「仮設タンク」から「仮設ホース」が外れて福島第一原発の作業員が被ばく:44億Bq /L廃液
訂正&統一させていただきます(お詫び)「ℓ」→「L」、「43億7600Bq/ℓ」→
「43億7600万Bq/L」(2023.11.2修正)
2023年10月26日。毎月最終木曜に開かれる東京電力の「福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップの進捗状況」会見。17時45分開始。21時半近くになり、ようやく問題の本質が見えてきた。
2週間入院で被ばくを経過観察
東京電力が東芝エネルギーシステムズに受注させた増設ALPSにおける作業で、1次下請け(*)の作業員たちが43億7600Bq/Lの汚染水の飛散で被ばくした。10月25日10:40頃だ。(*)事故から127時間後に「1次請ではなく3次請3社」だったと東電が訂正した。
Aさん(20代男性)は
・全身が汚染され、最大の測定値が検出されたのは下腹部。
・タイベック(防護服)を2枚重ね、カッパは着ていなかった。
・760 Bq/cm2超(100kcpmを超えて測定器が振り切れた)の汚染。
・福島県立医大に搬送。除染後も132 Bq/cm2(*)にしか下がらなかった。
・γ線で0.11mSv、β線で6.6 mSv外部被ばく。
・2週間の入院で、除染を繰り返しつつ、経過観察される。
・α線の被ばくはなかったと東電は発表したが、根拠を示せていない。
Bさん(40代男性)は
・タイベック(防護服)を2枚重ね、飛散に気づき、拭き取る前にカッパ着用。
・下半身と両手が22.8 Bq/cm2(3.5kcpm)汚染された。
・福島県立医大に搬送。除染後も21Bq/cm2(*)にしか下がらなかった。
・現時点までにγ線0.07mSv、β線で1.6 mSv外部被ばく。
・2週間の入院で、除染を繰り返しつつ、経過観察される。
・α線の被ばくはなかったと東電は発表したが、根拠を示せていない。
(*)放射線管理区域からの退出基準は4Bq/cm2
他3人は以下の通り。
「被ばくしたかが重要」だけど
上記の太字(「43億7600Bq/L」、「760 Bq/cm2」、「22.8 Bq/cm2」など)の数字は、資料のどこにもなく、記者質問で明らかにされた数字。
(汚染源情報を)資料に記載すべきではないかと問うと、「作業員さんがどれだけ被ばくしたのかが重要だと考えている」と福島第一廃炉推進カンパニー・広報担当の高原憲一氏は言う。
遅い、小出し、根拠なし
ごもっともだが、作業員が着けていた「リングバッチ」(手指につける線量計)は、α線を測れるタイプのリングバッチだったかとのおしどりマコさんの質問にも答えられず、根拠なくα線の汚染はないと強弁する姿勢は、「作業員さんがどれだけ被ばくしかのかが重要だ」と主張とは矛盾した。
事件が起きたのは10月25日10:40頃。報道関係者向けに東電がメール配信で知らせたのは10月25日20:20。会見は翌日17:45。
情報収集にある程度時間がかかり、小出しなのはやむを得ないとしても、根拠のない情報も混じっていた。飛散で被った量も、最初は100mLと述べていたが、会見中に、記者に「タイベックを抜けて皮膚に浸透したのに本当に100mLか」と追及されて「撤回」した。Aさんがどれだけ汚染水を被ったかは不明になった。(2023年10月31日加筆:東電は10月30日に「100mL」を「数L」に訂正した。詳細はこちら)
汚染源は「仮設ホース」から飛び散った
被ばくの汚染源は、以前こちらで見せた「前処理」(汚染水から多核種の放射性物質を除去する前に鉄、コバルト、マンガン、カルシウム、マグネシウムを予め除去)しただけの、東電が今回「洗浄廃液」と呼ぶもの。
「洗浄廃液」とは、東電の説明では、前処理で配管内に溜まる炭酸塩を硝酸で洗浄して出てくる廃液のことだ。多核種の放射性物質が除去できていない「汚染水」が含まれているから43億7600万Bq/Lと高濃度なのだ。
東電が考えた原因と対策
汚染の原因は、その「洗浄廃液」を仮設ホースで仮設タンクに移送する際に、ホースがタンクから飛び出して、「洗浄廃液」が飛散してしまったこと。被ばくした原因は、作業員が防水カッパを着る(着せる)べきところで着ていなかったからだ、東電は説明した。
そのため対策は、ホースが飛び出さないように、ホースを縛って固定する位置を計画し、作業前に確認。汚染する恐れがある場合はカッパを着る、というものだ。
原始的な「仮設ホース」と「仮設タンク」
しかし、ちょっと待て。「現場の写真です」と東電からUSBを通じて会見開始前に提供された写真を見ると、「仮設ホース」と「仮設タンク」と思しきものが映っている。
緑色のタンク(ポリタンクか?)の黄色の入り口に、オレンジ色のホースがぶっ込んである。よくよく見ると、手前の鉄棒に、黒い蓋が白いビニールテープと思しきものが貼り付けていないか。そして緑のタンクの前に垂れ下がるオレンジ色の布状の物はなんだろうか。
このオレンジが「固縛」位置が不適切だったので外れたという「仮設ホース」か?緑が「洗浄廃液」を入れるという「仮設タンク」なのか? まさか「固縛」というのは白い紐のことか?
化学反応でガスが発生した勢いでホース外れ
こんなもの、何かの拍子にホースが外れて当たり前ではないか。今回は炭酸塩と硝酸が反応してガスが発生した勢いで飛び出したのだという。
この洗浄作業を、3系統ある増設ALPSで年1回、行うのだという。計3回だ。
会見者は現場写真を持たずに会見
この写真について説明を求めると、福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏もALPS処理水対策責任者の松本純一氏も含め、会見者4人とも、キョロキョロして、手元に写真がないので説明ができないという。驚いた。
この日の会見(動画はやがて消えると思うがこちら)は3時間半も続いたが、記者の手は上がり続け、2ラウンド目は1問ずつと言われて、「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画」とこの洗浄作業の関係について、
1. 洗浄作業は実施計画に記載されているのか。
2. 年3回の洗浄作業で出てきた洗浄廃液はどれぐらいの量があるのか。
3. 洗浄廃液はどう処理するのか。
と3つを盛り込んで聞いた。
出てきた「洗浄廃液」はどう処理されるのか
高原氏は実施計画には記載していない。小野氏からこれは東電が自主的にやっているものだと回答。廃液の総量や処理方法については、後日回答となった。
しかし、作業員にこんな被ばくリスクのある作業をこんなお粗末なタンクとホースで年に3回もやらせておいて、カッパを着ていなかったからだとか、ホースを縛った位置が悪かったから外れたからだと、言って済ませるべきものか。もやもやしながら電車でつぶやいていると、
「考えてみれば、壊れた原発の隣に非常時対応で作られた施設が、年に一度のメンテナンスのような稀な機会までも含めて、人間を一切汚染水に近づけることなく運用できるように設計された代物だとはちょっと期待し難い。危ないが、運用に細心の注意を払うこと、しかないのでは」 https://x.com/micro_dokusho/status/1717548648664580268?s=20
というコメントをいただき、確かに一理あると思った。しかし、細心の注意すら、汚染水が衆人環視されている中で、払われていない。事故原発の後始末は、こんなにも可視化されない作業だらけで、リスクにさらされるのは多重下請け構造でピンハネされて安く働かされる人々なのだ・・・。
東電は、恒久的な止水対策すら先延ばしして、タンク1000基以上に増えていくタンクの汚染水をALPSで処理しながら、前処理で詰まったフィルターの出口配管を洗浄する作業を、こんな形で、何年も何十年も続けるのか。しかも、実施計画にすら、その危険な作業を記載することなく?
そう思って今朝、実施計画を改めて見ていたら、「2.16.2増設多核種除去設備」の「前処理設備」のところに「炭酸塩沈殿処理による生成物は,クロスフローフィルタまたは沈殿槽により濃縮し,高性能容器に排出する」と書いてある。
東電に追加で「洗浄作業」とこの記述の関係を尋ねている。回答には時間がかかるという。「生成物は」「高性能容器に排出する」ってまさか・・・と思いながら待つ。
【タイトル写真】
2023年10月26日東京電力「福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップの進捗状況」会見にて撮影。
筆者のパソコン画面に開いているのは、東電広報から提供されたばかりの汚染が起きた現場写真。「仮設タンク」と「仮設ホース」の写真。
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