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「放射線防護の民主化フォーラム」の挑戦

放射線防護の民主化フォーラム」が慶應義塾大学商学部・濱岡研究室の主催(共催:原子力市民委員会ほか)で11月3〜4日に開催された。


汚染地域のみ被ばく限度が20倍

事故から12年が過ぎてなお、東京電力福島第一原発事故による汚染地域では、公衆被ばく線量限度年1ミリシーベルト(mSv)の20倍が、避難や除染の基準に、採用されたままになっている。

この、いわゆる「20mSv基準」は、原発事故当時、日本政府が国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年基本勧告をもとに決めたものだ。

福島の経験反映されずに勧告発行

ICRPは2020年に、チェルノブイリや福島の事故を踏まえたとして勧告「大規模原子力事故における人と環境の放射線防護」(以後、ICRP146)を発行。その草案段階では、「福島原発事故の被害者の経験が十分反映されていない」など、日本からを含めて300通もの批判的意見が寄せられたが、大きな変更はなかった。

2030年頃に向けた勧告改訂に向けた第一歩

2023年11月6日〜9日に、ICRPは東京で総会「ICRP2023」を開催する。そこで、2030年頃に向けて改訂する予定の2007年基本勧告の検討も行う。

今回のフォーラム(正式名:「放射線防護の民主化フォーラム2023-2030」)は、そのICRP2023への“対抗イベント”だという。Zoom参加も可能で、資料も掲載された。http://www.ccnejapan.com/?p=14287 

これは、一過性のイベントではなく、福島の経験を無駄にしない「放射線防護」を実現させるための2030年に向けた取組の第一歩だという。

策定段階から市民が参加する「放射線防護」策に向けた提言づくり

開催に先立ち、濱岡豊慶應義塾大学教授らは、11月3日の記者会見で、「放射線防護の民主化に向けた提言」づくりの構想も発表している。

  • 「線量限度」までの被ばくを許容する体系から、被ばくを避ける「権利・人権」保護を前提に、被ばく自体の低減を重視した防護体系へ回帰すること。

  • 2020年勧告では、大規模疫学研究の多くがLNT(どんなに少ない被ばく線量によっても発病はありえるということを表した「直線しきい値なし」モデル)が支持されていることが明示された。2030年勧告では、100mSvをしきい値とすることにこだわる根拠がなくなったので、参考レベル(避難の目安となるレベル)も、科学的な事実に基づいて引き下げること。

  • 放射線防護策の策定段階から、ステークホルダーとして住民を参加させること。

国連、福島県、日本政府への提言も

ICRPに対して、今後の勧告改訂プロセスでは策定段階から市民を参加させることを求めるほか、以下の関係機関にも具体的な提言をおこなって行きたいという。

「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」に対しては、「2020年/2021年報告書」の記述内容が分析結果と異なるため、データと分析者を明らかにした上で、公開討論を行うこと。

甲状腺検査に関する福島県「県民健康調査」検討委員会、「甲状腺検査評価部会」)の委員福島医科大に対しては、甲状腺検査の分析方法を変えたり、市町村レベルのデータを非公開にしたりして、国内外の研究者による分析が不可能であるため、データ公開および問題等の是正が必要であること。

日本政府に対しては、ICRPによる「参考レベル(1〜20mSv)を段階的に下方へ引き下げる」考え方にすら則らず、いまだに「20mSv基準」を続けていることなど、濱岡教授らは「放射線防護の民主化フォーラム2023-2030」を皮切りに、共に学び、こうした提言を練り上げていきたいという。

【タイトル画像】

放射線防護の民主化のホームページより https://sites.google.com/view/democratize-rp


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