見出し画像

原子力規制者にとって原発事故の教訓とは?

原子力規制委員会は、2024年12月18日2度目の次期中期目標策定に向けた検討」を行った。2025年4月から5年の施策目標に関する検討だ。

1度目の検討(11月27日)で、政策評価懇談会と職員からの意見を反映し、「東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓」という言葉が加筆(赤字)された。

2024年12月18日 次期中期目標策定に向けた検討(骨子の検討)P16より

規制者にとっての1F事故の教訓とは何なのか。

そこで、定例会見で山中伸介原子力規制委員長に、規制者から見た福島第一原発事故の「教訓」とは何だったかを聞いた。

委員長の回答は「規制の継続的改善ということを怠らないというのが、まず一番大きな教訓だ。加えて、規制側の職員の能力、これを常に高めておく必要も、非常に大きな教訓の一つだ」という一般論だった。そこで以下の3点について、より具体的に聞いてみることにした(*問いの背景)

  • 米国のB.5.b(何が起きても冷却を続ける措置命令)を旧原子力安全・保安院(以後、保安院)が米国まで勉強しにいったのに、日本の規制に反映しなかったことは規制者としての教訓か。

  • IAEAにシビアアクシデント対策を勧告されたのに、保安院が日本の規制に反映しなかったことも教訓か。

  • 地震の長期評価への対応を東電が先延ばししていることを保安院が見抜けなかったことも教訓か(実際にはそれ以上の責任が国には問われているが)。

1 何が起きても冷却できる措置命令(B.5.b)を日本で反映しなかったこと

米国でB.5.bを勉強しても規制に活かさなかった保安院職員

Q:米国の原子力規制委員会が9.11のテロ事故後にB.5.b(暫定的セーフガードおよびセキュリティ代替措置命令)という航空機の衝突を含めて、何が起きても冷却を続けるようにという措置命令を出して、それが行われた。それについて原子力安全・保安院から2006年と2008年に13人の職員が行って勉強したにもかかわらず、規制には反映されなかった。これは1F事故の教訓であるというふうに捉えてよいか。
山中委員長:規制当局が新しい知見で重要な知見だという判断をしたときに、それを規制に取り込むということの重要性というのは我々十分認識しておりますし、バックフィットという強い権限も与えられておりますので、この点については新しい知見が得られれば、重要であれば、それをすぐに規制に取り入れるというのは重要な案件だというふうに思っています。

Q:1F事故前はそれができなかったということから言えば、教訓を得たというふうには言えるか。
山中委員長: そうですね、1F事故以後、バックフィット制度というもの、新知見を規制にすぐさま取り入れるという、そういう制度ができたということを考えますと、そのとおりだというふうに思います。

2024年12月18日 原子力規制委員会委員長定例会見 (問いは概要)

建替え炉の規制にB.5.bは活かされるのか?

Q: 何が起きても冷却を続けるために、B.5.bでは可搬型冷却施設の整備ということも位置付けられていると聞いた。今、三菱重工とATENA(原子力エネルギー協議会) が相談している建替え炉では、常設型の施設ということを基本にしたいと言っているようだが、これはB.5.bの教訓が生かされている議論か。
山中委員長 :対テロに対してどういう備えをするかということと、大規模損壊等につい てどういう備えをするのかというのは別に考えないといけない点、あるいは一緒に考えないといけない点だというふうには思っています。重要な論点だというふうに思っておりますし、最終的には委員会で、そういう方針でいいのかどうかというところ、 事実確認をした上で、最終確認をしたいというふうに思っております。判断するのは委員会だというふうに考えています。

2024年12月18日 原子力規制委員会委員長定例会見 (問いは概要)

使用済燃料の貯蔵の仕方にB.5.bは活かされるのか?

Q: B.5.bでは、崩壊熱の高い新しい使用済燃料と古い使用済燃料の配置を市松模様に配置するということが求められているそうだが、現在の日本の新規制基準では、そのような規定はあるか。
山中委員長:使用済燃料については冷却の状態、冷却された年数に応じて、どういう配置を取るかということについては審査の中できっちり見ております。市松模様のような配置にしているようなプラントもございますし、そうでないようなプラントもございます。全体の冷却として、きちっと冷却がされるかどうかは審査の中で確認をしておりますので、配置そのものの細かいところについては、それぞれもし御興味があれば、事務方に確かめていただければというふうに思います。

Q: 九電、日本原電、関電などがリラッキング(*)をして詰め詰めにしているというのを、規制委員会としてこれまで認めていますけれども、それはちゃんと余裕を確保した上でということだと理解すればよろしいですか。
山中委員長: はい。審査の上で、いろいろな条件で安全が確保できるということについては確認しておりますので。

2024年12月18日 原子力規制委員会委員長定例会見 (問いは概要)
(*)同じスペースにより多くの使用済燃料を貯蔵できるように詰め替えること(参考:電事連資料

2 IAEAが求めたシビアアクシデント対策

Q:  同様に2007年のIAEA(国際原子力機関)による総合規制評価で、シビアアクシデント対策が求められていたが、これについても当時の保安院は規制に反映しませんでした。これも1Fの教訓であると捉えてよろしいか。
山中委員長:保安院時代、IAEAによるレビューを受けた結果について改善をしなかったというのは、非常に大きな誤りだったというふうに思っておりますし、我々、IAEAの レビューはこれまで2回受けております。それぞれ指摘を受けた点については、全ての項目で改善をしているつもりでございます。(略)

Q: 過去の規制者による誤りについても教訓であるとすると、それを伝承するにはどういったことが考えられるか。
山中委員長現時点で1,000名ほどの職員のうちに、福島第一原子力発電所の事故に対応した職員というのは、おおむね100名程度というふうに聞いております。なかなか今後伝承だけで、我々の規制の改善ということを進めていくというのが難しくなってい く。自らがやはり力をつけて、あの原点を忘れないという取組を改めて、経験をした ことのない職員が力を合わせてやっていくという、そういう取組をこれから始めていきたいというふうに思っています。

2024年12月18日 原子力規制委員会委員長定例会見(問いは一部略)

3 2002年の地震長期評価の津波対策先延ばし

Q: 2002年の地震活動の長期評価の津波対策を東電が先延ばししていたことを、当時の保安院がやはり見抜けなかったということがありましたが、これも1F事故の教訓か。
山中委員長:もちろんそのとおりだというふうに思いますし、この点については、新しい地震津波等の知見があれば、すぐさま我々から指導する場合もありますし、命令をかける場合もありますし、事業者独自の取組を聴取する場合もあります。これはもうケースバイケースでございますけれども、その点については福島第一原子力発電所のようなことが起きないように、きちっと取り組んでいきたいというふうに思っております。

2024年12月18日 原子力規制委員会委員長定例会見(問いは一部略)

*問いの背景

こうした問いの背景については以下の2つがある。

日本に暮らす私たちが、福島第一原発事故から学んだ教訓とはなんなのか?
ここで挙げた具体的な失敗、すなわち、国内外で得られていた知見を、事業者も国も取り入れなかったことは、果たしてどれだけきちんと社会で「教訓」として共有されてきたのか? そう考えると、私たちはまったく「教訓」など学んでおらず、同じ失敗を、また、犯そうとしているのではないかと、考える。

原子力規制委員会会見動画(関係部分の頭出し/2024年12月18日)

【タイトル画像】

筆者作成



いいなと思ったら応援しよう!