また、多重下請け構造下で。汚染水漏れ:東電
忙しい方は、目次から「以下、2月9日時点のノート」へ飛んでお読みください。「保留の解除」とは何のことか?と思われる方は冒頭からお目通しください。
【訂正】「サリー」→「サリーII」→「サリー」に修正しました(2月27日)。
【保留解除のお知らせ 2024年2月11日夜】
2024年2月10日朝に冒頭で加筆した【保留のお知らせ】は文末(*3)に持っていき、見え消しで削除します。なぜなら、保留後、動画(やがてリンク切れする)25分目あたりで、以下(★)の質疑を再確認したからです。その再確認で、私自身、2月8日の会見後に「図では分かりにくいが(オートベント弁を)バイパスする(別の)ラインがある」という説明を受けたことを思い出しました(迂闊にも忘れていました)。それらの東電の説明が正しければ、オートベント弁と手動弁は、別の通り道を持つ2つの別の弁であることになります。
一方、私は「手動弁」と「ベント(大気開放)」を混同して書いていましたので、そこには修正を加えました(修正文には◆印をつけます)。読みにくいノートになり、申し訳ありません。
以下、2月9日時点のノート(少しの修正あり)
初代原子力規制委員長・田中俊一氏は、福島第一原発について「お化け屋敷みたいに次から次へといろいろなことが起こります」(2013年8月21日会見録)と述べたが、それは13年が経っても変わらない。
昨年10月には、多核種除去施設(ALPS)で被ばく事件が起きた(*1)。
昨年12月には、2号機で除染作業を行なっていた作業員が被ばくした(*2)。
2024年2月7日、今度は「第二セシウム吸着装置」(通称サリー)で汚染水漏れが起きた。
ざっくり言うと
ざっくり言うと、セシウム吸着塔を洗おうとして、その作業前に閉めなければならなかった弁をが閉めまっていなかったので、漏れてしまった。もう少し詳しくいうと、「セシウム吸着塔のパッキンを交換」しようとして、そのためにまず、セシウム吸着塔を洗浄して、周辺の放射線の濃度を下げようとしていた。
東電のプレスリリースはわかりにくく、このざっくり話は、2月8日の会見(動画:やがてリンク切れする)で根掘り葉掘り聞いてようやく分かった。
パッキンを交換しようとしていた
「パッキン」の場所は、下図で「点検対象弁」と書いて赤く囲ってある。この「フランジ(接続部)のパッキンから(汚染水が)にじみ出ていた」(東電広報)ので交換しようとしていた。
汚染水は上図左の「入口」から青い管を通って「ろ過フィルター」2本、「セシウム吸着塔」3本を通って(右側2本とメディアフィルターは閉止中)、次の汚染水処理プロセスへの「出口」へと送られていく。
開けたり閉めたりするオートと手動の2種類の弁
汚染水を処理する間は、「ベント(大気開放)」につながる「オートベント弁」も「手動弁」も閉めている◆。該当するところを上図から切り出したのが下図だ。
この2種類の弁は、通水を停止したときに発生する可燃性ガス(水素)を逃すためのものだ。壁に穴を穿ってベントの口を外に出している(下写真の通り)。
水素が出るはずのベント口から汚染水漏れ
今回は、汚染水ではなく「ろ過水」(タンクに溜めてある水)を通水し、セシウム吸着塔を洗浄しようとした。その時、手動で開け閉めする「ベント(大気開放)弁」が開いていたので、ベント口ここから汚染水が出て行ってしまったのだ。
東電は「漏えいした水は系統水およびろ過水」だと説明しているが、高濃度の汚染水からセシウムなどを吸着した塔にろ過水を通して洗浄して出てきたので、いわば「洗浄廃液」だ。
その濃度を東電は220億ベクレル、漏えい量を5.5立方メートル(ろ過水タンクの水位の減り具合などから概算)だと説明しているが、ここでは詳述しない。まだ概算に過ぎないからだ。漏れた汚染水は土壌に染み込んでしまったので、汚染土の回収が翌日から開始されている。
10個中10個が開いていた
なお、開いていた手動ベント弁の数は10個(ろ過フィルター2本とセシウム吸着塔3本に各2個ずつ)。
16個中10個が開いていたという報道もあるが、残り6個は閉止中のセシウム吸着塔右側2本とメディアフィルター1本の弁で、元々閉まっていた。つまり運用中10個の弁のすべてが開いていた。
非意図的に当たって開いてしまった可能性を会見で記者に問われて、東電広報は、開いていた弁は「コック弁であり、ラインと同じ方向で『開』、直角で『閉』となる。10個全部が開いていたのでそれは考えにくい」旨を回答した。(会見では「水平で『閉』」と言い間違えていたので確認した。)状況的に言えば、洗浄前に閉めるべき弁を閉め忘れた、ということなる。
誰の責任か? 設計の問題か?
パッキン交換前の洗浄作業を行っていたのは6人(元請「アトックス」から3人、1次請から2人、2次請から1人)。役割分担は以下の通り。
元請2人は現場の監視・管理、1人は放射線管理員として線量測定を行っていた。漏えいが起きた時は測定を終えて一時的に低線量エリアに待機していた。
1次請1人(班長)は現場の建屋内の隔離された操作室で、弁の操作や手順の総括。
1次請のもう1人と2次請(班長)1人は、手動弁の操作、開閉状態の確認を行なっていた。
またしても多重下請け構造の中で、指示系統がバラバラな中(偽装請負構造)で行われた作業だった。この構造の中で、果たして「閉」となっているべき弁のすべてが「開」となっていたのは誰の責任だというのか。または後述するように設計の問題なのか。
サリーの設置場所が旧焼却炉建屋
当初、「高温焼却炉建屋から水の漏えい」という報道やプレスリリースを見て、なぜ焼却炉建屋から水が漏えいするのか??と混乱した。が、要するに、サリーの設置場所が「事故前は通常の焼却炉では燃やせない金属などを高温で燃やしていた建屋だった」(東電広報)。こんな場所にある。
実施計画には「手動のベント弁」はない
また、オートベント弁や手動のベント弁について「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画」では、どう書かれているのかを確認すると、その描写と現実の設計には少々差があることがわかった。
ここに「手動のベント」は存在していない。オート(自動)と手動の弁が併存する設計であるとも書かれていない。もちろんパッキン交換前の被ばく低減のための洗浄前にベント弁を手動で閉めるものだとも書かれていない。
先述した元請、孫請、ひ孫請の混成作業チームの経験年数などは「確認する」と東電は会見で回答した。
ヒューマンエラーを回避することが考えられていない設計と言い、多重下請け構造と言い、ALPS処理水での洗浄作業と似通っている。
*1 関連する「地味な取材ノート」
・福島第一原発で起きた被ばく事故は原子炉等規制法「実施計画」違反:山中原子力規制委員長
・3週間して初登場の東芝作業員4人と被ばく事故の発端:福島第一
・「元請と2次請の間に1次請をかませる目的」が、ピンハネ以外にまだわからない。#東芝エネルギーシステムズ ほか
*2 関連する「地味な取材ノート」
・1F下請け作業員がまた被ばく:今度はアルファ線の内部被ばくか?
・濡らしたウェスで放射性物質を拭き取る作業
*3 2024年2月10日朝に冒頭で加筆した【保留のお知らせ】は以下に記録し、見え消しで削除しておきます
【タイトル画像】
第二セシウム吸着塔「福島第一原子力発電所 高温焼却炉建屋東側壁面からの水の漏えいについて」 P.2 より