を学ぶ意義」について考えていきます。
①英語を見る新たな視点が得られ、これまでは思わなかったことに「なんで?」と疑問を抱けれるようになれる。
我々の多くは母語(第一言語)は日本語だと思うが、我々が英語を学ぶときは、日本語という眼鏡を通して英語を眺める。そうすると、日本語と違う点が奇妙に映る。She plays tennis.のplays、つまり「三人称単数現在のs(三単現のs)」は、そんなものは日本語にないから、変だなと思う。つまり、日本語の眼鏡をかけて英語を見ると「なんで、三人称単数の時にsを付けないといけないの?」という疑問が浮かぶ。
一方で、例えばドイツ語を学ぶと、動詞は例えば次のように変化をする。(わかりやすくするために、活用語尾を-eのような形で示すことにする。)
動詞lernen(学ぶ/英語のlearnと同語源)
ich lern-e (英語:I learn)
du lern-st (英語:you(君は) learn)
er lern-t (英語:he learn)
wir lern-en (英語:we learn)
ihr lern-t (英語:you(君たちは) learn)
sie lern-en (英語:They learn)
隣に添えてある英語と比べれば一目瞭然で、ドイツ語はすべての人称において、動詞の語尾変化をするのである。
つまり、ドイツ語の眼鏡をかけて英語を眺めると「なんで英語は三人称単数の時だけしか語尾がつかないの?」という新たな疑問が得られる。
さらには、上の表では、du(君は)もihr(君たちは)も、英語ではyouという同一の単語に翻訳されてしまう。つまり、ドイツ語の眼鏡をかけて英語を眺めると「なんで英語には2人称を表す単語がyouだけしかないの?なんで単数の時も複数の時も同じyouを使うの?」という新たな疑問が得られる。
私は大学で、「言語学のゼミ」を担当しているが、言語学を専攻することを志したゼミ生には、(必ずしもドイツ語でなくとも良いが)第二外国語を学ぶことを強く勧めたい(※最近では第二外国語が必修にされていない大学も複数ある)。
日本語と英語だけの知識で、つまり、「外国語=英語」という知識のみで、はたして深い言語学の議論ができるだろうか。
たとえばドイツ語を学び、新たに手にしたドイツ語の眼鏡をかけて、そのドイツ語の眼鏡で英語を眺めると、必ず英語に対する新たな発見がたくさん得られるはずである。つまり、ドイツ語を学ぶということは、結果として、英語の理解を深めることに繋がると思っている。
②教室の隅のキミが、こっちの世界ではキラキラ中心を飾っている。
さきほどの①の理由は、必ずしもドイツ語に限った話ではない。中国語でも韓国語でも良い。なにか英語以外の外国語を学ぶことによって、必ず英語へも良い影響を及ぼすと思う。
ここで挙げた二番目の理由は、「ドイツ語」ならではの事柄である。英語の世界では隅っこのキャラクターが、ドイツ語の世界ではブイブイと偉そうにしているのである。
英語とドイツ語は、もとをたどれば「ゲルマン祖語」という一つの言葉である。この「ゲルマン祖語」が、ある意味、東京弁・大阪弁・沖縄弁、のように方言に分かれていったのが、英語・ドイツ語・オランダ語などである。ドイツで話されているドイツ語も、海を渡ってブリテン島にたどり着きそこで定着した英語も、昔は同じ言語であった。ある種、英語とドイツ語は東京弁と大阪弁のようなものだとざっくり思っても良いかもしれません。
もしくは、ドラえもんの用語を借りるなら「ドイツ語は、英語のパラレルワールドだ」ともいえるかもしれない。お互い姿かたちも一緒だったものが、互いに違う地域に住み、ちょっとずつ形を変えていった。
つまり、英語とドイツ語を比べると、「同じ(似てる)」と感じることは多々あります。もともと同じ言葉だったのでこれは当然でしょう。
その一方で、「違う!」と感じる場面も多々あります。歴史の中で、英語が独自の発展を遂げた側面もあるでしょうし、逆にドイツ語の方が独自に変化した側面もあります。結果として、今の英語とドイツ語を比べると「違うなあ」と感じる点も多々あるのです。
ドイツ語と英語の類似点や相違点を知ることで、なにか「役に立つ」かというと、特に何の役にも立たないかもしれません。でも、私はこれがすごく面白いです。え、英語の世界では全然目立ってないのに、ドイツ語だとこんなバリバリなの?というのはなんかテンションあがるんですよね(変でしょうか笑)。
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ドイツ人との先生の、英会話ならぬ独会話のレッスンで、授業の始めに先生は、"Wie geht‘s?"(英 How are you?")と質問する。私もバリエーション持たせればよいのだが、ついついオーソドックスな"Sehr gut."(英 very good)と答えることが多い。
このsehr(ゼーヤ)というのは「とても」という意味でドイツ語では頻繁に使われる単語である。英語では「とても」といえばveryが有名だろうが、sehrの様な英単語は見たことがない。
ただ、先ほどドイツ語と英語はもともとは同じ言葉だったという話をした。つまり、ドイツ語にある単語は、当然英語にもある(もしくはかつて英語にもあった)可能性がある。
実は、今回のドイツ語sehr(とても)は、英語のsore(痛い)と同語源である。ここで寺澤芳雄(編)『英語語源辞典』を参照して、これらの語源を眺めてみよう。
『英語語源辞典』によると、soreもsehrも、ゲルマン祖語(Proto-Germanic, 略 Gmc)*sairazに由来し、それは究極にはインドヨーロッパ祖語(Proto-Indo-Enropean, 略 IE)の*sai-にさかのぼる。
ゲルマン祖語の*sairazは、古英語のsārを経て現代英語のsoreになるわけだが、意味の点に注目すると、どうやら古英語(Old English, OE)以来、英語では元来の「痛む」という語義が、現代に至るまでこの単語の中心的なものである様だ。
一方のドイツ語では「痛む」が、それが単なる「強調」のニュアンスで使われるようになり、もはや現代ドイツ語では完全に原義が薄れ、強調の「とても」という意味でもっぱら使われる。
結果として、体の体調が悪い時にしか出番のない英語のsoreとは対照的に、sehr(とても)は現代ドイツ語で聞かない日はないほど広く用いられている。
このように、英語では全く目立たなかったあの子が、ドイツ語では大活躍!、という用例はたくさん見つけることができる。
英語のdeer(シカ)と同語源のドイツ語Tier(ティーヤ)は「動物」の意味で広く使われているし、英語のbeseech(懇願する、求める)というあまり聞くこともない動詞は、ドイツ語ではbesuchen(ベズーヘン)「〜を訪れる」という超基本単語となっている(※英語でいうところのvisit的な位置付けの基本単語である)。
もともと同じ言葉でも時代を経つにつれて、その意味が変わることがある。「ドイツ語と英語で、二つの単語の意味が異なる」という現象があった場合、その要因は、「(i)ドイツ語で意味変化を遂げ、英語は当初の意味を保存している」という場合もあれば、「(ii)ドイツ語が当初の意味を保存しており、英語の方が意味変化を遂げた」という場合もあるだろう。例えば、sehr・soreは前者で、Tier•deerは後者のパターンである。
似てるけど違う、違うけど似てる。英語教師を仕事としている私にとって、英語のパラレルワールドとしてのドイツ語に、すごく面白みを感じるのである。
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えっ、ちょっとまって!カズマからラブレターもらっちゃった。え、カオルもウチのこと好きだってマジ?! えへ、なやんぢゃうな〜。ちょっとまって、なんか道ち歩いてたら、モデルのスカウトされたんですけど〜。やばすぎ!!!
もう、ウチずっとこっちの世界にいるーーーーーーーー!!!!!
(完)
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