屋内退避は「深層防護」の何層目の議論か
2024年10月18日に「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」の第6回会合でまとまった「中間まとめ」について、現在、UPZ(5~30km圏)の自治体に意見を原子力規制庁が求めている最中だ。次の会合は11月に開かれる。
会見で原子力規制委員長から得た回答と、私自身の頭を整理して結論から言うと、この中間まとめは、IAEAがいう深層防護の第4層と第5層の両方に関する考え方が示されている、と原子力規制委員会としては考えているということだ。
以下は、その整理の過程を記録した自分自身のためのメモだ。
原災指針「加筆修正、起こり得る」-山中委員長
10月23日の原子力規制委員長の会見では、朝日新聞記者が、この「中間まとめ」(修文版)を受けて、「原子力災害対策指針と非常に内容は関連するところで、原災指針の見直しは今後、委員会で議論をされるとは思うのですが、現段階で委員長として、原災指針に取り入れるとか指針を見直すとかその辺りはどうお考えでしょうか」と尋ね、山中委員長から次の回答を得ている。
貴重かつ当然の回答だ。何度も書いたが、事の発端(2024年1月14日朝日新聞記事「原子力規制委が女川原発視察、女川町長らと意見交換」を必読)は、山中委員長が宮城県内の首長に「委員会で議論し指針を改善したい」と回答したことにあるので、有言実行が求められる。
それでなくても、宮城県の牡鹿半島に立地し、東日本大震災で激しく被災した女川原発(2017年毎日新聞記事参照)の再稼働が、10月29日に迫っている(2024年10月25日産経新聞記事参照)のだから。
「屋内退避」は原子力災害対策の1手段
改めてここで確認しておきたいのは、「屋内退避」は、原子力災害対策指針で、原子力災害時に、被ばくによる確定的影響を回避・最小化し、確率的影響を低減するための被ばく防護の手段の1つであると、政府は考えているということだ。
指針の中では繰り返し「屋内退避」という言葉が出てくる。
(念のため、こちらで「原子力災害対策指針には屋内退避についてどう書かれていたか?」を抜き出した。)
第4層か第5層かの議論
第1回チーム会合では第5層の話だった
屋内退避の議論をすることは原子力災害対策の話、つまり、IAEAの「深層防護レベル5(第5層)の話のはずだった。
ところが、同日会合の資料3では、論点は新規制基準が奏功する3ケース(深層防護第4層)に絞られた。
第2回チーム会合で第4層の話になった
それを受けて、第2回チーム会合からは新規制基準が奏功する3ケース(資料1)、つまり深層防護レベル4(第4層)の話になった。規制庁(本間俊充 放射線防護企画課技術参与)がこんな問いかけをしている。
「対象の事故シナリオというのは(略)深層防護の第4層が奏功しているという状態であって、いわゆる深層防護のレベル5(略)とはちょっと質的に違う」(議事録P17~19)。
この問いかけは長いので、要旨を箇条書きにすると、以下の通り。
原子力災害対策指針は「炉心損傷に至る可能性が極めて高い状態にあるか、あるいはもう既に至っている状態」とした国際的な定義に基づいて福島原発事故後に策定されたもの。
新規制基準で目標にしたのはUPZ内で100T(テラベクレル)であり、線量評価結果を見ると、避難に切り替えることにはなっていない。つまり100Tを上回るような別のケースで、プラントがどういう状態だったら、そういうことがあり得るのかという議論をしないと話が進まない。
縮めていうと、第4層(新規制基準)が機能するなら、放出される放射性物質は100テラベクレルに収まる。原子力災害対策指針は100テラベクレルを上回る第5層の話であり、プラントがどういう状態ならそうなるのかを議論しないと話にならない、ということだ。
迷子になることを意識していた
これに対して、伴委員は「何を議論しているのかって、迷子にならないようにするというのが大事だ」と述べた。
杉山委員は、「対策がうまくいっているかどうかという前提に基づいたストーリーに沿って、屋内退避を最適化するということはできる(略)。いざ事故が起こったときに、どの対策が本当にちゃんと有効に機能していて(略)というのは(略)プラントを見ている人間から言うと、いや、そんなの自信持って言えませんとなってしまいます(略)そこにはかなりの不確かさがあります」
第5回チーム会合の「シミュレーション結果」は第4層の事態
そして「そういった議論を始める前の(略)基礎情報を整えるという意味で、このシミュレーションを提案している」(杉山委員)と説明があり、第5回チーム会合で新規制基準が功を奏した3ケースのシミュレーション結果が出た(既報)。
シミュレーションに使われたデータは事業者が提供したものであり、当然、新規制基準が目標とする「100テラベクレル」以下となる結果に収まっている。
第5回チーム会合での「質疑」は第5層について
しかし、同じチーム会合で参加者と規制庁側の間で取り交わされる質疑は、一貫して、自然災害と原子力災害が複合して起きていることが前提だった。原子力災害対策指針で記載されているさまざまな屋内退避を念頭においた上で、解除やさらなる避難が必要になった時のことを議論していた。第5層の話だ。
結果として、必然的に、チーム会合は、深層防護の第4層と第5層の話が混ざった形で議論が行われた。
9月30日の第5回会合の後の、10月9日の記者会見で、第4層と第5層のことを尋ねたが、山中委員長は最終的に次のように語っていた。
委員長自身は、深層防護の第4層(100テラベクレル以下)と第5層(100テラベクレル以上)を念頭に置いていることが確認できた。
山中委員長「中間まとめは第4層及び第5層双方について」
第6回チーム会合(10月18日)で「中間まとめ(修正版)」が出た後の10月23日記者会見で、私は飽き足らず、また、この第4層と第5層について委員長の認識を問うことにした。モヤモヤが続いていたからだ。そこで得られた答えが以下だ。
2つのことをようやくクリアにすることができた。
原子力規制委員会としては、原災指針は100テラベクレルを超えた、福島第一原子力発電所レベルの災害への対応(第5層)をも想定していると考えている。(原災指針が今まで「絵に描いた餅」と批判されてきた一つの要因は、それが最悪の事故でも放射性物質の放出が福島第一原発事故の100分の1で収まることが前提で作られているというものだった。しかし、山中委員長はそれを否定し、それ以上のことも想定していると回答したことになる)
中間まとめは、第4層及と第5層の双方の屋内退避に関する考え方が示されていると山中委員長は認識している。
ただし、1点目については、別のモヤモヤが新たに生まれてしまう。福島第一原発事故では、最終的には30km圏外を超えて避難が行われた(下図)。にもかかわらず、UPZ圏外の話が原子力災害対策指針には定められておらず、今回も議論の枠の外に置かれたままだからだ。
【タイトル画像】
地味な取材ノート「能登半島地震から学ぶ原発と自治と避難計画」より再掲