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ALPS処理水を薄める水周辺の海底土の放射性物質の話

2024年3月28日の東電会見(動画資料)に関する取材ノートの続き。

ALPS処理水は海水で100倍以上に希釈して「海洋放出」を行う。実施計画(東電が申請、原子力規制委員会が認可)でそう定めている。今日は、その希釈のための海水を取水する場所の海底土の汚染具合を示すセシウム濃度のグラフに関する話。


ALPS処理水を薄める海水を取水する場所、開渠

それがどんな場所かは下図。右側の「全体図」の赤で囲ったところ。黄色に塗られた「5,6号機取水路開渠堆砂対策堤」の上に、見えにくいが透けた写真のテトラポットの上に「北防波堤」と書いてある。

この「北防波堤」に囲まれた「開渠(かいきょ)」が、ALPS処理水を薄める海水を取水しているところだ。具体的には、下図中央下に「5号機取水口」とあるがそこから取水して、薄めるための施設「放水立坑」につながる。その「5号機取水口」の上の黄点「D」。今日はそこの海底土セシウム濃度の話だ。

廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議2024年3月28日 
資料「ALPS処理水海洋放出の状況についてP15

「5号機取水口」前の海底土のセシウム濃度

会見で出てきたグラフを見ると、急激な変化が「(D)5号機取水口前」(赤丸)にある。グラフの縦軸がセシウム137の濃度が対数で示してある。対数グラフとはざっくり言えば、急激に増加する値を1枚に収めようとするときに使うグラフ。縦軸が「10→100→1,000→10,000→100,000」と10倍づつ増える。

廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議2024年3月28日 
資料「ALPS処理水海洋放出の状況についてP14

(D)5号機取水口前」を見ると、最初は「1,000」Bq/kg超だが、2022年12月以降に「100,000」Bq/kg超と100倍になっている。

会見では福島第一廃炉推進カンパニー・ALPS処理水対策責任者の松本純一さんが「有意な変動は見られない」と説明。資料には「有意な変動は見られなかったが、2023年1月以降、高い値を示しており、堆砂撤去の完了に伴い、数値の低下を確認」とあった。

松本氏「堆砂を撤去すると放射能が下がる」

よく理解できず、更なる説明を求めると、「まず15ページの写真をご覧ください。青い矢印の上側に砂が溜まっています。波等で持ち込まれる砂なので、計画的に堆砂撤去という形で除去していきます。もちろんこの堆砂の放射能分析しておりますし、堆砂の撤去を踏まえると放射能が下がるということがわかっているので、これを今後、計画的に実施するという趣旨です」という。

Q:撤去は何回かやっているのでしたでしょうか?
A:事故後ですか? Q:はい。
A:確認させてください。

というわけで今週になって回答をもらった。
結論から言うと、事故後、2回の浚渫・撤去をおこなっている。
1回目の撤去は海洋放出開始前。2022年11月〜2023年6月
2回目の撤去は海洋放出開始後。2023年10月〜2023年12月
浚渫
とは底を掘り下げること、撤去とは取り除いた土砂を土捨て場など陸に上げることだという。

ここで何をやっているのか

そもそも、東電がここで何をやっているのかだが、開渠外から取水する反対側に「仕切堤」(捨石傾斜堤+シート)を作る、というもの。汚染を開渠に閉じ込めて堆砂を撤去しようという考えだという。

グラフの読み方:東電広報の解説

そして、グラフの読み方だが、東電広報によれば、
起点の1,000Bq/kg超「2017年〜2021年7月までの最大値」
2022年8月頃、仕切堤工事の準備中に5,000Bq/kg超に上昇。
2022年11月、1回目の堆砂撤去開始で1万Bq/kg超に上昇。
2023年1月、仕切堤工事開始後に10万Bq/kg超に上昇。
(1回目の堆砂撤去2022年11月〜2023年6月)
2023年2月〜6月頃までに仕切堤構築完了と堆砂撤去で
1万Bq/kg超から5万Bq/kgから一桁下がった。
(海洋放出1回目は2023年8月〜2023年9月)
2023年8月から海洋放出が始まった頃に1,000Bq/kg以下。
海洋放出が終わった2023年9月に5,000Bq/kg超にまた上昇。
(1回目の堆砂撤去2023年10月〜12月)
そのあたりから現在まで1,000Bq/kg以上で推移している。
グラフを以下に再掲しておく。

廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議2024年3月28日 
資料「ALPS処理水海洋放出の状況について」P14

松本さんは「堆砂の撤去を踏まえると放射能が下がる」と述べたが、グラフをそのまま読めば、仕切堤工事や堆砂撤去をすると、一時的にだが、海底土の汚染レベルは、いとも簡単に指定廃棄物のレベル(8,000 Bq/kg超)を遥かに超え、2回の撤去が完了しても、結局、2021年7月までの最高値近くで推移している。

これを「放射能が下がる」と言えるのか。
また、10万Bq/kgを超えた海底土は、どこに撤去されたのか?

今日はそれを問いかけるところまでで終わりたいと思う。

【タイトル図】

廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議2024年3月28日 
資料「ALPS処理水海洋放出の状況について」P14 より


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