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長崎県「石木ダム」再評価で再評価すべきこと

重たい仕事に昨日までかかりきりで、今日になってしまった。今日は地味な取材ノートとしては珍しく、ダム事業の話。

長崎県は2024年8月2日、「長崎県公共事業評価監視委員会」を開く。「効果的かつ効率的な行政の推進」を「県民の視点に立って」行うことが目的だが、開催案内を見てびっくり。石木ダムについての審議時間はたった20分(13:00~13:20)だ(と思ったら8月3日訂正。「20分」は受付時間で審議は2時間半行われたと、傍聴に行かれた方からお知らせ頂きました。訂正してお詫びします。)。


事業費は1.5倍、工期は7年延長?

長崎県政策評価条例では、公共事業評価は「事業の効率化及び重点化を図る」ものだとされている。しかし、長崎新聞「石木ダム事業費420億円へ 長崎県が検討 完成時期は2032年度末までの方向」(7月30日)によれば、事業費を1.5倍、工期を7年延長することが諮問される。お墨付きを与える場となるのか。

長崎県は「専門家(河川工学、水資源、環境等)」を任命せず

名ばかりの再評価にならないよう、長崎県民有志が「石木ダム事業の公正な再評価を求める市民の会」を立ち上げ、6月10日、長崎県に
・水道事業と併せて審議すること
・ダム事業に関する専門家(河川工学、水資源、環境等)を交えて審議すること
を要請した。

河川法の目的である「治水、利水、環境」の観点から、事業の必要性と妥当性を見極めるには当然の要求だ。

しかし、長崎県は「個別事業の特性に応じた専門家を委員として任命することは考えておりません」と拒否。(石木川まもり隊が回答書を公開)その結果、委員には、県が重視しているはずの治水と利水の専門家すらいない。

「市民による石木ダム再評価監視委員会」委員の今本博健氏の作成資料
石木ダムの治水面での必要性の検証」より抜粋

「市民による石木ダム再評価監視委員会」

そこで「石木ダム事業の公正な再評価を求める市民の会」は諦めず、「市民による石木ダム再評価監視委員会」の開催を決めた。その第1回が7月15日に行われた。オンライン視聴したので、その要点をかいつまむ。

今本博健 京都大学名誉教授(河川工学、防災工学、実験水理学)は

  • ダムはどれだけ水位を下げられるかを計算して必要性の根拠が示される。計算のもととなる粗度係数は、河底などの粒子が粗ければ流れにくくなり水位がより高く、粒子が小さければスムースに流れ水位が低くなることを表す係数だ。

  • 河川改修を行えば粗度係数が下がる。

  • ところが、長崎県は最新のデータを使っていない。県の水位計算は、1990年7月洪水の痕跡で検証した粗度係数を使った計算だ。その後、行った河川改修により、粗度係数の減少し、河川整備計画で定めた水位(計画高水位)をダムなしでクリアしている可能性もあるのに、長崎県はそれを行ってない。

  • 現在、石木ダムの必要性は不明である。

  • しかし、もはや「計画高水位」を決めてダムで水位を下げるという「定量治水」の(=溢れたら「想定外だった」という)考え方は捨て去り、どんな洪水が来ようとも命を守る「非定量治水」へと転換すべきだ。

と、河川工学者としての検証結果と提案を示し、「長崎県公共事業評価監視委員会」が「継続」というのであれば、私達と議論してほしい。学者として専門家としての命懸けで議論してほしい。私は石木ダムは要らないと思っています」と結んだ。

今本博健氏作成資料「石木ダムの治水面での必要性の検証」より抜粋

宮本 博司 元国土交通省防災課長/元近畿地方整備局河川部長は

  • 県は、100年に1度の大雨(400mm)が降ったときの計画高水流量を石木ダムで1400m3/秒から1130 m3/秒に下げるという考え方。しかし、400mmを超えてしまえば機能しないのがダムだ。

以下、宮本 博司資料より一部を抜粋
  • 300mmならダムがなくても安全。想定外の洪水から命は守れないのがダムだ。

問題は、せめてこの限定的な100年に一度の大雨なら、石木ダムは本当に有効なのかだが、宮本氏は次々と、そもそもこの400mmという想定そのものがウソに基づいたものであることを含め、ダムの必要性の根拠を次々と論破していった。

  • 必要性の根拠の根本にあるのが雨量データだ。通常、流域内で雨の降り方は異なるので、複数の流域内の観測データで流域平均雨量を出すものだ。

石木ダム予定地の川棚川流域のデータが使われていなかった

  • ところが、長崎県は、石木ダムを計画している川棚川流域の複数のデータではなく、佐世保の雨量データの0.94倍という計算をしているという(以下の地図のように、「佐世保」と「川棚川流域」(茶色の囲み)は離れている。

  • 県に「佐世保」と「川棚川流域」の雨量の相関を計算したデータを求めて出てきたのが、150mm以上の雨を超えるとまったく相関を示せないデータだった。

「雨量計がなかったから」佐世保の雨量データを使ったはウソ

  • なぜこんな無理を通すのかと言えば、県は裁判で、昭和22年から昭和60年までは、川棚川流域に雨量計が存在しなかったからだと説明していた。

  • ところが、これはウソだ。県の資料(以下)で川棚川流域に雨量データは存在していた。裁判でウソをついた。

  • ダムの治水に関する再評価は、1)便益費用分析(B/C)を行って1を上回る、2)ダム以外の対策と比べてダムが一番有効だとすれば「継続」となる。そのB/C計算をする上でのスタート地点である「100年に1度の大雨」の計算にウソがあったことになる。

大きな流域と小さな流域の流量ピークは一致しないはずが

  • さて、県は、400mmの雨が降ると、石木ダム(地図の台形)が無ければ基準地点の山道橋(地図の赤丸)で、1400m 3/秒が流れて氾濫し、ダムが有れば1130m 3/秒しか流れず氾濫しないということを根拠に石木ダムを計画している。

  • しかし、流出計算をした結果として出してきたグラフを見ると、なんと、石木ダムの地点における流量のピークが山道橋(下流)とピッタリ13時で一致している。これはありえない。

  • 流域面積の8分の1に過ぎない流域に降った雨が石木ダムを通過する時間と、8割の流域に降った雨がズレて、石木ダム地点のピークは2時間早いとすれば、山道橋(地図の赤丸)では、ダムがなくても1400m 3/秒が流れない。

堤防整備は30年に1度、ダムは100年に1度の計画では何が起きるか

  • 極めつけは、河川整備計画自体は30年に1度の雨に対応するための堤防整備を行なっているので、それを越えれば上流で溢れてしまい、実際には100年に1度の雨は山道橋まで流れてこないことだ。

つまり、一番有効だという石木ダムの治水計画はまったく信用できないというのが、宮本氏の評価だ。

続いて、以下のような検証が行われたが、こちらでは割愛するが、動画全体や資料全体を石木川をまもり隊がブログで公開しているので、リンクを貼らせていただく。

富樫幸一委員:水需要予測は捏造?慣行水利権は安定水源!
富樫・利水説明資料20240715

宮本委員:ここはダムの適地ではない!
宮本・地質説明資料20240715

つる詳子委員:生物保全に対する長崎県の石木は半世紀前のまま!
つる・環境説明資料20240715

宮本委員:費用対効果の算出は捏造?
宮本・全体説明資料20240715

【タイトル画像】

宮本 博司資料より抜粋。

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