見出し画像

原子力災害対策指針には屋内退避についてどう書かれていたか?

原子力災害時、政府は人々にどのような場合に屋内退避を求めるのか。

屋内退避は「深層防護」の何層目の議論か」について、頭を整理するために、今さらだが、原子力災害対策指針(以後、指針)では、屋内退避について、どう書かれていたかを振り返った。


指針P3 原子力災害の特殊性

3)原子力災害の特殊性
原子力災害では、放射性物質又は放射線の放出という特有の事象が生じる。したがって、原子力災害対策の実施に当たっては、次のような原子力災害の特殊性を理解する必要がある。
・原子力災害が発生した場合には被ばくや汚染により復旧・復興作業が極めて困難となることから、原子力災害そのものの発生又は拡大の防止が極めて重要であること。
・放射線測定器を用いることにより放射性物質又は放射線の存在は検知できるが、その影響をすぐに五感で感じることができないこと。
・平時から放射線についての基本的な知識と理解を必要とすること。・原子力に関する専門的知識を有する機関の役割、当該機関による指示、助言等が極めて重要であること。
・放射線被ばくの影響は被ばくから長時間経過した後に現れる可能性があるので、住民等に対して、事故発生時から継続的に健康管理等を実施することが重要であること。
 ただし、情報連絡、住民等の屋内退避・避難、被災者の生活に対する支援等の原子力災害対策の実施については、一般的な防災対策との共通性又は類似性があるため、これらを活用した対応の方が効率的かつ実効的である。したがって、原子力災害対策は、前記の特殊性を考慮しつつ、一般災害と全く独立した災害対策を講ずるのではなく、一般的な災害対策と連携して対応していく必要がある。

指針P6 初期段階の防護措置の考え方

2 緊急事態の初期対応段階における防護措置の考え方
(i)緊急事態区分及び緊急時活動レベル(EAL)
全面緊急事態:
全面緊急事態は、原子力施設において公衆に放射線による影響をもたらす可能性が高い事象が生じたため、重篤な確定的影響を回避し又は最小化するため、及び確率的影響のリスクを低減するため、迅速な防護措置を実施する必要がある段階である。
この段階では、原子力事業者は、全面緊急事態に該当する事象の発生及び施設の状況について直ちに国及び地方公共団体に通報しなければならない。また、原子力事業者は、原子力災害の発生又は拡大の防止のために必要な応急措置を行い、その措置の概要について、報告しなければならない。国は、全面緊急事態の発生の確認を行い、遅滞なく、地方公共団体、公衆等に対する情報提供を行わなければならない。国及び地方公共団体は、PAZ内において、基本的に全ての住民等を対象に避難等の予防的防護措置を講じなければならない。また、UPZ(3)2(i)(ロ)で述べるUPZをいう。以下同じ。)内においては、屋内退避を実施するとともに、事態の規模、時間的な推移に応じて、PAZ内と同様、避難等の予防的防護措置を講ずることも必要である。

指針P8 (重点的に原子力災害に特有な対策を講じる必要がある区域について)

1 原子力災害対策重点区域の設定
(略)
原子力災害対策重点区域内において平時から実施しておくべき対策としては、住民等への対策の周知、迅速な情報連絡手段の確保、屋内退避・避難等の方法や医療機関の場所等の周知、避難経路及び場所の明示を行うとともに、緊急時モニタリングの体制整備、原子力防災に特有の資機材等の整備、緊急用移動手段の確保等が必要である。また、当該区域内においては、施設からの距離に応じて重点を置いた対策を講じておく必要がある。

指針P23 緊急事態応急対策

(2)異常事態の把握及び緊急事態応急対策
(略)
・原子力施設から著しく異常な水準で放射性物質が放出され、又はそのおそれがある場合には、施設の状況や放射性物質の放出状況を踏まえ、必要に応じて予防的防護措置を実施した範囲以外においても屋内退避を実施する。
・その後、緊急時モニタリングの結果等を踏まえて、予防的防護措置を実施した範囲以外においても、避難や一時移転、飲食物摂取制限等の防護措置を行う。

指針P25 避難及び一時移転

1 避難及び一時移転
(略)
避難等には肉体的・精神的影響が生じることから、一般の住民等、とりわけ自力避難が困難な要配慮者に対して、早い段階からの対処や必要な支援の手当てなどについて、配慮しなければならない。特に、施設敷地緊急事態要避難者のうち、直ちにUPZ外の避難所等への避難を実施することにより健康リスクが高まると判断される者については、安全に避難が実施できる準備が整うまで、近隣の、放射線防護対策を講じた施設、放射線の遮蔽効果や気密性の高い建物等に一時的に屋内退避させるなどの措置が必要である。さらに、施設敷地緊急事態要避難者に対する避難等の防護措置の実施に際しては、これを支援する者が付き添う場合についても考慮しなければならない。また、避難所の再移転が不可欠な場合も想定し、可能な限り少ない移転となるよう、避難所の事前調整が必要である。さらに、避難が遅れた住民等や病院、介護施設等に在所している等により早期の避難が困難である住民等が一時的に屋内退避できる施設となるよう、病院、介護施設、学校、公民館等の避難所として活用可能な施設等に、気密性の向上等の放射線防護対策を講じておくことも必要である。

指針P25 屋内退避

2 屋内退避
屋内退避は、住民等が比較的容易に採ることができる対策であり、放射性物質の吸入抑制や中性子線及びガンマ線を遮蔽することにより被ばくの低減を図る防護措置である。屋内退避は、避難の指示等が国等から行われるまで放射線被ばくのリスクを低減しながら待機する場合や、避難又は一時移転を実施すべきであるが、その実施が困難な場合、国及び地方公共団体の指示により行うものである。特に、病院や介護施設においては避難よりも屋内退避を優先することが必要な場合があり、この場合は、一般的に遮蔽効果や建屋の気密性が比較的高いコンクリート建屋への屋内退避が有効である。
 具体的な屋内退避の措置は、原子力災害対策重点区域の内容に合わせて、次のとおり講ずるべきである。
・PAZにおいては、原則として、施設敷地緊急事態に至った時点で施設敷地緊急事態要避難者に対して、また、全面緊急事態に至った時点で全ての住民等に対して、避難を実施するが、避難よりも屋内退避が優先される場合に実施する必要がある。
・UPZにおいては、段階的な避難やOILに基づく防護措置を実施するまでは屋内退避を原則実施しなければならない。
UPZ外においては、UPZ内と同様に、事態の進展等に応じて屋内退避を行う必要がある。このため、全面緊急事態に至った時点で、必要に応じて住民等に対して屋内退避を実施する可能性がある旨の注意喚起を行わなければならない。
 前記の屋内退避の実施に当たっては、プルームが長時間又は断続的に到来することが想定される場合には、その期間が長期にわたる可能性があり、屋内退避場所への屋外大気の流入により被ばく低減効果が失われ、また、日常生活の維持にも困難を伴うこと等から、避難への切替えを行うことになる。特に、住民等が避難すべき区域においてやむを得ず屋内退避をしている場合には、医療品等も含めた支援物資の提供や取り残された人々の放射線防護について留意するとともに、必要な情報を絶えず提供しなければならない。
 なお、地域防災計画(原子力災害対策編)の作成に当たっては、気密性等の条件を満たす建屋の準備、避難に切り替わった際の避難先及び経路の確保等について検討し、平時において住民等へ情報提供しておく必要がある。

指針P26 安定ヨウ素剤

3 安定ヨウ素剤の配布及び服用
・安定ヨウ素剤の服用効果のみに過度に依存せず、避難、一時移転、屋内退避、飲食物摂取制限等の防護措置とともに講ずる必要がある。また、誤飲、紛失等の防止対策も講ずる必要がある。

指針P31 復旧に向けた健康評価

4)発災後の復旧に向けた健康評価
原子力災害においては、放射線の被ばくによる健康影響に加えて、長期間の避難又は屋内退避、集団生活等が強いられ、平常な生活と異なる環境下における心身への影響を受ける。

指針P33 緊急時に講ずべき防護措置

1)緊急事態区分及び緊急時に講ずべき防護措置
(略)
・施設敷地緊急事態避難指示区域に一時立入をしている住民等の退去を開始するとともに、避難指示区域でない区域の住民等の屋内退避を準備する。
・全面緊急事態避難指示区域でない区域の住民等の屋内退避を開始する。

指針P36~70

表1-1原子力事業者、国、地方公共団体が採ることを想定される措置等(1/2)〜防護措置等の実施フローの例など

整理して「中間まとめ」との関係で考えた点

上記P25で抜粋したように「UPZ外においては、UPZ内と同様に、事態の進展等に応じて屋内退避を行う必要がある」と書かれている。

しかし、UPZ外(30km圏外)については、それ以上に詳しいことが書かれていないことに、改めて気付かされた。(ちなみに、今回の「中間まとめ」修文版については、UPZ外の自治体には、意見照会が行われていない(既報)。UPZ外の自治体にも漏れなく照会すべきだ。そのように規制庁にはぶら下がり会見で尋ねたが、「その気はない」の1点張りだ)

【タイトル画像】

原子力災害対策指針の目次より


いいなと思ったら応援しよう!