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汚染土壌:最終処分も再利用も困難

5月9日、環境省の会議室で、東京電力の福島第一原発事故で汚染された除去土壌(以下、汚染土壌)を再利用する実証事業の中止を求める署名が、西村明宏環境大臣宛で提出された。

環境大臣宛の2875筆の署名

署名を集約したのは「埼玉西部・土と水と空気を守る会」(以下、守る会)。大臣に代わって署名を受け取ったのは、環境省環境再生・資源循環局の環境再生施設整備担当参事官室の宮田真幸補佐ら3名。

環境大臣への署名を手渡す「埼玉西部・土と水と空気を守る会」(5月9日、環境省会議室で筆者撮影)

署名本文に記された中止を求める理由は、実証事業の場として検討されている環境調査研修所は、保育所に隣接していること、500メートル以内に所沢市立の小中学校やリハビリセンターや病院があること、汚染土壌の濃度や量を含め実施内容などが心配で、子どもたちへの影響が懸念されることなどだ。

自治会も反対、所沢市議会も決議

署名への見解を求められた補佐らは、「説明して理解を得ていく。直ちに事業を進めるわけではない」と応答。

これには参加住民から「中止を表明する段階ではないのか」、「昨年12月の説明会で理解した住民はいない。自治会も反対、市議会も(『住民合意のない除去土壌再生利用実証事業は認めない』と)決議した。説明して理解を得るではなく、方針転換していただきたい」、「8000ベクレル/kgは納得がいかない」と口々に反論が飛び出した。しかし、補佐らは一貫して「説明をしてご理解を得る」を繰り返すばかり。

「ご説明」と「ご理解」の一点ばり

同席した城下のり子埼玉県議会議員が、「所沢市議会が決議しただけではなく、市長も住民の合意なく受け入れられないと市議会で答弁した。判断すべき時ではないのか」と促しても「ご説明」と「ご理解」の一点ばり。

国際環境NGO FoEジャパン事務局長の満田夏花さんも「どうしたらいいんだろう」と絶句し、「引き際を考えないと。実証事業への反対理由はいろいろあると思うが、8000ベクレル/kgをまるで安全基準のようにして公共事業に使うという全体像に納得いかないのではないか」と問いかけた。

また、実証事業のもう一つの候補地となった新宿から参加したメンバーが「再生利用ではなく、東京ドーム11杯分の最終処分場をどうするかと発想を転換すべきではないか」と問うが、補佐らは「(元々)法律では30年以内に県外最終処分と書かれており、再生利用はそれとセットだ」と強弁。「4分の3が8000ベクレル/kg以下となる。それを再生利用し、減衰しても下回らないものを最終処分にする」と説明した。

「非道な取り組みを行政がやっていいわけがない」

このやりとりに耳を傾け続けた守る会の前田俊宣さんは、「聞いていると、公共事業が汚染土の最終処分だと言っているようにしか聞こえない。産業廃棄物の業者は最終処分量をあらゆる方法で減らそうとするが、これは『再生利用』の名前を借りた事実上の『最終処分』じゃないのか。このような非道な取り組みを行政がやっていいわけがない。こんな言い方をして申し訳ないが、タチの悪い詐欺だ」と残念そうにぶつけた。

質問は尽きず、前回の申し入れ(既報)以来、得られていない回答も含め、署名提出を取り持った福島瑞穂参議院議員の事務所経由で、文書で得ることになった。

終了後、筆者は補佐に「一つだけ聞かせてください」とICレコーダーを向けた。

Q法律では30年以内に県外最終処分と定めたじゃないですか。しかし、最終処分場を見つけるのは困難だから、8000ベクレル/kg以下のものは再生利用する(と最終処分量が減る)と戦略で定めた。しかし、最終処分場を見つけるのも困難だが、再生利用の場所を見つけるのも同様に困難だということがこの数年で分かったと思うが、どうお考えでしょうか。難航していると?
補佐:「難航している」というのをどう捉えるかということもあるが、12月にご説明をして、こういった形で一つ一つご説明していく必要があると認識しているところです。
Q:法律で定めた県外最終処分と同様、戦略で定めた再生利用も困難だとなった時はどうされるということは考えておられますか。
補佐:最終処分に向けて再生利用も鍵となってくると思うので合わせて進める。

国会が定めた法律が運用困難ならば、法改正すべき。ところが、環境省は自ら単独で定めた「戦略」で乗り切ろうとして失敗。そのツケを住民が無用に払わされている構図だ。是正できるのは、内閣または国会だが・・・。俯瞰すると、機能不全があちこち起きている最中で、暗礁に乗り上げているとしか言いようがない。

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【タイトル写真】

環境大臣宛の2875筆の署名(5月9日、環境省会議室で筆者撮影)

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