高圧線をドリルで損傷、作業員は感電、ALPS水放出は停止:東電の指示通り
2024年4月24日10時43分。東京電力の福島第一原発で、高圧線を引き直す作業で「コンクリート鋪装を剥がして」と指示された通りにドリルでコンクリートを掘削していたところ、管路を貫き、中に敷設されていた高圧線に接触、作業員が感電。損傷した高圧線は、免震重要棟やALPSで処理した汚染水を希釈・放出する設備へとつながっており、電源を喪失、希釈・放出設備は自ずと停止した。
東電は「右頬部・右前腕2度熱傷」と記載し、「感電ではない」「火の玉」だ「火花」だと否定。しかし、それは事故を小さくみせようとするだけではなく、作業員の命を軽視する姿勢に他ならない。
電源喪失 実施計画の逸脱
これは、実施計画第1編第29条で定められた運転上の制限「免震重要棟の維持に必要な交流高圧電源母線が受電されていること」を逸脱した状態だ。午後2時43分に別の電源を確立した。資料に小さな文字で書いてある。
掘削場所は下図の通り。翌日25日の会見では、配布資料を元に質問が集中(動画はここ)。まとめると以下の通りだ。
指示通りにドリルでコンクリートを掘削
2次請作業員が手順書で指示されたのは、埋設管路の補修のために、「コンクリート鋪装を剥がして」ということ。指示通りにコンクリートをドリルで掘削していたころ、管路を突き抜け、中の高圧線(6900ボルト)を傷つけた。
上図のように、小さく「剥がし治具」と書いてあるが、聞けば「T字型のハンドブレーカー」だと答える。道路の工事現場などでみかける両手・全身をブルブル震わせながら、ガガガと音を立てるドリルだ。以下、状況を箇条書きにしておく。
なぜ工事前に電気を止めなかったか?(東電の思い込み)
東電は高圧線の損傷のリスクは認識していたが、高圧線までは十分な離隔距離があると「思っていた」。
「だから」施工の前に電気を止めなかった。
管路も突き抜けるようなものとは「思っていなかった」。
なぜ高圧線まで掘ってしまったか?(東電の思い込み)
東電は、コンクリート舗装は10センチぐらいの厚さで、その下に砕石、その下に高圧電線が入っている管があると「思っていた」。しかし、実際には東電が思い込んでいたように砕石はなかった。
手順書には「コンクリートの厚さ」についても「砕石がある」とも書いていなかった。
だから作業員は「コンクリートを剥がして」という指示通り、40センチの深さまで掘り進めて管路を突き抜けて、高圧線を傷つけた。
図面はなかったのか?(元の施工者も関電工)
今回の工事を行う場所の「図面はなかった」。
元々の高圧線の敷設を行ったのはいつか?との私の質問ははぐらかされたが、「事故の前か事故の後か」という他の記者質問に「事故後」だと回答。
当時、施工を請け負ったのは関電工で、今回も関電工。
図面もなく「コンクリート舗装を剥がせ」という指示で、作業員を働かせた。
福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント 兼 廃炉・汚染水対策最高責任者の小野明氏は「電力を送る会社ですので、電気に関するトラブルを起こしてしまったことは重く受け止めている。考え方が甘かった」と見解を述べたが、深刻だ。
「損傷リスクがあると認識」「リスクはないと考えていた」は矛盾
さて、東電会見では昨今、「記者質問の1ラウンド目は2問だけ」ルールができている。1問目は「管路の中に高圧電線があるという説明したのか」を念のため質問した。福島第一廃炉推進カンパニー・広報担当の高原憲一氏は「しっかり認識されているし、安全事前評価も行っている。損傷リスクがあることは我々も認識していた。あくまで表層だけを剥がす作業だったので、損傷させるリスクはないと考えていた」という。
損傷リスクを認識していたのに、「表層」が深さ何センチかも言わずに、リスクはないと考えていたという。思い込みで作業員に怪我をさせた事件だ。
右頬と右腕の火傷は「感電」か?
2問目もモヤモヤ解消のために、「作業員は右頬と右前腕の熱傷とあるが、高圧電線に触れたことによる感電か?」と聞いた。高原氏は、「感電ではございません。あくまでアークというものが飛んだんですね。それで火傷した」
あとで調べてみると、「アーク」とは普通の辞書(https://www.weblio.jp/content/アーク)でも「物理学や電気工学では、電気が空気中を通る際に発生する放電現象を表す」と書いてある。アークとは放電だ。
しかし、他の記者質問に小野氏は、「管路を突き抜けたときにスポンと抜けたんだと思う。そこで作業員がおかしいぞと思って現場を離れたと聞いている。その時には実際には剥がし機自体が管路の中に設置されているケーブルを傷つけちゃっていたので、作業員が離れたのは、いい判断だったと思っていて、だから作業員さんは感電はしなかったんですけど、そのあと、現場の様子を見に行ったときにアークが飛んだと聞いている。」
小野氏は「思う」と「聞いている」。しかし、時系列に並べると「管路を突き抜けたときに剥がし機自体がケーブルを傷づけた」。それなら、その時に右腕から電流が入って、右頬に抜けていって火傷したと「考える」のが自然だ。
おしどりマコ記者「医学的には電撃傷」
さらに、おしどりマコ記者が「作業員の方にアークが飛んで熱傷ということだが、先ほど、感電ではないと高原さんはご説明されたが、直接電流が流れることで生体そのものに発生するジュール熱による傷も、高圧電流に近づくことで生じる放電、アーク放電による傷も、両方「電撃傷」として日本損傷外科学会、日本形成外科学会とも、これは感電の電撃傷として医学的には分類します。電力は違うのかと思ったんですが、アーク放電の事故も「感電事故」として電力業界で処理されている。なぜ今回の傷がアーク放電による感電じゃないと説明されたのか?」と追及。
高原氏は「診断書で『電撃症』じゃないという結果が出ているということ。本人の証言を確認した。感電ではないと判断した」。この時点で、決着はついた。診断書に「電撃症じゃない」と書く医師がいるだろうか。(逆に「火傷」と書かせた、思わせた疑いすら、わいてしまう。)
おしどり氏は「アーク放電による傷であれば自動的に「電撃傷」になるんです。電力業界ではアーク放電による「電撃傷」と見なさないんですか?」と更問い。
東電「電気じゃなくて。火の玉みたいなもの」
追い詰められて、ついに、高原氏は、「アーク放電、電気じゃなくて。火の玉みたいなものを受けたということでございます!」
だんだん、漫画みたいになってきた。
おしどり氏は引き下がらない。
「しかし、高圧電流に近づくことで生じるアーク放電なので。高圧電流によって熱傷を負うということは『感電事故』として電力業界では処理されているんですけど。御社は、高圧電流に近づいて火の玉が飛んできて熱傷を受けたのは感電と見なさないと判断されたということ?」
高原氏はこれに「医師の診断書で「火傷」と出た」とさらに強弁。ついに、司会役の広報担当が「繰り返しますが、アーク放電ではなくて火花のようなもの」と恥の上塗りをした。「さっき、アークって言ったじゃん」(私)と思わずぼやいた。
「感電ではない」と3人がかりで言い張る東京電力
おしどり氏はまだ引き下がらない。
「さきほど、まさのさんに『アークが飛んだ』とおっしゃった」。
すると今後は「アークが飛んで火花がかかるということですね」と、絶対に感電とは認めなかった。
会見後、ベテラン記者が「見出しに『感電』と書かれたくないからでしょうね」と感想を述べた。
「アーク」「火の玉」「火花」
なんと表現しようとも、東電および元請の関電工のリスク管理の欠如と指示の悪さによって、2次請け作業員が6900ボルト高圧電線(一般家庭の電圧は100ボルトなので69倍)に掘削ドリルで触れ、右腕と右頬に火傷が残る「電撃症」を受けたと言うしかない。労働災害事件だ。いや、それ以上だ。
ことの本質は、トラブルを軽く見せようと「感電ではない」と記者会見で3人がかりで東京電力が言い張ったことにとどまらない。
日本形成外科学会の「電撃傷」を見ると、「熱傷の一種」ではあるが、「一般のやけどと違い、電撃傷では、局所の損傷がわずかでも不整脈をおこすことがあること、体表面の損傷の広さでは重症度は判定できないこと、時間がたつとともに局所の損傷が拡大すること、筋肉の損傷を伴うことも多いことが特徴」とある。電撃傷を火傷だと軽視することは、作業員の命や健康を軽視していることと同義なのだ。
【タイトル写真】
2024年4月25日、東京電力本社、中長期ロードマップ会見にて撮影。