海洋放出ありきか:34億円→1200億円 88ヶ月→30~40年
8月17日、国際環境NGO FoE Japanは、経済産業省・東京電力、原子力規制庁に「ALPS処理汚染水の海洋放出をめぐる質問書」を提出、回答を巡って更なる質疑が行われた。主なQ&Aだけまとめると以下の通り。以下で省略した代替案などのQ&Aも含め、全文はこちら。動画記録はこちら。
Q:測定から放出まで
海洋放出にあたり、東電は、タンク1000基のうち10基を3群に分け、「受入」→「測定・確認」→「放出」の3工程をローテーションしながら運用」するとのことだが、①その期間は? ②結果公開から放出までの期間は?
【回答(東京電力)】試料採取から、東電、東電が指定する外部機関「化研」、第三者機関「JAEA」の分析結果が得られるまで、2か月程度の見込み。分析結果の公開後、準備が整い次第放出工程に入る。
更問 結果公開から、放出の準備が整えば放出するのでは、一般の人が測定結果を見て、異議申し立てをする時間がない。結果公開から放出までには十分な時間が必要だ。
Q:タンクの7割を占める汚染水の二次処理はいつ?
二次処理が必要な水が約7割存在するが、タイミングは?
【回答(東京電力)】二次処理後の移送先として清浄なタンク(トリチウム以外の核種が告示濃度総和比が1未満になった処理水を入れていたタンク)が空いた状況を踏まえて計画。年間放出管理計画を策定するので、その中で決めていく。
更問:年間放出管理計画を策定した上で放出するとのことことだが、8月22日にも閣僚会議で放出を決定するようなことを言っているが、年間放出管理計画はもうあるのか?福島県技術検討会には出さないのか?
【回答(東京電力)】今はまだいつから放出するか決まっていないので、ない。B群タンク(2023年6月22日付)の測定結果は14万ベクレル(K4エリアタンクB群の一般水質分析結果(公表)。年22兆ベクレル、1リットルあたり1500ベクレルで計画を策定する。福島県技術検討会には出さない。
Q:全タンク群の放射能測定と公開を
測定されたタンクの64核種の結果はばらつきが著しい。すべてのタンク群について詳細な放射能測定を行い公開すべきではないか。
【回答(東京電力)】放出前に、トリチウムを含む69核種の測定・評価は、トリチウム以外の放射性物質が規制基準を下回るまで浄化した水について、測定・確認用設備にて均質化した上で、実施する。
Q:タンクの耐久性
現在、処理水タンクは、いつまで使用が可能か。入れ替え作業は必要ではないのか。
【回答(東京電力)】タンク内外面の点検・補修を継続することにより数十年の使用が可能。不具合が見つかったら移し替えも含めて対応する。
Q:HICの漏洩リスク
ALPS処理の結果生じたスラリー(高濃度汚染された汚泥)が貯められている高性能容器(HIC:ポリエチレン製容器をステンレス鋼で補強した保管容器)に関して劣化による漏洩リスクが指摘されている。対策は?
【回答(東京電力)】順次、新しい容器に移し替えを行っている。スラリーの脱水処理を目的に設備仕様等の設計を進めている。まとまり次第、2026年度中から脱水処理が開始できるように、設備設置を実施していく予定。
Q:海洋放出の費用は
海洋放出にかかる費用総額、内訳は(施設建設、モニタリング費用、風評被害対策費用、漁業者支援基金、IAEAの駐在費用、施設の維持点検保守費用含む)?
【回答(経産省)】経済産業省として把握しているものは、需要対策基金として300億円、事業継続基金として500億円である。IAEA常駐費用はIAEAが負担、詳細は日本政府では把握していない。
【回答(東京電力)】具体的なオペレーションについては現在具体的な検討を進めているところであり、将来も含めて処理水の処分にトータルでいくらかかるかを現時点で見通すことは難しく、また、個々の費用内訳等をお答えする考えはない。
更問:タスクフォースは34億円で済みます、だから海洋放出しますと選んだ。このような杜撰な金額で、海底トンネル合わせて1200億円だ。期間も88ヶ月が40年に。海洋放出は一旦、立ち止まるべきだ。(参照:「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 説明・公聴会 説明資料」2018年経産省 P 32)
更問:これだけ状況が変わってきているのに、海洋放出しかないというのはどういうことか。
Q:魚連との「約束は遵守」
政府・東電は、2015年「関係者の理解なしにいかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留します」と文書で約束したが、この約束は遵守されるのか。
【回答(東京電力)】2015年当時、魚連に回答した方針は遵守し、説明などに真摯に対応する。具体的には安全確保や国内外への情報発信、風評対策など、皆様のご懸念に対して丁寧に説明する。
【回答(経産省)】「関係者の理解なしにいかなる処分も行わず」は遵守する。
更問 「遵守する」というのに「海洋放出する」のは理解できない。
経産大臣への署名提出も
この日は、原子力資料情報室、No Nukes Asia Forum Japan、FoE Japan、Greenpeace East Asiaが呼びかけた署名「福島第一原発事故で発生したALPS処理汚染水を海に流すのはやめてください」も西村康稔・経済産業大臣宛に提出された。
<感想>更問はどれももっともだ。
HIC(ヒックと読む)はすでに放射線による劣化が懸念され、高濃度の放射性汚泥の移し替えが始まっている(差し替え計画)。増え続ける汚染水をALPSで処理すればするほど、HICが増え、HICの廃棄物も増える。汚染水を薄めて海に流せば、事故処理や廃炉に近づいていると思うのは間違いだ。
【タイトル画像】
東京電力「HICスラリー移替え作業の進捗状況」より(2023年4月14日 特定原子力施設監視・評価検討会)