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基準の200倍を議論:福井県の“原子力リサイクルビジネス”

2月5日、「福井県クリアランス集中処理事業に係る意見交換会合」が原子力規制庁と福井県、関西電力、原子力研究開発機構の間で行われた。これが3回目となる。今回は、県が考える「企業連合体」の中身や、原子力規制庁による位置付けが見えてきた。


1.「企業連合体」の正体

既報福井県が考える“原子力リサイクルビジネス”」で書いた通り、この会合は資源エネルギー庁が取り持つ形で始まった。表向きは「原子力リサイクルビジネス」を立ち上げようと考えているのは福井県。だが、意見交換会を傍聴していると規制庁が繰り出す質問に応答しているのは、福井県に加えて関西電力と日本原子力研究開発機構(JAEA)だ。この他に日本原子力発電と資源エネルギー庁が参加している。出席者一覧

2.「企業連合体」の法的な位置付け

これまで原発敷地内で使った「クリアランス・レベル」(たとえば放射性セシウムなら100ベクレル/kg)を下回る金属やコンクリートについては、電力会社等が、放射能濃度を測定・評価して原子力規制委員会に提出し、委員会の確認を受けて、初めて「核燃料物質によって汚染された物でないものとして取り扱う」制度として運用されてきた。「汚染者負担の原則」(*1)から言っても、原発事業者が始末することが当たり前だからだ。そこで、「現時点では法律が想定していない(つまり違法となる)」と書いた。

ところが、今回の意見交換会後のぶさらがり取材で、この日、進行役を務めた黒川陽一郎原子力規制企画課長が、筆者の問いに対して「企業連合体」は「原子力事業者等」(*2)だ、とサラリと述べた。たしかに、原子炉等規制法でのクリアランス制度第61条の2の主語は「原子力事業者等」だが、まさか自治体がこれから創設する「企業連合体」をそこに該当させるなんて!絶句した。「クリアランス推定物」をビジネスにするという新たな概念を、規制庁が法律を解釈するだけで進めていいのか。

3.除染や溶融をすれば基準の200倍でもいい

そして、この「企業連合体」は、汚染金属等を除染や溶融をして、クリアランス基準を満たせばよいと考え、規制庁側はそれを受け止めるどころか、「除染係数を100、溶融係数を100を想定して受け入れる」以上の悪意を持って薄いものと濃いものを混ぜることをしませんよね、と不気味な質問を福井県側に行った。

これは、基準の200倍の濃度のものでも、除染と溶融(=事実上の希釈)によって、クリアランスレベルを下回ればよいという考えを、わざわざ規制庁の方から言い出したことになる。

「意図的な混合・希釈が行われないことをどのように担保するのか」を論点にあげながら、除染や溶融は、「希釈」ではないと、担当者がぶら下がり取材で筆者に主張したことを付け加えておく。

4.廃炉だけではなく稼働中も

この「企業連合体」が考えているもう一つのことは、廃炉で出てくる汚染金属だけではなく、稼働中の原発から出る汚染金属も「クリアランス推定物」として出したいということだ。

意見交換会を始めたときには「本事業は、複数の原子力発電所から廃炉等に伴い発生する廃棄物の円滑な処理や資源の有効利活用」(原子力リサイクルビジネス(クリアランス集中処理事業)について第1回意見交換会合資料1だとしていたが、あっという間に、その間口が広がった感がある。

(*1)PPP(Polluter Pays Principle):1972年、経済協力開発機構(OECD)の環境委員会が、環境政策の原則として採択。汚染対策費は汚染した者が支払う原則。(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構

(*2)法律上では、「原子力事業者等」は原子炉等規制法第57条の8で次のように定義されている。「製錬事業者、加工事業者、試験研究用等原子炉設置者、外国原子力船運航者、発電用原子炉設置者、使用済燃料貯蔵事業者、再処理事業者、廃棄事業者及び使用者(旧製錬事業者等、旧加工事業者等、旧試験研究用等原子炉設置者等、旧発電用原子炉設置者等、旧使用済燃料貯蔵事業者等、旧再処理事業者等、旧廃棄事業者等及び旧使用者等を含む)と書いてある。

【タイトル写真】

2024年2月5日「福井県クリアランス集中処理事業に係る意見交換会合」筆者撮影

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