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半世紀を過ぎても未完―高速実験炉「常陽」のパブコメ #GX

原子力規制委員会は5月24日に、日本原子力研究開発機構(以後、JAEA)の高速実験炉「常陽」が新規制基準に適合しているとの原子力規制庁の審査案(審査概要)を了承。5月24日に、パブリックコメントを開始した。締め切りは6月24日23日24時(意見募集サイトはこちら)。

設置許可から53年、臨界から46年!

高速実験炉「常陽」は原子炉等規制法第23条に基づく設置許可を1970年に得て、1977年に初臨界。許可からは53年、臨界からは46年が過ぎた。(びっくりするしかないが、原子炉で運転期間が定められているのは、発電用原子炉だけ。「常陽」のような実験炉は、運転期間の制限がそもそもない。)

2007年事故以来停止

この高速実験炉「常陽」は古いだけではない。2007年には、部品が外れて燃料交換機が破損・変形する事故が起きて(文科省資料参照)、以来16年間も運転していない。

「高速炉」研究開発の失敗

「試験研究用等原子炉」は、実験炉→原型炉→実証炉と進んでから実用化へ向かう。原型炉「もんじゅ」は冷却材のナトリウム火災が起きて先に廃炉が決定したが、一世代前の実験炉「常陽」は残した。それを今回、「新規制基準」に適合したとして、原子力規制委員会が規制庁の審査案を了承した。

実験炉「常陽」の冷却材もナトリウム

実験炉「常陽」の冷却材もナトリウムだ。水や空気に触れると燃えたり爆発したりする。5月24日に審査案を説明した規制庁の安全管理調査官は「常陽の特徴はナトリウム」だとして火災対策を説明。「ナトリウムの漏えい発生防止、漏えいの検知、燃焼の感知及び消火、影響の軽減、これら全ての対策を講じる」とした。

しかし、ことは、実験炉「常陽」が新規制基準に適合しているかどうかという問題にとどまらない。2050年代以降のエネルギー選択を拘束することにつながってしまう。

余談:GXで高速炉は「次世代革新炉」

今年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」では「次世代革新炉の開発・建設」に取り組むとされ、「次世代革新炉」とは何か、参考資料を見ると、「高速炉」が登場する。

GX実現に向けた基本方針 参考資料 P18

しかも、拡大するのでよく見て欲しい。

P18を拡大

2050年でも「試験研究用」高速炉

原型炉「もんじゅ」が失敗で退場、実験炉「常陽」も16年止まっているなか、GXではそれを飛び越えて、実証炉として高速炉を「目標・戦略」に掲げているのだ。これが「次世代革新炉」の姿だ。スケジュール(横軸)には、概念設計、基本設計だけで2030年を超える。過去の遺物は2050年になってもまだ「試験研究用」だ。

2023年GX予算:高速炉だけで76億円

にもかかわらず、既に国会で成立した今年度予算では、経産省がGX支援対策費として、76億円もの「高速炉実証炉開発事業」予算を「新規」でつけた。(総額は国庫債務負担を含め460億円としているが、それにとどまる確証はない。)

出典:経産省「令和5年度経済産業省予算案のPR資料一覧:GX支援対策費
高速炉実証炉開発事業

まだ研究中の高速炉を発電方法に税金を投じようとする、皆さんはどう思われますか?

パブリックコメントの締め切りは6月23日夜中!

最後にもう一度、前半で書いた高速実験炉「常陽」が新規制基準に適合しているとの原子力規制庁の審査案に対するパブリックコメントの締め切りは6月23日24時。意見募集サイトはこちら

【タイトル画像】

GX実現に向けた基本方針 参考資料 P18


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