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GX推進法案は原発アリ地獄

衆議院経済産業委員会GX推進法案の審議が始まっているが、今日は、それと原子力基本法一部改正案が組み合わさるとどうなるのかに焦点を当てて整理する。

GX基本方針+GX推進法+GX脱炭素電源法=?

岸田内閣はGX実現に向けた基本方針を閣議決定すると共に、以下の法案を提出している。
脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(=GX推進法案)
脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(=GX脱炭素電源推進法案)

結論をいえば、これら全てが成立した時に「GX推進法」は「原子力推進法」になる。「になる」というのは、先に審議される「GX推進法」だけでは「原子力推進法」にはならないからだ。

「GX推進法案」と「GX脱炭素電源推進法案」を組み合わせると

略称「GX脱炭素電源推進法案」には5つ法律の一部改正案が束ねられている。
・原子力基本法
・原子炉等規制法(炉規法)
・電気事業法
・再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)
・原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)

ここでは、まだ審議が始まっていないこの束ね法案「GX脱炭素電源推進法案」のうち「原子力基本法」と、衆議院経済産業委員会で審議が始まったGX推進法案の関係だけに焦点を当てる。

原子力基本法案の仕掛け

原子力基本法改正案の目的には、今回、初めて「温暖化防止」(第1条)が加わる。また国の責務(第2条の2)として「原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用することによる電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源」として利用を促進することが加わる。

わかりにくい条文だが、簡単に言えば、原発を温暖化防止のために、脱炭素に役立つ非化石エネルギー源として国が利用を促進しますよ、という改正だ。さらに縮めて言えば、原発は脱炭素電源だと宣言する法律案だ。

GX推進法案:「機構」への丸投げの仕掛け

GX推進法案は、「脱炭素成長型経済構造移行」に役立つ事業活動を支援する「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」(GX推進機構)という組織をつくるための法案。「雑」かつ「緻密」な法律だ。

  • 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)を策定(第6条)

  • GX経済移行債を発行(既報)(第7条)

  • カーボンプライシング(化石燃料賦課金・特定事業者負担金)は、法律施行後2年以内に制度設計(第8〜19条、附則第11条)

  • GX推進機構の設立(第18条、第20〜第72条)

GX推進法案の雑なところ

雑なところは上記の第6条〜19条。

第6条の「GX推進戦略」は既に閣議決定された「GX基本方針」と矛盾するはずがない。原発回帰3点セット(廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替え、運転期間延長、再稼働推進)は必ず入るだろう。

第7条の「GX経済移行債」という国債発行の財源は、炭素を排出する企業から賦課金などを取りますと法律案「本文」にはある。しかし、詳細な制度設計は、法律の施行後2年以内に考えると「附則」にある。

GX推進法の緻密なところ、そして隠蔽

緻密なのは、第18条と第20〜第72条。

これら条文で、GX推進機構に全てを丸投げすることになる。GX経済移行債もカーボンプライシングも機構が牛耳る。それだけではなく、「脱炭素成長型経済構造移行推進機構債」という「GX経済移行債」とは違う債権まで発行できる。

57ページの法律案を読んでいて、驚愕した。なぜなら、このGX推進機構が発行する「機構債」については「概要」にも、驚いたことに「要綱」にも書かれておらず、「法律案」にしか書かれていない。

仕事の荒い(忙しい)国会議員は「法律案」を読まないことを官僚は知っているので、国民に負担をかける重要な部分を、法律案の中だけに隠したのだとも言える。

出典:経産省 GX推進法 35〜36頁

つまり

後から国会審議されることになる原子力基本法一部改正を含む複雑怪奇な束ね法案GX脱炭素電源推進法案と合わせて、このGX推進法案が成立するとどうなるか。

後々策定されるGX推進戦略」には原発回帰3点セットを後押しする戦略が書き込まれる。そうでなくても、原子力基本法で、脱炭素エネルギーである原発を推進する責務が国には生じる(だから原子力推進が戦略に書き込まる下地が生まれる)。すると、「GX経済移行債」発行で得られる歳入は、国がGX推進戦略や原子力基本法に基づいて、原発という脱炭素電源に投じる責務があることになる。

そして、その制度設計も運用も、経産大臣が認可するGX推進機構にお任せあれだ。

実は既に「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」第2条の2などで、原発は「非化石エネルギー」であることになっているので、今回の原子力基本法改正はそれを上書きしたようなものだ。

足抜けしにくいヤクザな世界というか、原子力推進をより強固なものに固定化するというか、知らずに飛び込んで、脱出できなくなる蜘蛛の巣やアリ地獄みたいだというべきか、そんな法律案の組み合わせが、今回のGX推進法と原子力基本法一部改正を含む束法案「GX脱炭素電源法案」だ。

念を押すが、GX推進法には「原発」という言葉も「原子力」という言葉も出てこない。出てくるのは「脱炭素」という言葉であり、それはタイトルや目次も含めて、121回も出てくる。

【タイトル写真】
経産省「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました(2023年2月10日)サイトから筆者作成

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