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廃炉の優先順序は?最高責任者の考え #1F

2017年に政府が改訂した福島第一原発(1F)の「中長期ロードマップ」では、2021年12月までに燃料デブリ取り出しが開始されるはずだったが、2024年11月現在、その見込みはない。

廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議
2017(平成29)年9月27日 配布資料1中長期ロードマップ改訂案について 概要資料 より

かろうじて、880トンの溶け落ちた燃料デブリのうち、3g程度が試験的に建屋から出るかどうかという段階だ。

しかし、それは中長期ロードマップで定めたように最優先すべきことなのか。


政府と東電の優先順序は?

通常の原発でさえ、低レベルの放射性廃棄物から片付けを始める(既報)。
福島第一原発で、なぜ最高レベルの燃料デブリを今、取り出そうとするのか。
放射性廃棄物を増加させる地下水の止水が最優先ではないか

常々、聞きたかったことを、福島第一原発の廃炉の最高責任者である小野明氏に2024年10月31日の会見(動画2時間36分~)で、下手な聞き方で聞いた。

まさの:廃炉をするにあたっての国と東電の優先順位をどのように考えていらっしゃるのか。作業員の被ばくが最も少ないことを目指しているのか、スケジュールか。
小野氏:当然ながら安全が一番。安全第一で動こうとしている。だからといって何もやらないで手をこまねいているわけにはいかない(*1)。1Fで作業をやる以上は、なんらかの形で作業員さんの被ばくは当然でてきますし、場合によったら何かが起こるリスクはあります。何もやらなければそういうことはないんですけど、ただそれだと1Fの廃炉は進まないし、長い目で見た時に、今あるリスクはどんどん拡大していくということになる。我々からすれば、当然安全を作業員さんの安全を確保しながら、原子力安全、環境安全をしっかりと確保できる形をとりながら迅速に着実に廃炉を進めるのが大事だと。これがベースにある考え方です。

Q:海洋放出をする前のタイミングで、完全止水、汚染水が出ないようにすべきではないかと聞いた時に、汚染水が増えるし二次処理廃棄物も増えるからと聞いた時に、あのあたりは線量が高いから作業員が近寄れないから止水工事よりも海洋放出をするんだということをお答えになったんですが、今回、3gを取り出すのでさえ24mSv/hよりも低くと課してやっている。その辺の優先順序はどうお考えか、本当に安全第一でやっていると言えるんでしょうか?(*2)
小野氏:今、仰られた水の関係で、もっと早く今やっているような止水みたいなこと(*3)をやったらよかったんじゃないかということを言っているかもしれないんですけど、当然ながら1〜4号までの建屋の周りは昔は物凄く線量が高かったです。だから計画的に作業をやろうとしても場合によっては、5年間100ミリですけど、守れるかどうかわからない作業環境だったと思っています。それは一方で瓦礫を撤去したり作業整備をすることによって、その線量は下げられます。実際に下がっていますので、そういう環境になってきたので、初めて我々は建屋の周りに5号から始めていますけど、止水の可能性があるやなしやところの試験に入ったということになります。

Q:880トンある最も高い線量があるのを優先して扱うということが一方であるわけなので、それは今本当にやることなんでしょうか?
小野氏:何をおっしゃられているのかよくわからないんだけど。我々燃料デブリはできるだけ早くださないといけないと思っている。だって我々今、変な言い方ですけど、管理が我々の手の中にあるわけではないんですよ、あれ。そのことをしっかりやらないといけない。完全に管理しないといけないんです。それをなるべく早く達成するのが僕は一番大事だと思います。
 チェルノブイリを見ていただくとわかるけれども、石棺方式をとったがために何十年も経ってから、まぁ20年か30年かな(*4)当時固めたセメントの「象の足」(*7)と呼ばれていたと思いますけど、そこのところが、もう経年劣化してボロボロに崩れて、外に舞い上がるような環境になったわけですよ。慌てて巨大なドームを作ったということだと私は思っています。そういうことにならないうちに、やっぱり我々はまず燃料デブリをしっかり早めに管理できる状態にもっていくというのは必須だと思います。

Q:取り出したあとのイメージはどういうお考えなんでしょうか?
小野氏:さっきもいっている通り、我々が安全に管理できる状態まで持っていくのが一番大事だと思います。

Q:ですから、保管容器はどうするのかといったような具体的なイメージ、最終形はどうお考えなのか(*5)
A:保管容器の検討なんかはもう始めていますよ。たとえばスリーマイルのいろいろなデータはございます(*6)、今回、試験的に取り出したデブリの分析なんかも、それに生きてくると思いますけれども、そういった形ですでにさまざまな検討も始めているところです。

2024年10月31日の会見(動画2時間36分~)から音声起こし

(*1)優先順序を聞いたのであり「何もやるな」とは誰も思わない。「手をこまねく」とはどのような心境で出る言葉か違和感を感じた。(「果敢にやっている」というセルフイメージを裏返した心境か?)
(*2)「後回しにしてきた地下水止水を燃料デブリ取り出しより優先させるべきではないか」とストレートに聞けば良かったが、聞き方を失敗した。
(*3)
「今やっているような止水みたいなこと」と小野氏は回答したが、現在は地下水汲み上げ、凍土壁、地表面を覆うフェーシングによる抑制策であり、止水工事ではない。
(*4)チョルノービリ原発事故は1986年だから38年。
(*7)チョルノービリ原発の「象の足」は小野氏が述べたようなセメントで固めたものではなく、事故時に燃料含有物質が溶け落ち、水の中を流れ落ちて塊状のものになったとされる(参考:「チェルノブイリ事故の燃料溶融物(FCM)の現状|後編」(三菱総合研究所原子力安全事業本部 石川秀高、2020.3.3)。
(*5)最終形が分からず進める作業より、地下水止水が先ではないかと聞きたかったが失敗した。
(*6)スリーマイル島原発事故では溶融燃料は原子炉内に止まっていたので、事故の種類が違う。燃料デブリの性状もまったく違う。

なお、(*1)の前に「安全第一」だと小野氏は回答したが、燃料デブリ試験的取り出しは、原子炉脇の高線量環境で70〜80人がかりで短時間づつ分担して行われている。このことに関して、「この間、計画線量や孫請ひ孫うけの作業体制もいちいち誰かが聞かないと答えない。聞けば、手元のメモをもとに答えてくださっている。時間が無駄なので、作業員の安全管理のためにも重要ですから、きちんと計画線量がどれぐらいでその日、どれぐらいだったのかということを表にして公開していただきたいんですが、どうでしょうか」と尋ねたが、広報担当(桑島氏)がいつものように「ご意見として承る」と回答し、隣の小野氏は黙っていた。

作業員たちが、自分たちの安全確保が第一に大切にされていると思えるように、同時に自分を大切に思えるように、被ばく線量は公開した方がよいと私は思う。きちんと線量管理をしている(ことになっている)のだから。

まとめ 中長期ロードマップの改訂で優先順位の付け直しを

この間、東電による世界初の6基同時廃止措置における失敗と対応先を見ていて、中長期ロードマップの改訂によって、優先順位の慎重なつけ直しが必要ではないかと思っている。同時に作業員体制の見直しも必要だ。

  1. 今ある以上に汚染物質を増やさない(=汚染物質増加の最大の要因となっている地下水流入の止水)

  2. 劣化したり落下したりすると危険なものからの片付ける

  3. より低レベルのものから片付ける

  4. 3を進める上で邪魔になるある程度のより高レベルなものの片付け

  5. 最後が燃料デブリの取り出し

もちろん、片付けたものの保管と最終処分の工程と形の見える化も必要だ。
しかし、現在は、政府と東電による「中長期ロードマップ」により、燃料デブリの取り出し(第2期)が最優先され、一方で第1期として始めた使用済燃料の取り出しが1号機と2号機で終わっていない。そんな中で数々の「軽微な実施計画違反」(原子力規制委員会の弁)が続いている状況だ。

【タイトル写真】

2024年10月31日東京電力中長期ロードマップ会見にて筆者撮影。

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