5月3日のノートの続き。高圧線(6900ボルト)をドリルで損傷して、実施計画で定めた運転上の制限(LCO)を逸脱し、作業員が真皮(しんぴ)に達する火傷を負った事件。4月24日に発生、翌25日(木)の中長期ロードマップ会見で「福島第一原子力発電所所内電源A系停止と負傷者発生について」として説明があったところまでは書いた。
伴委員「また」→「何やってんだ」→「頭抱えました」
翌26日の特定原子力施設監視・評価検討会(以後、1F検討会)では、次々とトラブルが続くことに、伴信彦委員が苛立ちをぶつけた、こう述べた。
(私は「被ばく事件」を「体表面汚染事案」などと言い換え、「軽微な実施計画違反」と済ませてきた原子力規制委員会(2024年2月21日「令和5年度第3四半期の原子力規制検査等の結果」P3)の責任も重いと思うが、それはともかく)
小野プレジデント「作業手順の中に本当に不備があるのかないのか」
「どうしたらいいですか」と伴委員に問われた「小野さん」(東京電力福島第一廃炉推進カンパニープレジデント)はこう応じた。
この後に次の議題に伴委員が移ろうとして初めて、それまで空気を読んでいたのか発言しないでいた発言者らが、厳しめの意見を述べた。
リスクを考えていない組織文化の問題ではないか?
「作業手順の中に本当に不備があるのかないのか」という小野氏の発言を聞いて私が思うのは、小野氏は、今起きている問題の解が「作業手順」ではないことに、無意識レベルで気づいているのではないかということ。たとえば「リスクを考えることを習慣づけていない」、「考えさせない」、「上に言われたことしかさせない」組織文化の問題があるのではないか。
作業の点検で問題は解決するのか?
東京電力は5月7日の会見(動画)で1Fにおける全ての作用点検を実施するとリリースしたが、決定したのは5月1日だという。時系列からすれば、1F検討会で小野氏が言及したことを実行に移すための「作業点検」だということになる。
点検作業の対象は約800あると答えた。しかし、9日の会見(動画)でも、点検結果を誰が確認してよしとするのか、見直しそのものが流れ作業になって意味はあるのかなど、点検の実効性を問う質問が相次いだ。東電を監視してきた者からすれば、そのリスク管理の甘さが手順書の点検ぐらいで変わるとは思えないのだ。
実際、原子力規制委員会で取り上げられる「事案」以外にも事故は起きている。4月22日朝には、2号機の燃料取り出し用構台で下請作業員が鉄骨に指を挟む事件が起きた。救急車を9時31分に要請、なぜか病院到着は午後2時27分(2024年4月22日日報)。「右中指末節骨開放骨折」と診断されたと発表されたのは26日だ。
原子力規制委「LCO逸脱2回」、火傷には言及なし
さて、LCO逸脱と作業員負傷が同時に起きた4月24日の事件については、原子力規制委員会は5月8日に、トピックスの中で山中委員長に促されて、軽く報告された(以下、該当箇所頭出し)。山口・事故対処室長の報告を抜粋しておく。
この説明に対して行われたやりとりの要点をかいつまむ。
電源喪失については問題が明確になった。一方で、この日報告があったIAEAのレビューとLCO逸脱の関係に関してや、「感電」(既報)はおろか資料にある「右頬部・右前腕2度熱傷」という言葉の言及すらなかった。そのため、これらの点を含めて会見では聞くことにした。
山中委員長の「どういう原因で熱傷が生じたのかということについては、今後報告を受けて判断をしたい」「感電によるものなのかどうかというのは、私自身判断できない」の回答を聞いて、翌日の5月9日の東京電力会見で、「右頬部・右前腕2度熱傷」の写真や損傷した高圧線の写真を撮ったかを聞きに行くことにした。
【タイトル図】
原子力規制委員会 2024年5月8日 資料 原子力施設等におけるトピックス(令和6年4月22日~5月5日) P6より